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片付ける(×)
「どこから、やりますか?」
「いる物はそのテーブルの上に置いたから、後は捨てて。冬眞兄ちゃん、仕事に行けなくさせて、ごめんね」
夏海は冬眞に謝る。
「別に良いですよ。でも、酷いですね。私は何も悪いことはしてないのに、夏海ちゃんは僕のせいだって、思ってるよね」
「だって、原因を作ったのは私じゃないのよ。お兄ちゃんにあるじゃない、違って?」
そう言われ、冬眞は黙るしかなかった。
「ねえ、でしょう?」
「そうですね。でも、直接僕が何かをしたわけじゃありませんよ。ところで、気になったんですが、夏海ちゃんはどうして、藁人形とかをこんなに可愛がるんですか?」
「分からないか? そうかもね。だって、これら全部冬眞兄ちゃんが好きだから、私に送ってくるんでしょ? そうしたら、喜ばなきゃ。私の夫はこんなにみんなに思われているのよって。ちょっと自慢」
その言葉を聞き、冬眞は顔を赤らめる。
「夏海ちゃん、それは反則です」
「えっ? 何が?」
そう言った時には、夏海は冬眞の腕の中にいた。
「えっ? えっ? どうしたの、冬眞兄ちゃん?」
「可愛すぎますよ。夏海ちゃん」
「えっ? 私、何もしてないよ」
夏海がそう言うと、冬眞は笑う。
「夏海ちゃんは、そのままでいてください」
「私には、変わる気はないけど、お兄ちゃんごめんね」
夏海が何を謝ったかを、正確に読んだ冬眞が言った。
「別に、これのために仕事を休んだ訳じゃありません。言うなれば、新婚生活を満喫するためです」
ニヤリと冬眞は笑った。
「満喫って」
「可笑しいですか?」
「可笑しすぎだよ。どう満喫するの?」
「僕は夏海ちゃんと過ごせるだけで、十分満喫出来ますが、そう言うってことは、夏海ちゃんは違うんだね」
悲しそうな表情で冬眞は、言う。それに、夏海は焦る。
「私だって、冬眞兄ちゃんと過ごせるだけで、幸せだけど、冬眞兄ちゃんは私に全然手を出して来ないじゃん。ある意味私って女として、魅力ないのかって、心配になるよ」
と、夏海は心配そうに言う。
そう言うと、誤魔化すように、夏海はゴミ袋に割れた鏡やら、欠けているクシや皿などを入れていく。
「心配は無用ですよ。って前に、僕言いましたよね。忘れてしまったのかな。僕は我慢してるって」
冬眞の服の裾を握りしめ夏海は言う。
「我慢何かして欲しくない。だって、私だって我慢してるんだから」
最後が尻蕾になるが、冬眞に優しく夏海は押し倒され、そして唇を奪われていた。
「そんなこと言われたら、僕もう我慢何か出来ませんよ。でも、ごめんね、夏海ちゃん。我慢させちゃったみたいで。もう少し先まで進んで良いかな」
冬眞の言葉に夏海はコクンと頷く。冬眞は夏海の首筋にキスを落とす。
そして、嘗める。
「ゥン」
鼻に抜けるような声を、夏海は出す。それに気を良くした冬眞は服の裾から手を入れ捲る。ブラジャーを早急に取ると、胸を出す。
「恥ずかしいよ」
そう言って、胸を隠そうとするが、冬眞によってそれは阻まれた。
「隠そうとしないで。綺麗だから。あれ触ってもいないのに、おかしいな。立って来ましたよ」
「分かんない。でも、もう触って」
夏海は涙目になって、冬眞の手を胸へと導く。
「すいません。ちょっと、苛め過ぎちゃいましたね」
冬眞はそう言って笑う。そして胸の頂を転がされ、夏海は喘ぐ。
「アァァン」
「気持ち良いですか?」
「冬眞にもやって上げる」
夏海が手を伸ばそうとした瞬間、その手を取られる。
「何で?」
「今日は僕がやりたいんです。夏海は後で、感想を聞かせて」
夏海はそれに頷いた。
