『スタプラ!』キャラクターエピソード
ファルセット 前編
星華(せいか)学院。
世界的に有名な芸能学校であるここでは、芸能部とマネジメント部の生徒同士が「相棒(バディ)」になるのがルール。
だが、相棒はいまだ見つからずにいた。
かつては芸能部で将来を嘱望されていたが、ケガのためにマネジメント部に編入になって以来、夢を見失って腐っていたのだ。
この先、どうしたらいいのだろう?
誰も頼る人はいないし、未来は見いだせない。
ひとり学院を去ろうとした時、事務員見習いの十萌さんが声をかけてきた。
- 十萌
- 「待ってください! あの……十萌を助けると思って、お願いを聞いてくれませんか?」
十萌さんのお願いは――
- 十萌
- 「ファルセットちゃんのバディになってくれませんか?」
ファルセットといえば、学院に通う唯一のアンドロイド。最先端のテクノロジーの結晶だ。
そして、何かにつけてライバル視してくる、上保光貴の忠実なバディでもある。
光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わりこちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。
それが、なぜ……
- 十萌
- 「今度、ファルセットちゃんよりも新しいバージョンのアンドロイドが作られることになったんです。だから、上保君は……」
十萌さんの話を聞くうちに、頭に血が上ってくる。
- 十萌
- 「もし、ファルセットちゃんが廃棄処分にされたりしたら、十萌は……十萌は……」
――ドカッ!
光貴を捕まえ、思い切り殴りつけた。
- 光貴
- 「……いいさ、好きなだけ殴れ。僕はみんなの言う通り、ピンチのバディを見捨てようとする、最低な奴かもしれん」
いつも無表情に近いファルセットだが、心なしか今日は元気がないように見える。
- 光貴
- 「だが、これだけは分かってくれ。こんな僕だが、ファルセットのことを簡単にあきらめるつもりはない。どうしてファルセットを置いて、一時的とはいえ学院を離れようとしているのか、説明しようじゃないか」
- ファルセット
- 「……」
- 光貴
- 「我らが上保グループの作ったファルセットには、同じく上保グループにしか作れない、“イオンテトライト電池”という動力が使われている。新型のアンドロイドには、このイオンテトライト電池が使われない。その結果、電池の生産ラインが停止されることになってしまったのだ」
- ファルセット
- 「……」
- 光貴
- 「残っているのは、今まで使わずにいた不良品だけ……この電池が尽きた時、ファルセットは動きを止めてしまう。だが、僕は必ず、僕の力で、イオンテトライト電池の生産ラインを再び動かしてみせる。グループと直接交渉してな。それまで、学院に残るファルセットをお前に任せたい。お前こそどんな逆境にも立ち向かえる人間だと見込んで、この僕が頭を下げるのだ」
光貴は両手をついて頭を下げた。
- 光貴
- 「僕がいない間、お前の力で、ファルセットを活躍させてくれ。様々な舞台で輝かせてくれ。そうして、上保グループにファルセットの存在価値を見せつけ、電池の生産停止を思いとどまらせるために力を貸してほしいのだ。頼む!」
*
- ファルセット
- 「マスターの認証を再設定します。私の目を見てください」
覗き込んだファルセットの瞳は、人造人間とは思えない深い輝きをたたえていた。
- ファルセット
- 「網膜スキャン完了。あなた様を新しいマスターとして認証しました」
- 光貴
- 「これでファルセットは、お前の言うことを聞いてくれるはずだ。ファルセット、安心して待っていろ。この上保光貴、親の七光りだけで生きている人間ではないのだ」
- ファルセット
- 「かしこまりました。新しいマスターのもとで、良いお知らせを待っております」
- 光貴
- 「よし、では説明するぞ。イオンテトライト電池に不良品しか残っていないのは、昨日説明した通りだ。不良品は使えることは使えるのだが、いきなり残り電力がゼロになってしまう不具合がある。そして、電力切れを起こしたファルセットは、どんな状態になってしまうか誰にも予測がつかない。その電池の交換方法だが……」
- 十萌
- 「電池交換の説明、万が一の時のために、十萌も一緒に聞いておきますね」
- 光貴
- 「ああ。交換をするには、まずはここにある蓋を開けて……」
光貴はいきなり、ファルセットのスカートをたくし上げた!
- 十萌
- 「わわわわわ! 女の子に何やってるんですか〜〜〜っ!」
十萌さんは、光貴をぽこぽこ叩き始める。
- 光貴
- 「待ってくれ十萌さん! 誤解だ! 誤解だってば!」
- ファルセット
- 「第三者に電池交換の現場を見られた場合、社会的地位を失う可能性、大。法令に違反する可能性もあります。くれぐれもご注意ください」
*
ファルセットの新しいマスターになって、初めてのテストの日がやって来た。ファルセットはダンスの実技でバランスを崩し、あちらこちらへふらついている。
- 先生
- 「うわっ、危ない!」
- ファルセット
- 「電圧低下により、ジャイロセンサーにエラー。空中での姿勢制御に問題が発生しています」
- 琴寝
- 「あのファルセットが……何が起こってんの……?」
ファルセットはついに転倒し、教室が騒然となる。
すかさず助け起こしてくれたのは、近くにいたノエミだった。
- ノエミ
- 「……」
他の生徒たちは遠巻きにしながら、互いにささやき合っている。
- 一般生徒A
- 「ファルセット、旧型になったからって、押しつけられちゃったんだって……」
- 一般生徒B
- 「可哀想、捨てられて……」
- 一般生徒C
- 「でも、いまだに命令されて嫌がらせしてるのかな? ほら、前のレッスンでも……」
- 一般生徒D
- 「人間とは違うしね、友達にはなりたくないかも……」
もともと理解者の少ないファルセットが、ますます孤立していく……
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ファルセット 中編につづく
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