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【社会】

ノーベル賞大隅さん、夫婦で会見 偉業達成「妻が支え」

ノーベル医学生理学賞に決まり、花束を受け取り顔を見合わせる大隅良典・東京工業大栄誉教授と妻萬里子さん=4日午前、横浜市の東工大すずかけ台キャンパスで

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 「四十数年の付き合いで、いろんな意味で支えてくれた」。ノーベル医学生理学賞の受賞決定から一夜明けた四日、東京工業大栄誉教授の大隅良典(おおすみよしのり)さん(71)と妻萬里子さん(69)はそろって記者会見に臨んだ。苦労の末の偉業達成。夫婦で喜びを分かち合った。十二月十日の授賞式にも夫婦そろって出席するという。

 研究室がある東工大すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)の会見場は報道関係者だけでなく、多数の大学関係者や学生であふれかえった。大隅さん夫妻はカメラのフラッシュと拍手を浴びて入場。花束を贈られて写真撮影に応じた。

 東大大学院の同じ研究室で出会い、勢いで学生結婚したという二人。大隅さんが自分を支え続けた萬里子さんへの感謝の弁を述べると、萬里子さんは「見かけ通り穏やかで一緒にいて心が落ち着く」「いいかげんなところもあるが『良い加減』でやってこられました」と笑顔で応じ、仲むつまじさをうかがわせた。

 大隅さんは「自由に研究できて恵まれた。皆さんに感謝申し上げる」と話し、自らの経験を振り返って「若いうちに海外に出て、異文化に接する経験が大事だ」と後輩たちにエールを送った。

 萬里子さんは三日、大隅さんから受賞決定を電話で伝えられた際の様子を明かし「夫は私をだましたり、からかったりする。ノーベル賞と言われて、うそかなと思ったが本当で。心底驚いた」と述べ、笑いを誘った。

     ◇

 大隅さんは四日早朝には、東工大大岡山キャンパス(東京都目黒区)で報道各社の取材に応じ、長年情熱を注いできた研究への思いを語るとともに、「志ある人が折れずにサイエンスに向かえる社会に少しでも近づいたら」と訴えた。

 前夜の記者会見と同じ濃いグレーのスーツ姿。神奈川県大磯町の自宅には戻らずホテルで三時間半ほど眠ったという。「まだ昨日の延長みたいなもの。のんびり帰ったら、その時心境の変化があるのかな」

 三日の記者会見では基礎研究の重要性を訴えた。この朝も「若者がやってみようと思えるぐらいの環境がないと。未来のために基礎的な研究を支える社会になってほしい」と語った。

 受賞決定の知らせの後、二〇〇一年のノーベル化学賞受賞者の野依良治(のよりりょうじ)さんと電話で話した。「(授賞式を)楽しんできなさい」とアドバイスされたと明かし、「晴れがましいところは苦手」と苦笑いした。

 酒好きでも知られる大隅さんだが時間がなく祝杯はまだ。「研究室のみんなが乾杯しているのを見て、ああ、早く(祝杯を)挙げたいなって」とほほ笑んだ。

 東工大によると、栄誉教授とは、名誉教授の要件には達していないものの業績の顕著な人に対し、東工大が独自に付与している称号という。

◆「自然に負荷掛けず生活を」 消費社会に疑問

 大隅さんは、一二年に受賞した京都賞の講演会で「遠い将来を見据え、いかに自然に負荷を掛けずに生活できるか、生物に学ぶことがある」と語り、現代の消費社会の在り方に疑問を投げ掛けていた。

 大隅さんは、細胞が自分のタンパク質を分解して再利用する「オートファジー(自食作用)」の研究について話した後「京都の魅力の一つは美しい紅葉だ」と切り出した。

 「紅葉は、葉を落とす前に緑色の葉緑素などのタンパク質を分解して回収し、次の春に備えている」と自食作用と絡めて説明。「生物は貴重な資源をむやみに消費しない。分解は『新生』への必須の過程だ」と自然界の巧みな工夫をたたえた。

 江戸時代には日本人も「生産と消費を無駄なく工夫し、心豊かな生活を送っていた。エコ社会だ」と高く評価。一方で「産業革命以降、科学技術の進歩により生活を変化させ、電化製品など多くの人工物を作り出した。原子力もその最たるものだ」と指摘。「さまざまな生産活動をする以上、資源の有効利用と、的確な処理の方法を意識すべきだ」と暮らしの在り方を変える必要性を指摘した。

 一一年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故についても言及し「(私たちの)生活の基盤がそれほど盤石ではないことを痛感した」と振り返った。

 

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