冬眞のやりたいようにやらせることにした。
でも、我慢出来ず、冬眞に抱きつく。
そして、冬眞に胸に押し付けると催促する。
「もっと」
冬眞は、そう言われ乳首を弾く。
「おお、良い弾力」
「誰と比べているの?」
「誰と比べているって言われたいですか?」
面白そうに、意地悪く冬眞は聞く。それに夏海は力強く言った。
「誰と比べられたって、平気だもん。お兄ちゃんを満足させられるの私だけだもんね」
「そうですね。僕を満足させるのは、昔も今も夏海ちゃんだけです」
それを聞いて、夏海は嬉しそうに笑う。
「良かった。でも、お兄ちゃんは私がもし、誰かと比べたら、嫌?」
「う~ん。僕は心が狭いのかもしれません。あまり良い気はしませんね。だけど、夏海ちゃんがもし仮に誰かと僕を比べたとしても、そんな相手に僕は負けませんから」
「冬眞兄ちゃんなら負けなさそう」
と、笑って言った。
「誉め言葉だと思っておきます」
冬眞は夏海の服を脱がせると、胸を今度は揉む。
「アッ」
「夏海ちゃん我慢しないで。感じて」
「でも、下が何か変なの。下から何か出てる」
「下を見て見ましょう。病気かもしれないから」
「やだ、恥ずかしいよ」
夏海は股を硬く閉じる。それに、冬眞は笑うと、何なく開いてしまう。
「はい、無駄な抵抗は辞めて下さいね」
そして、下を一気に脱がす。そこは、夏海の密で洪水になっていた。夏海が顔を隠すと、その手をどける。「夏海ちゃん、可愛い」
冬眞は、夏海の目を見て面白そうに言う。
「感じすぎちゃったかな? 大丈夫、夏海ちゃん?」
「大丈夫じゃない。冬眞何とかしなさいよ」
「あっ、お兄ちゃんが抜けると、感じ変わりますね。僕も来ました」
そう言って下半身を押し付けてくる。そこには、大きくなった冬眞がいた。
「うわ~、大きい。でも、なんだ、お兄ちゃんも感じたんだ?」
そして、上下左右に腰をこすり付けてくる。
「ええ。凄く良かったですよ。夏海はどうでしたか? 気持ち良かったですか?」
夏海は涙目で言った。
「良かったよ」
そう言って、抱き付く。冬眞の前には、夏海の胸があった。
「これは、参りましたね。そう来ますか?」
そう言って、頭を掻く。
「う~ん、でこの後はどうすれば良いのかな?」
夏海が聞くと、冬眞は困りながら言った。
「入れたいのは、山々何ですが、それはちょっとね」
「じゃあ、舐めて上げる」
そう言って、夏海は冬眞が止める暇なく舐めた。
ペロペロと初めは頭の方だけを舐めて次第に上から下へと行った。初心者だから、どう行くか分からず、冬眞を感じさせた。
「夏海、すごく良いよ」
そして、冬眞は夏海の顔を外させ行った。夏海の胸元にそれはかかった。
「何で?」
夏海が不満気に言う。
「汚いからです。飲んで欲しく有りません」
冬眞はそう言って、夏海にかかったのを、綺麗に拭く。
「私は飲みたかった」
「また、いつかね。それより夏海は大丈夫ですか?」
そう言って、冬眞が触ると、すごく濡れていた。
「我慢出来ませんよね。僕だけ先に行って申し訳ない」
そう言って、冬眞は舐める。
「ダメ、冬眞狡いよ。私には飲ませてくれないくせに」
「僕も同じです。舐めているだけ」
「でも、飲んでいる」
「そこが男女の差です」
「そんなの狡いよ」
「身体の作りの文句なら、神様にどうぞ」
「ああ、もう行っちゃう」
その瞬間、何故か夏海は冬眞の頭を遠ざけず押さえ込んでいた。
「どうやって、神に文句言えるの」
「死んでから、お願いします」
笑って冬眞は言う。それに夏海は憮然とする。
「って、ことは生きている間に出来ないじゃん」
「そうですね。でも、この作りには神に僕は感謝ですけどね」
「そう言われたら、私も神を怒れないよ」
