2016年10月3日(月)
臨時国会改憲めぐる論戦
安倍首相の発言にみる
傲慢さとともに脆弱さも
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「いかにわが党の(改憲)案をベースにしながら3分の2を構築していくか。それが政治の技術だ」と発言してきた安倍晋三首相。臨時国会で憲法をめぐる論戦が始まり、その傲慢(ごうまん)さとともにもろさも露見しています。
9月27日の衆院本会議で首相は、立憲主義破壊の自民党改憲案の撤回を迫る民進党・野田佳彦幹事長に対し、「撤回しなければ議論できないという主張は理解に苦しむ」と強弁。民進党案の提示を要求しました。
「自民案ベース」
翌28日の本会議では日本共産党の志位和夫委員長から、「(自民党改憲案を)『ベース』に憲法審査会で議論するのが自民党の方針か」と追及されると、「憲法審査会という静かな環境で、自民党が草案を示しているように各党がそれぞれの案を示し、真剣に議論、国民的議論につなげる」として、事実上、自民党改憲案を議論のベースにする方針を示しました。
他方、29日の参院本会議では、日本維新の会の片山虎之助共同代表が「(自民党改憲案を)撤回しないというが、こだわらないということか」と質問すると、首相は「特定の党の主張がそのまま通ることはない」と表現を緩め、改憲補完勢力に対しては“柔軟”姿勢を示しました。
説明から逃げる
30日の衆院予算委員会では、自民改憲案の中身について追及されました。民進党の細野豪志代表代行が、人権の永久不可侵性を定めた憲法97条を自民党改憲案が全面削除している理由をただすと、首相は「逐条的な議論は憲法審査会でやって」などと逃げの姿勢。改憲案の正当化もできず、押し問答で審議はたびたび中断しました。
人権の永久不可侵規定の全面削除は、日本国憲法前文が「人類普遍の原理」と位置付ける核心の否定であり、首相のいうような「個別の問題」ではありません。「逃げるな」と細野氏に迫られ、首相は「条文の整理にすぎない。基本的人権の制約ではない」などと否定に躍起になり、改悪の意図をごまかしました。
そもそも7月の参院選で憲法問題について何も語らずに多数議席を得た「だまし討ち」で、改憲論議を国会審議に持ち込もうというのは安倍首相自身です。所信表明演説(26日)では「与野党の立場を超え、憲法審査会での議論を深めていこう」などと呼びかけましたが、行政府の長が立法府に“命令”するような越権行為です。それでいて国会論戦で、改憲案の中身を問われると、説明から逃げるのは筋が通りません。
首相の逃げの姿勢が示すのは、立憲主義破壊の自民党改憲案が国民の警戒と批判を呼び、それ自体が改憲論議をすすめる上で最大の弱点となっていることです。
自民党の下村博文幹事長代行は9月27日の記者会見で、「自民党の改憲草案ありきで議論してほしいとは考えていない」と“低姿勢”をアピール。憲法に値しない改憲案をベースに明文改憲を押し通そうという強気の裏の、脆弱(ぜいじゃく)さを示しました。
安倍晋三首相の答弁
●「撤回しなければ議論できないという主張は理解に苦しむ」(9月27日、衆院本会議)
●「自民党が草案を示しているように各党がそれぞれの考え方を示した上で真剣に議論し、国民的議論につなげていく」(同28日、衆院本会議)
●「合意形成の過程で特定の党の主張がそのまま通ることはないことは当然」(同29日、参院本会議)
●「(自民党改憲案について)いちいちの条文について解説する立場にない」「逐条的な議論は憲法審査会でやっていただきたい」(同30日、衆院予算委員会)
●「自民党は草案を示した上で選挙に臨み、議員は当選している。国民不在との指摘はあたらない」(同上)