『スタプラ!』キャラクターエピソード
織部あやね 中編
ある日――
- 取り巻きA
- 「あやね様〜。あやね様は文化祭、どうされるんですか?」
- 取り巻きB
- 「もちろん、文化祭なんて眼中に無くて、プロのオーディションに挑戦して合格されるんですよね!」
- あやね
- 「と、当然よ」
- 取り巻き達
- 「声を合わせて〜……せ〜の、すっご〜い!」
いつものように取り巻きに囲まれて校門から出てくるあやねを、他校の女の子が、少し離れたところから見ていた。
- ???
- 「あの人、雰囲気は昔とぜんぜん違ってるけど……あやちゃん?」
あやねの知り合いだろうか?
*
- あやね
- 「あ、あの、十萌さん? ちょっと、相談があるんだけど……」
- 十萌
- 「十萌なんかでいいのなら、何でもウェルカムなのです!」
- あやね
- 「あのね……その……いくらセレブだからって、文化祭に参加せず、プロのオーディションを目指すなんて……やっぱり、ねえ……?」
- 十萌
- 「十萌はスゴイと思いますよ。夢に向かって、あえてイバラの道に踏み出すなんて、さすがはセレブさんなのです! 元々持ってるモデルの経験に満足せず、世界的な舞台に立ちたいという気持ち、十萌、全力で応援するのです!」
- あやね
- 「あ、うん……ありがと……」
- 十萌
- 「実は今度、世界的に有名なファッション雑誌『VOGLE』のファッションショーが開催されるんですよ。オーディションの内容は、何と何と、そのショーのモデルを選ぶというものなのです。あやねちゃん、ぜひ、エントリーしてくださいね!」
- あやね
- 「『VOGLE』? 世界中のセレブ御用達のハイファッション雑誌の『VOGLE』?」
- 十萌
- 「あやねちゃんには説明の必要もありませんでしたね。今回のオーディションには、現役のトップモデルで英国貴族の血を引くセレブ、ナオミ・シンクレアさんも参加予定なのです」
- あやね
- 「な、ナオミ・シンクレア……ああ、彼女! 彼女ね。ナオミ・シンクレア、略してシンちゃん。懐かしいわ……」
- 十萌
- 「そんな仲だったのですか!? さすがはあやねちゃんなのです」
- あやね
- 「……」
- 十萌
- 「あやねちゃんなら、ナオミ・シンクレアさんを上回っての合格も夢じゃないのです。頑張ってくださいね!」
十萌さんが立ち去った後も、あやねは浮かない顔をしていた。
さすがに、プレッシャーがあるのだろう。
- あやね
- 「セバスチャン、あたしね、ほんとはもっと……あたしの身の丈にあった……」
- 光貴
- 「はーっはっはっはっ! 庶民の中でも底辺の身の丈になんか合わせると、汚れてしまうぞ、お姫さま」
上保光貴が現れた。
光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わり、こちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。
- 光貴
- 「さあ、そんなバディは捨てて、光り輝く上保グループの御曹司である、この僕のもとへ……」
- あやね
- 「シャラップ、あほ! 急に出てきて何よ」
- 光貴
- 「僕のもとに来れば、セレブリティな財力で、君を必ずファッションモデルにしてあげよう」
- ファルセット
- 「そしてあわよくば、お近づきになりたいと、光貴さまは企んでいらっしゃいます」
光貴のバディ、アンドロイドのファルセットが続ける。
- 光貴
- 「もちろん、『VOGLE』だけじゃない。他にも色んな雑誌に……」
- ファルセット
- 「そしてあわよくば、振り向いてもらおうと企んで……」
- 光貴
- 「余計なことを言うんじゃない!!!」
- あやね
- 「最っ低」
そうして、二人で校門を出たところに、この間の女の子が待っていた。
- ???