そう言って、夏海は冬眞に抱き付く。
「不味かったでしょ?」
「いえ、美味しかったですよ」
「やっぱり、冬眞だけ狡いよ」
「ハハハハハ。何とでも言って下さい」
そう言って舌を少し出し嘗める仕草をする。
それを見ると夏海は怒る。
「さぁ、早く部屋を早く片付けてしまいましょ。じゃないと廉さんが帰って来てしまいますよ」
そう言われ、夏海は慌てて片付けて行く。
そうして、ゴミ袋8個にも及ぶ藁人形は片付けられた。
「終わった」
テーブルの上には冬眞が思った2つと、後1個あった。それは、なんの変哲もない、逆に不自然と思える普通の物だった。
「これは、なぜ?」
「分からないかな? これは、面白いよ」
「面白い?」
それに、冬眞は怪訝な顔をする。
「だって、脅迫状と一緒にそれを報せる手紙も同封されているんだもの。どっちも暗号だけどね」
「知らせるだけなら、暗号じゃなくっても、良いですよね」
「たぶん、知らせてきた者も、知らせて良いか迷っているのね」
「迷ってる?」
「そう、だから私が読めたら、助けようってね」
「でも、もう一つが暗号になって親切にも自分の犯行を告白するって、何でしょうね。相手に警戒心を与えるだけじゃありませんか?」
「止めてもらいたいのかもね」
「止めて欲しいなら、殺らなければ良いのに」
「もう、どうして良いか自分でも、分からないんだよ。自分じゃ止められないから、きっと苦しんでると思う」
冬眞はそれを聞き、改めてそれを見る。手紙は2枚入っていた。
1枚目は、結婚を祝うもので、なぜか二重になっている文字があった。それには、こう書かれていた。
【夏海ささん冬眞さん結婚おめでとうございます。相変わらず、暑い日が続ききますが、皆さん夏バテなどはしていませんか。夏バテなんかせず、この夏を乗りきって下さい。結婚して初めての夏たたのしんで下さいね。さるる7月28日、我が家のホテルのオープンきねんパーティを催します。是非、みなさまでおここし下さい。近くにきょうかいもあるこことですし、2回目の結婚式をこで挙げらられれては、いかがでしう? きっと、ロろマンチックだと、思いますよ】
「二重になっている文字を読むと<さきたるこられろ>ですね。これは」
「そうアナグラム」
夏海の言葉に、それまで気にも止めていなかった招待状の手紙に、冬眞は目をやり、表情が曇る。
夏海にアナグラムと言われ、並べ替える。そこには、【きたらころされる】と、ご丁寧に書いてあった
「あっ」
「親切よね」
冬眞もそれに気づく。
「でも、二重になっているからって良くわかりましたね」
夏海は笑いながら言う。
「そりゃそうよ。もう一つの方を見なさいよ」
そう言われ、冬眞は見る。
「えっと。なつみ山、忍三御結婚御目出塔 相川等図、暑胃日我続来升我、胃可我、御過後四出市世宇可? 申七月二十八日、我画家野補手留野御ー分記念派ー手胃催四升。是非、美名嵳真出御越四下差鋳。近区二機世卯会藻亜留事出素紙、二回目野結婚式をこ小出挙下手歯如何出子夜卯化? 来津戸、ろ万置柘駄戸思胃真す」
夏海の言葉に、気にも止めていなかった招待状に、冬眞は目をやり、表情が曇る。
それは、漢字が羅列されていて、何かわけの分からない異様なものだった。だがよく見てみると平仮名がそれには混じっていた。
「こっちの方が分かりやすいですね。夏海を殺すですね。さっきは殺されるだったのに、今度は、殺すですね」
「ねぇ、一方が殺人予告で、もう一方はその殺人を警告する文よ。どちらも頭を悩ませた割には、稚拙すぎよね」
そう言われ、冬眞は言う。
「学生なら、よくやったレベルじゃないですか?」
「プロを使ってないわけか。今回は軽いわね」
「そうでしょうか? プロじゃない分、逆に僕は怖いです」
