野外ロックフェスのビールはスイカで購入-片手で楽々、現金不要に
- 電子マネーの買い物利用は20年度末までに1日800万件へ-JR東
- 米アップルの最新端末iPhone7も10月から利用可能に
日本最大規模の野外音楽イベントが新潟県湯沢町で7月に開催された。20回目となるフジロックフェスティバルは天候にも恵まれ4日間で延べ12万5000人がロックのリズムに酔いしれた。会場内外の飲食やグッズ購入は、今回からJR東日本が展開するSuica(スイカ)などの電子マネーで支払えるようになり、現金が不要となった。
都内のIT関連企業に勤務する奥山藍氏(37)はイベント参加の直前、スイカに3万円分をチャージしたと明かす。「財布を取り出し、お金を選び、おつりの小銭を財布に入れて、財布をバッグにしまう、これらの一連の手間が省けてとても便利」と電子マネーの利便性を語る。「特にフェスでは、常に片手にビールを持っていて、もう片方の手だけで財布を取り出すのは至難の業」と取材に答えた。
JR東日本は早くから電子マネーの普及・拡大に取り組んできた。交通機関の利用を除いたスイカによる買い物で、2020年度末までに1日当たり800万件の利用を目指し、さまざまな可能性を模索している。これまでの1日当たり最大利用件数は8月5日の575万件で、今後はその4割増の水準に引き上げる必要がある。同社のIT・Suica事業本部担当部長の山田肇氏がインタビューで明らかにした。
観光地やイベントの開拓に注力
山田部長は「フジロックは来年もぜひやりたい。既にいろいろな所で短期開催されている肉フェスでは昨年から導入しており好評だ」と述べ、「これまでスイカ利用のターゲットは駅ナカ、次に街中、そして今は観光地やイベントの開拓に注力している」という。 例えば鎌倉で、日本最大級の本尊である十一面観音菩薩で有名な長谷寺の拝観料も支払い可能になっている述べた。
スイカはJR東日本が開発し、01年導入の非接触型ICカードシステムの乗車カードで、電子マネーとして広く普及している。山田部長は、スイカ発行は既に6000万枚を超えていると明かす。日本人の約半数が所持していることになる。同社は韓国サムスン電子や国内メーカーの携帯端末に加え、10 月から米アップルのスマートフォン「iPhone7」など最新端末でも鉄道やバス、店舗でスイカの支払いが可能となるサービスを導入すると発表し、普及拡大を目指している。
日本銀行の8月の発表によると、15年の国内電子マネーの決済動向は件数で前年比16%増の46億7800万件、決済金額は同16%増の4兆6443億円だった。1件当たり決済金額は993円。また、日本クレジット協会の統計によると、15年のクレジットカードによる買い物などの決済金額は同7.7%増の49兆8341億円で、現金に次ぐ決済は依然としてクレジットカードが圧倒的な割合を占めている。
調査会社セレントの柳川英一郎シニアアナリストは、日本が現金社会なのは「一番便利で不自由がないから」と指摘する。街中に最新式の現金自動預払機(ATM)があり、安心して財布を持ち歩ける治安の良さも背景にあると話した。日本では10万円のテレビを電気店で現金で買うことは決して珍しいことではないという。
キャッシュレス指向の社会へ
テンプル大学日本校のジェフ・キングストン教授は「過去30年にわたって、現金が決済の王座の地位から少しずつクレジットカードに浸食されるのを見てきた。そして今、スイカや他のプリペイドカードが消費者の決済手段に変革をもたらそうとしている」と指摘する。「われわれは現在、キャッシュレスの指向性をもつ社会に向かう途上にいる」との見方を示した。
山田部長は「電子マネーを始めた時、ライバルは現金だった。今では現金に替わり、仮想通貨のビットコインとか中国オンライン決済のアリペイとか次々と出てきている」と指摘。「最終的には、お客さまが便利だと思った所にシフトしていくのだろう。それらに打ち勝つためにどんなサービスをしていけばいいのかが、私の心配事」と語った。ライバルは多いが、「日本ではナンバーワンの電子マネーになりたい」と付け加えた。