- 「あの……違ってたらごめんなさいだけど、あやちゃんだよね?」
- あやね
- 「!!! 信乃ちゃん……!」
- 信乃
- 「わあ、やっぱりあやちゃんだ! 星華学院に通ってるとは聞いてたけど、芸能学校はすごいね〜。昔とは全然、雰囲気が違ってて……」
- あやね
- 「ひ、人違いじゃないかしら?」
- 信乃
- 「……え?」
- あやね
- 「セレブのあたしと、あなたみたいな庶民とは、その……住む世界が違うと思うし……」
- 信乃
- 「……」
- あやね
- 「さ、行くわよ、セバスチャン」
- 信乃
- 「あやちゃん……」
後日、本屋にて――
- あやね
- 「(『VOGLE』のオーディション、ナオミ・シンクレアさんになんて、いくらなんでも勝てっこない。やっぱ、バディには本当のことを言って……)」
- あやね
- 「(ううん、ダメよ。そんなことしたら、今まで築き上げてきたあたしのキャラが……)」
- 十萌
- 「あやねちゃん!」
- あやね
- 「ととと、十萌さん!?」
- 十萌
- 「『VOGLE』の最新号を買いに来たのですか? あやねちゃんは、本当に勉強熱心なのです」
- あやね
- 「ま、まあ、当然ね」
- あやね
- 「(良かった。ファッション誌に挟んで隠してた、『月刊百合娘』はバレてない……)」
- あやね
- 「(ほんとのあたしは、冴えない百合好きマンガオタク。懐かしいな、信乃ちゃんとゆりゆりな本を読んで、徹夜で薄い本作りに励んだ日々……)」
- あやね
- 「だけど、地味でオタクなあたしには、もうサヨナラするって決めたの。だから星華学院に来たんだし。毎朝、遅刻ギリギリまで時間使ってメイクして、学院では天才セレブギャルモデルの織部あやね様になって……)」
- あやね
- 「(ごめんね信乃ちゃん、知らないふりなんかして……)」
- あやね
- 「きっと、許してくれるよね」
*
あやねは学内の選抜テストを勝ち抜き、見事『VOGLE』のオーディションに参加エントリーされた。
朗報を伝えようと電話も掛けてみたが、応答がない。
仕方なく、あやねが住んでいると話していた高級住宅街に向かう。
ところが、織部邸なんてどこを探しても見当たらない。
やっぱりそうだったかと、ため息をついたところに、あの信乃という子が声をかけてきた。
- 信乃
- 「あの……もしかして、あやちゃんのバディさんですか?」
ちょうどいい、この子に本当の住所を聞こう。
- 信乃
- 「ここは、あやちゃんが住みたいって言ってただけの場所だから……」
信乃に教えられた住所は、学院の近くにある商店街のものだった。
- 信乃
- 「あやちゃんにお手紙を送ったんです。届いてるとは思うけど、お返事がなくて……あやちゃんに会ったら、よろしくお伝えくださいね」
そうして、商店街を訪れる。
信乃に教えられた番地には、「肉のおりべ」という精肉店があった。
勝手口のインターホンを鳴らすと、
- あやね
- 「はいは〜い」
――ガチャッ。
ドアを開けて顔を覗かせたのは、ジャージに眼鏡の、ひどく地味なあやねだった。
- あやね
- 「新聞屋さん? うちは……セバスチャン!!! なななな、何でここに……」
事情を話し、『VOGLE』オーディションへのエントリーが決まったことを伝えても、あやねはうろたえるばかり。
- あやね
- 「おおお、お肉屋さんにいるのは、庶民の暮らしを体験したいからで……特別にお店を作らせて、あたしも庶民の格好をって……え? 信乃ちゃんに会ったの? 手紙?」
信乃からの手紙は届いたばかりで、まだ開封されていなかった。
- あやね
- 「……」
手紙には、信乃が父親の海外転勤でイギリスに住むことになったこと、そして、あやねへの感謝とお別れの言葉がつづられていた。
- 信乃
- 『あやちゃん、星華学院に通うようになって生まれ変わったんだね。生まれ変わったあやちゃん、とっても素敵だった。きっと夢を叶えられるよ。離ればなれになっても、いつまでも応援してるからね』
出発の日は今日だ。
あやねは家を飛び出し、空港に向かう。
けれど、辿り着いた時はもう、信乃の乗った飛行機は飛び立っていた。

- あやね
- 「……」
あやねはいつまでも、銀色の翼が消えていった夕暮れの空を見つめていた。
- あやね
- 「あたし、バカだ……」
織部あやね 後編につづく
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