「そうか? でも、逆に私に火が付いたわ。これはのがせないよ。おじいさまに行っていいか聞いてこようと」
夏海は、豪造の部屋に鼻歌を歌いながらスキッブして行く。
「おじいさま」
「なんじゃ?」
「行って良い?」
その招待状を見せる。
「あ~、何じゃ? ああ、それか? きちんと、自分の身を守れるなら、行って、良いぞ」
豪造は脅迫状だと言って、いないのに、一目見て、気づいたようだ。
「うん、守る」
「念のため危ないから、廉も連れて行きなさい。家にも一宮からは確か招待状は来ておる」
「うん、わかった」
夏海たちは、廉の帰りを首を長くして待つ。
廉が帰ってくると、夏海がもう我慢できないとばかりに、聞く。
「ねぇ、行って、良い? 良い?」
訳の分からない廉は、訝しげに言う。
「何がだ?」
冬眞が、それに説明する。
「我々の予想は、外れていました。3つでしたよ、その1個があれです」
リビングへと案内する。
そして、招待状に目をやり怪訝な顔をする。
「一宮か?」
廉は見ただけで、脅迫状だと気付く。憎々しげに言う。廉は首を左右に振りながら、ネクタイを緩め、背広を脱ぐ。
それを夏海がまるで、女房になったように受け取る。
「悪いな」
「どうして、一宮って、簾兄分かるの?」
「お前らどこのパーティーに行くつもり何だ?」
そう言われ、夏海は初めて招待状に目を止める。
「これじゃあ、差出人書いてなくとも、誰からか丸分かりだね」
「俺のとこにも、このパーティーの誘いが何度も来たからな」
一宮も神崎に遠く及ばないが、大企業である。でもその仕事の仕方はまるで違う。
かなり、悪どい商売をしていて、噂では、死んだ者も少なくないと言う。噂だから、どこまで、本当かはわからないが、廉の知る限り、共に仕事をしたいとは思える相手では、なかった。と言うかご遠慮、申し上げたい。
度か仕事の打診があったものの、その都度丁重にお断り申し上げた。
はっきり言って、そのやり口があまりに、スマートじゃない。それは、廉の美的感覚が拒否していた。
まあ、早い話が一宮の仕事のやり方が、嫌いなのだ。
大企業である以上、綺麗事だけで語ることはできない。
それは、神崎も一緒だ。
一宮と内情は対して変わらないだろう。
特に、シビアな性格の持ち主である廉は、仕事に情を持ち込むことは一切ない。
だから、恨んでいる人間は、さぞかし多いに違いない。たぶん、恨み辞典なる物を作ったら、立派な辞書が一冊出来上がるに違いない。
でも、それが上に立つと言うことだ。人より恵まれた環境であると、言うことは、それだけ人として失うことも、また多いということだ。そこは安寧とは無縁の世界。ある意味、孤独が支配する世界だ。しかし、それを享受できなければ、上にたつ資格ない。
でなければ、企業は簡単に揺らぐ。たとえ、大企業でも、一度揺らげば、すぐ取って代わられる。けして、この世に不変な物などありはしない。だから、廉は情を捨てる。優しさよりシビアさを。
それが、グループで働く物たちの生活を預かる者の役目だからだ。だから、神崎家の面々は、それを甘受している。といっても、それは向けられる感情にだけ、実際危害を向けてくる者には容赦はしない。
じゃないと、どうなるかは夏海の親で実証済みだからだ。
「とはいえ、お前わざわざ犯行を、親切に教えてくれているのに、自分が殺されるかもしれないと分かっていて行くつもりか?」
「これに行かなくってどうするの?」
ワクワクした顔の夏海。
「もちろん、廉兄も行くのよ?」
「ハァ~?」
「お爺さまに聞いたら、家にもパーティの招待状来てるから、念のため廉も連れていきなさいって」
「廉さん、夏海嬢がこう言っている以上諦めが肝心ですよ」
