マネー研究所

  • クリップ

プロのポートフォリオ

投資は「勝つ」より「負けない」銘柄(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

 

2016/10/4

  • 「努力は必ずしも報われないが、努力をしないと負けてしまう。投資も必ず『勝てる』銘柄群は抽出できないので、『負けない』要素が多い会社群に注目すべきだ」

 最近、横浜市が年度ごとに行っている「横浜市民意識調査」(2016年度版、速報値)が発表され、興味深い結果が出ていました。

 「今の世の中は努力すれば報われる社会だ」との問いに対し、「そう思う」などの肯定的な答えは15.2%で、バブル時代の1988年度に行われた調査(44.2%)と比べて29ポイントも減少し、意識の変化が顕著だったのです。

 実はこの結果は驚くべきことではなく、最近行われる様々なアンケート調査で「努力をしても無駄である」とか「未来は自分では切り開くことができない」とかいうネガティブな意識が鮮明となっており、特に若者がそのように考えている傾向があるようです。

 それを聞いて思い出したことがあります。以前、当社は上場しているすべての会社に簡単なアンケートを行いました。そのときのことです。

 投資家向け広報(IR)や環境問題への取り組みとか、10分程度で答えられる内容でした。集まった回答について分析はもちろんしましたが、実は見ていたのは返事をくれたかどうかと返信のスピードです。

 アンケートは5~6回やったのですが、興味深かったのは返信をくれた会社とそうでない会社との株価パフォーマンスの差です。返信をくれた会社群は、そうでない会社群のパフォーマンスを上回っていました。それも返信が早い会社ほど(おおむね1週間以内)、パフォーマンスは優れていました。

 ただ、アンケートの内容を分析すると、返信をくれた会社群の業績は必ずしも良い会社ばかりではなく、全体ではマチマチでした。一方で、返信をくれない会社の成績は総じてダメでした。

 わかったのは「返信をくれるからといって業績が良いとは限らないけれども、株価のパフォーマンスは堅調で、返信をくれない会社はおしなべて業績も株価も悪い」という事実です。

 情報開示に前向きな姿勢が株価にも好影響を与えていると考えられます。すなわち、アンケートを速やかに送るという姿勢は、良い会社の必要条件だということです。一方、こういうものを無視する会社はダメな会社ということですね。

 わたしは「これをすれば会社の株価が上がる」というような決定的な要因を探してきましたが、なかなか見つかりません。それはそうですよね。これをやれば必ず成功するという十分条件があれば、みんなそれをするでしょう。世の中そんなに簡単ではありません。

 でも一方で、「これをやらなければ成功しない」というような必要条件ってたくさんあると気がついたんです。例えば、人でいうと、正直である、勤勉である、情熱がある、真面目である、前向きである、素直である――というようなことでしょうか。経営者でもそんな人が率いる企業はしっかりしてそうですよね。

 だから投資をするときは「勝つ」銘柄を選んでいるというより、会社の事業や経営者のスタイルが「負けない」要素が多い会社群に投資するのがいいと思います。必ず「勝てる」銘柄を抽出できない以上、「負けにくい」会社群をパッケージにするというのはひとつの戦略です。

 冒頭で紹介したアンケート調査も実はそんなことで、「努力は報われない」のではなく、「努力をしたからといって報われるとは限らない」ということだと思います。かといって、努力をしないと時間がたてばたつほど必ず負けてしまいます。

 努力は必ずしも報われない。それはホントです。しかし、努力して失敗したからといって後退というわけではありません。なにか挑戦をしたら、勝つか負けるかではなく、実際は勝つか学ぶかだと考えてみてはどうでしょう。結果的には手数が多い方が勝てるということになります。

 その点では、人生の長い時間軸の中で努力は報われる可能性が高いと思われます。特に85%くらいの人が努力は報われないと思っている現状では、努力を継続すれば、ほぼ勝てるのではないでしょうか。

 投資先を探す際も、社長や経営陣に対して「御社は努力が報われると思っているか」という質問を単刀直入にするのがいいと思います。当然ながら、イエスという会社は投資の候補になりますよね。

 みなさんは努力が報われると考えてますか? 周りの社員はどうでしょう? 機会があれば、お子さんとそのような話をしてみたらいかがでしょう。未来を努力すればより報われる社会にするためにも。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。

藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

  • クリップ

マネー研究所新着記事