『スタプラ!』キャラクターエピソード
ファルセット 後編
- ファルセット
- 「マスター。光貴さまの情報によると、静香さま御提案のオーディションに合格できれば、お父さまを説得するのに充分だそうです」
感情を理解できないはずのファルセットのまなざしに、決意と覚悟がみなぎっている。
- ファルセット
- 「ですから……」
- 十萌
- 「ファルセットちゃん。バディさんはもう、絶対合格すると決めているのです。十萌も手をつなぎます。ですから、走り続けましょう!」
*
- 十萌
- 「この前の講演を聞いて、学院内にもやる気を出した子がいっぱいなのです。そこで、しずちゃん……上保静香さんの提案してくれたオーディション、校内で事前選考をして、代表を決めることになったのですよ」
- ファルセット
- 「はい……」
- 十萌
- 「ファルセットちゃん、バディさん、頑張りましょうね!」
だが、イオンテトライト電池は、不良品ですらもう一つも残っていない。
そのうえファルセットは、いつ倒れてもおかしくない状態なのだ。
今度倒れたが最後、二度と起き上がることは出来ないだろう。
- 光貴
- 「学内での選考とはいえ、かなりの強敵が相手になりそうだ。ファルセットの状態も……こうなったら、いつものように裏から手を回して……」
電話を掛けようとする光貴の手を、ファルセットが押さえた。
- 光貴
- 「何をするんだ! この状況で正々堂々なんて、何のために……」
- ファルセット
- 「誇りのためです、ご理解ください」
そうして挑んだ学内選考。
ファルセットは見事に代表の座を勝ち取った!
- 学院長
- 「決まりじゃ。学院代表として、ファルセットを映画のオーディションに派遣する。もし合格できれば、歴史に名を残す快挙じゃ。全力を尽くすんじゃぞ」
- 花音
- 「ファルセットさん、おめでとうございます」
- あやね
- 「あんたは、あたし達team.スピカの……ううん、星華学院すべての人の誇りだよ」
- ファルセット
- 「あ……あ、りが……」
- 学院長
- 「どうしたんじゃ!?」
- ファルセット
- 「と……う……」
ファルセットが倒れてしまった!
*
もう残りの電池はない。
ファルセットには、いよいよ限界が近付いていた。

- ファルセット
- 「……マス、ター……私……を、オーディション会場まで、おぶって……行くのは……無謀、です……」
タクシーを呼ぼうものなら、オーディション会場ではなく病院に連れて行かれてしまうだろう。
ファルセットは重く、背負っていると歩くのがやっとだ。
それでも、あきらめたくない。
あきらめるわけにはいかない。
でも――
ここまで、なのか――?
- ?
- 「ファルセット!」
その時、声が聞こえた。
- 琴寝
- 「海鴎琴寝、約束を果たしに来たわ!」
見ると、琴寝を先頭に、星華学院のみんながいた!
何かあったら必ず助けてあげると言った、あの時の約束。
ファルセットが会場までたどり着けるように、車を用意するなど、力を合わせて準備を整えてくれたのだ!
- 光貴
- 「ファルセット、新品のイオンテトライト電池だ!」
- 琴寝
- 「ちょっと、もう電池は無かったんじゃないの?」
- エリス
- 「それにどうしたの、その顔! ケガしてるよ!」
- 光貴
- 「なあに、電池工場の工場長に、最後に一つだけ作るよう“命令”した時にな」
- 凜々子
- 「それって、バレたらヤバイじゃん!」
- 光貴
- 「僕のことなど、どうでもいい。ファルセット、お前自身の未来のために、全力を尽くすんだ!」
そして、最終オーディションがはじまった。
最後まで残ったのは、ファルセットと静香の二人。
お互いに持てるすべてを、ステージ上で表現する。
見守る誰もが、ファルセットがアンドロイドであることを忘れた。
そこには確かに、魂と呼べるものがあったのだ。
- 司会
- 「合格は……」
- 十萌
- 「神様……!」
- 司会
- 「合格はファルセットさん! ファルセットさんです!」
わっと歓声が巻き起こった。
- ファルセット
- 「マスター……」
- 静香
- 「ファルセット、負けたよ。おめでとう。光貴もやったじゃん!」
- 光貴
- 「ああ。だが……今までのイオンテトライト電池は不良品だったが、今回使ったのは新品の正規品。古いマスターである僕の記憶は、もうじきリセットされ、上書きされてしまう。僕のことは忘れてしまうだろう……」
- 静香
- 「光貴……」
- 光貴
- 「しかし、その方が、ファルセットにとってはいいのかもしれんな……」
ファルセットがオーディションに合格したという報せは、上保グループ全体を驚愕させた。
新型アンドロイドの開発計画は見直されることになり、イオンテトライト電池の生産ラインも、完全に復活することになった。
そして――
ファルセットの記憶が上書きされる、その時が来た。
手を取り合い、見つめ合っていたファルセットと光貴。
ファルセットの手から次第に力が抜けていき、ついに離れる。
- ファルセット
- 「……」
- 光貴
- 「これで、僕の記憶は完全に消えた。新しいバディと二人、元気でやるんだな」
光貴がそう言って、背を向けた時だった。
- ファルセット
- 「光貴さま」
- 光貴
- 「!」
- ファルセット
- 「光貴さま……ありがとう……」
背を向けたまま去っていく光貴。
泣いていたのかもしれない。
見送っていたファルセットは、振り向いて微かに笑うのだった。
- ファルセット
- 「さあ、行きましょう。新しい未来へ!」

ファルセット 編・おわり
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