「なぜだ? バトンタッチしたはずなのに」
ガックリ肩を落とす。
「だって、僕じゃ、まだ役不足ですからね」
「それってある意味悔しくないか?」
「廉さんなら悔しくありませんよ」
「あっそ」
拍子抜けしたように、廉は言う。
冬眞はおかしそうに、笑う。
「お爺さまから了承を得ているし行ってくれるでしょう? やっぱダメ?」
「来週は確か会議が」
と言おうとし、夏海によって潰される。
「ああ、その点は平気、渋木さんに確認したらその日は何が何でも開けますって。言ってくれたよ。渋木さんって本当に優しいよね。やっぱ、廉兄ダメ?」
夏海は恐る恐る聞く。
そう言われ、廉は嘆息する。
「行きたいんだろう? でも、これ以上は危ないと私が判断したら帰るんだぞ。いいな?」
「うん」
夏海は嬉しそうに頷き、廉に抱きつく。
「だから廉兄って好き」
「そりゃ、どうも。で、おじいさまの診断結果は?」
それを聞き、決まり悪げにする夏海。冬眞が苦笑いで答える。
「どうやら、我が家で一番繊細だったようですよ。重度の腱鞘炎だそうです」
それを、聞き廉は思いきっり吹き出す。
「やはりそうか、でも重度って事は、そんなに飛ばしたか? まぁ、いい薬になっただろう」
廉は笑って、着替えてくると言って、夏海が背広をわたすと、廉は笑顔で礼を言っていて、リビングを出た。
でも、向かったのは自分の部屋じゃなく、豪造の部屋だった。
「父さん、本気で行かせる気ですか?」
ちょっと怒り気味に廉は言う。
「本気じゃ」
それに、豪造は、あっさり言う。
「いつまでも、閉じこめておくことはできまい。多少、危険はあるが、夏海は身をもってそれを知っている」
「しかし」
豪造はこれまで、夏海に危険がないよういつでも目を配ってきた。
「今後、夏海を守るのは儂じゃない。寂しいが、お前達じゃ。世代交代の良い時期じゃ。今回が、お手並み拝見の場としては、一番良い」
いったい豪造に、どんな心境の変化があったのだろう。
「それに、今回は一宮の長女があれを買っている」
調べられることは、調べたってことか?
「ここまでわかって言て、お前が何も手が打てんとは言わせぬよ」
豪造に試すようなことを言われ、廉の頭には、カーッと血が上る。
だから、技と笑みを作り言う。
「それこそ、まさかでしょう? これでもあなたから、京極を受け継いだという、私には、自負がある。息子さんを差し置いて、冬眞から、その場を奪ったのに、私には立ち止まっている時間はありません。だから、信頼されこそ、疑われるのは心外と言うもの」
廉の瞳には、はっきりとわかる怒りが現れていた。
豪造と廉の間にピーンと糸が張り詰めた。
コチコチと時計の音がやけに大きく響いた。
ずっと、続くかに思われたその静寂を破ったのは、豪造だった。
深い溜め息を付くと、豪造は言う。
「お前のことは、信頼しておるよ。実子の冬眞よりもな。儂はある意味、冷徹なのかもしれん」
「それは、冬眞には言わないで下さい。あいつも、私と一緒であなたに認められたくて必死ですから」
「分かっておるよ。でも、お前儂よりも冬眞を買っているな」
「そうですね。彼は私と同種ですよ」
「同種とな?」
「ええ」
「どんな同種か、是非聞きたい」
「あなたに認められたいってお互いに思っていますよ」
「そうか。でも、お前を信頼してなかったら、お前にも託したりせぬよ」
それは会社のことだけではなかった。
廉は豪造の言わんとしていることを正確に悟る。
それは、夏海のことだった。
夏海を育てたのはある意味、廉だった。
それがし向けられたものだと、今気づいた。
やられたと思った廉。
でも、いつかこの人を越えてやると思う廉だった。
ひそかな、野望。
