『スタプラ!』キャラクターエピソード
織部あやね 後編
友達の信乃と、さよならも言えずに別れて以来、あやねは沈んだままだった。
- 十萌
- 「あやねちゃん、元気がないですね」
- あやね
- 「……」
- 十萌
- 「どうしたら元気が出ますか?」
- あやね
- 「十萌さんが、優しくキスしてくれるとか?」
- 十萌
- 「え?……ふぇええええっ!?」
- あやね
- 「冗談だってば」
- 十萌
- 「もう……テレビでも見て、気を紛らわせませましょう」
- テレビ
- 『次のニュースです。世界的ファッションモデルのナオミ・シンクレアさんが来日しました。シンクレアさんは、イギリス伯爵家の出身であることも知られており、今回の来日では、『VOGLE』のオーディションで自ら審査員を……』
- 十萌
- 「ナオミ・シンクレアさん、やっぱりカッコイイですねえ……って、あやねちゃん?」
- あやね
- 「イギリス……イギリスか……」
来日したナオミや『VOGLE』の関係者を歓迎するパーティーが開かれた。
日本を代表する名士や芸能人が集う中、ゆりあも名門の令嬢として出席していた。
- ゆりあ
- 「昨晩のパーティー、あやねさんはいらっしゃらなかったのですね」
- あやね
- 「ええっと、うん。ちょっと外せない、法事の晩餐会があって……」
- ゆりあ
- 「ナオミさんは実際お会いしてみると、紳士的ですが眼光鋭く、風格のある方でしたわ。最初はてっきり、殿方とばかり……それから、とてもお作法に厳しいお方で、ハッキリと物を申されます」
- あやね
- 「そうなんだ」
- ゆりあ
- 「でも……」
- あやね
- 「……?」
- ゆりあ
- 「わたくしは、あやねさんの方が親しみやすくて好きですよ。憧れの対象になるだけではない、対等のお友達として応援してあげたくなるような魅力を、あやねさんはお持ちになっていますから」
ゆりあは初めから、あやねの正体に気付いていたのかもしれない。
あやねの表情が、ふっとやわらいだ。
- あやね
- 「ありがと、ゆりあさん!」
オーディションに向けて、レッスンに励むあやね。
信乃との別れや、ゆりあの励ましに、思うところがあったのだろう。最近では、レッスンに遅刻することもなくなった。
そんなあやねを力づけようと、十萌さんもファルセットに相談するのだった。
- ファルセット
- 「織部あやねのストレス値の軽減には、好きな物をプレゼントすることが有効でしょう」
- 十萌
- 「あやねちゃんの好きな物、ですか?」
- ファルセット
- 「織部あやねのネットショッピング履歴を検索中……これらの商品が喜ばれそうです。購入しますか?」
ファルセットがリストアップしたのは、『月刊百合娘』などの百合マンガだった。
- 十萌
- 「何だかとっても、不健全そうなのです……」
- あやね
- 「軽蔑する?」
- 十萌
- 「あやねちゃん」
- あやね
- 「そういうのが好きとか、やっぱ軽蔑するよね?」
- 十萌
- 「……」
十萌さんは微笑んで言った。
- 十萌
- 「言ったじゃないですか、趣味っていうのは人それぞれだって。どんなものが好きでも、どんな人でも、あやねちゃんはあやねちゃんなのですよ」
- あやね
- 「十萌さん……」
- 十萌
- 「よ〜し、今回だけ特別に、十萌が買ってあげるのです!(十萌もちょっと、読んでみたいですし……)」
- あやね
- 「ほんと!? いやったあ♪」
皆に支えられて元気を取り戻したあやねは、万全の準備を整えて『VOGLE』のオーディションに臨んだ。
- ナオミ
- 「(突き抜けて魅力のある子は、なかなかいないな。総合的にはアヤネ・オリベが飛び抜けているが、名門育ちにしては品位に欠けている……最終選考で見極めさせてもらおう)」
そして、最終選考――
- ナオミ
- 「そこまで! 合格者はアヤネ・オリベ、ただ1人だ」
- あやね
- 「ええっ! あたし? じゃあ……」
- ナオミ
- 「ふぬけた顔をするな。話はまだ終わっていない。アヤネ・オリベ、何か隠してるな?」
- あやね
- 「な、何かって……?」
- ナオミ
- 「私の目を欺けると思ったのか? 所作を見ればわかるものだ。例えば、高貴な育ちというのも嘘なのだろう。趣味も下品に違いない」
- あやね
- 「下品……」
あやねが叫んだ。
- あやね
- 「百合は下品じゃないわ!」

気色ばむあやねは、ナオミ・シンクレアとにらみ合いになる!」
- あやね
- 「ぐぬぬぬぬぬ……」
- ナオミ
- 「フッ、面白い。ならば最後は、この私自らが相手しよう。ありのままの自分で、かかってこい!」
- あやね
- 「(ありのままの自分で……そう、あたしは本当のあたしでいいのよ!)」
ステージ上での二人のアピール。
ほんのわずかだが、あやねの方が勝っていたことに、舞台袖に戻ってきたナオミ自身も気付いていた。
- ナオミ
- 「見事だ、アヤネ。もう詮索はしない。今までの非礼を詫びよう」
- あやね
- 「ううん、いいの。この際だから、ナオミさんにも集まった報道陣の方にも、ホントのことを言っちゃおうと思って……」
そうして、たくさんのカメラを前にして、あやね全世界に向かって打ち明けた。
- あやね
- 「あたしは織部あやね。セレブでもなんでもないけど誇り高い、“肉のおりべ”っていうお肉屋さんのひとり娘よ。地味で冴えない自分がイヤで、星華学院に入って、今までとは違う自分になろうと思ったの。みんなに嘘をついて、大切な友達を知らないふりまでして……でも、それでも友達は、みんなは、あたしを応援してくれた。だからもう、裏切らない。絶対に裏切りたくない」
大きく息を吸って、
- あやね
- 「信乃ちゃーーーーーんっ!!! 見てるんでしょーーーっ!!! イギリスでファッションショーをする時は、百合娘の最新号を持って、絶対会いに行くからねーーーっ!!!」
オーディションから数ヶ月後――
日本で開催された『VOGLE』のファッションショーに、あやねはイギリスから信乃を招待した。
ショーは大成功!
あやねは控え室で、大喜びの信乃と、百合漫画について熱く語り合っている。
- あやね
- 「バディも読めばいいのに。女の子同士の恋愛って、すっごく素敵なんだから。ま、あんたを見てたら、男の子も捨てたもんじゃないかもって思うけどね」
いたずらっぽく笑うあやねは、ほんのりと頬を染めている。
- あやね
- 「う、ウソよ。冗談に決まってんじゃん! そだ、ナオミさんが食べたいって言ってた“肉のおりべ”自慢の揚げたてコロッケ、用意してもらわなきゃ!」
自然体のあやねは、誰よりも魅力的で、イキイキと輝いているのだった。

織部あやね 編・おわり
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