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星の花が降るころに 続編

作者:SurfaceRT
 いつものように窓の向こうに視線を移す。金風が木を揺らし靡かせるのが見える。窓から入る寒々しい風はあの独特のにおいを乗せて教室に運ばれた。そう銀木犀である。あの日、あの銀木犀を捨てた日から何日たったであろうか。新しい生活、私できているのかなぁ・・。
                                                ガタン――。
 椅子にかかった衝撃は私を通して机に振動をもたらす。背後を確認すると戸部君の姿が見える。眉間にしわを寄せ、彼を睨む。数秒後、彼は睨まれることに気づいたのかこちらから目をそらし何事もなかったかのように装った。「誰だよ、押してきたの」 戸部君が言うと周りにいた男子たちは自分はやっていないと自己弁明をし始めた。一人の男子が「戸部君が自分からぶつかってきたんじゃないのか」と言いだすのには時間はかからなかった。瞬く間に一人の陰謀論は皆に広がった。男子にしては実に明快な推理だ。何故私がそう思うかと言うと最近戸部君が私によくからんでくるからである。好意があるのか分からないがされる側にとってはただ単に迷惑なものだ。第一なぜ私なのか、さっぱり分からない。そして今、私は戸部君なんかより凛々しく、高貴なあの方。「サッカー部の先輩」へ告白をしなけらばならないのだ。
 チャイムの音が校舎に部活動が始まったことを告げる。いつもは長ったらしい授業が終える至福の時であるが今の私にとっては悲報のほかならない。急いでグラウンドへ行かねば。人影が少なくなった廊下を走る。足音が校内に響き渡る。足を機敏に動かし、階段を駆け下りる。最後の二、三段を飛び降りて行くと僅かな痛みが足に走った。ガラガラになっている靴箱から自分の運動靴を取り出すと未だに新品と見間違える程の白さが目につく。解けかけている靴ひもを結び、靴をはいて外へ出ると肌寒く吐く息が白くなっていた。軽快に大地を踏みしめ、運動場の砂を飛ばす。視界の遠くにサッカー部の更衣室が映りだされた。彼らにとっては助走にさえならない距離でも非運動部の私にとっては永遠と続く砂丘にさえ見える。呼吸を荒くして走り続けやっとのことで行先に着いた。サッカー部の男子たちが吸う人塗装が剥がれかけたベンチに座っている。このことから察するにどうやら間に合ったようだ。私はそっと胸を撫で下ろし、先輩の姿を探す。屋外にはいないようだ。ということだと部屋を手当たり次第に見ていく事になりそうだ。三部屋ほど探し終えた頃、右端の部屋から物音が聞こえた。私はわずかな期待を抱きながら部屋の前へと走りドアノブを握る。ひんやりと冷たい感覚が手に伝わった。ゆっくりと手で握った銀色に輝く金属物を捻ろうとしていると二人のものが会話をしている声が聞こえた。一人の声は変声期を迎えた重低音の声であった。間違いない先輩の声だ。もう一人は聞きなれた女子の声だった。そう夏実である。何故二人が密室で話しているのだろうか。理解できずにいると扉の向こう側から会話が聞こえてきた。「今日、お前の家言っていいか ?」 先輩が言うと夏実が答えた。「はい、いいですよ」 この言葉を聞いた途端、いきなり鼓膜が破れたかのように私の世界から音という音が消えた。家へ行くというのはどのような関係なのだろうか。いつも行っているのだろうか。 マイナスな考えが頭を回り巡りそれは思考をじわじわと蝕み、肥大していく。足元に数粒の水が落ち、砂漠の中のオアシスのようにそこだけが滲み色が変わっていく。暗く染まる空。茶色と化す木の葉。職員室だけが灯される真っ暗の校舎。カラスは漆黒の体を寄せ喚く。冷徹な表情をした西風が吹き、大樹は力弱そうに立ち哀愁を漂わせる。視界に映る全ての物は私の心情を表しているかの様であった。
 そんな世界の中にある人が現れた。戸部君だった。私は彼を見るなり走って逃げだした。何も考えずに走り続ける。黒いコンクリートの坂道を抜けると未舗装の道が敷かれていた。道というより二本の草の線によりやっと成り立っているかのような荒れたものだった。足への疲労が蓄積し、限界を感じ始めたころ、あの見慣れた風景が近づいてきた。公園だ。私は青々とした芝生に寝っ転がる。冷たくなった大地はやさしく私を包み込んでくれた。真っ赤に充血した眼を閉じる。そうしていると足音が聞こえてきた。足音の主は徐々にこちらへ向かってくる。足音がならなくなったので目を開けると戸部君がこっちを見て笑みを浮かべていた。突然の出来事に動揺し、動かないでいると「あのさぁ・・」と戸部君が言った。まさかさっきのことについて話すのだろうか。不安や恐怖が急に湧きあがる。「お前、この公園好きだよな」笑いながら彼は言った。分からない。やっぱり戸部君って訳が分からない。なんだそんなことか、と安心するとともに口が勝手に動き出した。なんでこの公園が好きなのか。今までどのようなことをこの公園でしてきたのか。もちろん、あのおばさんのことも。話が終わることには空は真っ暗になっていた。頭上に浮かぶ白い星は夜空に光輝く星よりも、月よりも堂々と、美しく輝いている。

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