でも、とても面白そうだ。廉が子供のように、その時のことを思い、ワクワクする。
「今回の主役は夏海たちじゃ。お前は極力、オブザーバーに徹しろ」
「御意」
頭を下げる廉。
「お前にはある意味、貧乏くじを引かせたな。すまない」
「もったいないお言葉にございます。己で選んだ道、一度として貧乏くじを引かされたなどとは思ったことはありません。むしろ、逆でしょう。当たりくじでしょう」
「お前は自らドブに行くと申すのか?」
「ドブなどとは、思っていません。している間、私はとても、楽しめました」
過去形で話す廉に豪造は気付くが何も言わない。
廉がこれからなそうとしていることは、もう豪造が口出しすることじゃないからだ。
豪造は廉がなそうとしていることを分かっているようだ。
それが分かり、廉は笑う。
「でも、彼方から、学んだ経営学は、私にとって、今や、本当に宝になっております」
廉はにっこり笑う。
こういうクタックなく笑った笑みを見たのは久方ぶりだ。
このとき、豪造は自分が築き上げてしまった物を悔やんだ。夏海と廉から両親を奪い、更に、廉からは笑みまで奪い、冬眞からは戸籍を奪ってしまったのかと、豪造は悔やんだ。
ずいぶん、大きな代償である。
「お前がなそうとしていることに、儂には正確なことは分からんが、反対はせん。お前が一番よいと思う形で、選択しろ。それが、儂がお前にしてやれる唯一のことじゃろう」
「もったいないお言葉にございます。私はあなたから、たくさんの物をいただきました。たぶん、冬眞があなたから直接、それは学びたかったもの。私はそれを学べました。それは、一言では、言い表せない物にございます」
深々と廉は頭を下げる。
「頭など、下げるな。儂は今、後悔でいっぱいなのだからな。そんな儂から、最後の命を下す。今回は、あやつ(冬眞)の力を確かめるってことで、お前は極力オブザーバーに徹しろ。あやつらが欲しいと思う情報だけを与えてやれ」
「御意」
こうして、終わった二人の会談を夏海と冬眞は知る由もなかった。
パーティ会場は、オープン記念ということでそのホテルで行われた。
都内からずいぶん、離れており、はっきり言って田舎である。
でも、このホテルの売りは、自然にあるのではなく、この建物自体にあった。
何でもヨーロッパから買い取った、いや正確には、奪い取った建物をそのまま移築したのである。
夏海のその建物を前にして「綺麗」でもなく、ましや、「すご~い」でもなく、ましてや「夢のよう」でもなく、「うわ~、成金趣味の固まりじゃん」だったりする。
夢もヘったくりもないことこの上ない。
でも、場所柄は言うことなしねと夏海は思う。
これなら、何かあっても、警察は、すぐ駆けつけられない。
と、夏海はニヤケるが、何かが足りない。
それは、あまりにも、ホテルが綺麗すぎるせいだった。
「最初のうちはウケるでしょうけど、すぐ飽きられるのが、目に浮かぶわ」
「確かにな」
廉が頷く。
「でしょ?」
「しかも、自然を満喫出来るとはいえ、こんなに何もないところでは、人を呼べないですし、近場にも人を呼べる施設が、何もないとと来てるしな」
「ま、入ってみよう」
「ええ、そうですね。行きましょう」
中に入ると、そこはまるで中世ヨーロッパ時代のようだった。
豪華なシャンデリアに湾曲した階段が出迎える。
今日はその下に、テーブルが置かれ、そこが、受付となっているようだ。
その間に両開きのドアがあり、そこが、今回の会場のようだ。
招待客も、もう大勢集まり、愉しげな話し声が聞こえる。 これでは、夏海の思い描いていたホテルじゃない。
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