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2016-10-03

[][]さやわか文学の読み方』

さやわかメディア論的近代日本文学史の本。

小説神髄』『あひゞき』から始まって『Re:ゼロから始める異世界生活』まで

日本近代文学は、

文学とは、人の心を描くものである」

文学とは、現実をありのまま描くものである」

というのが錯覚であること、そしてまたこの2つが矛盾していることに気付かぬままに、突き進んでいった結果、村上春樹芥川賞を取ることができなかったのだ、という感じ。

序 章 そもそも何が文学なのか?

第一1979年村上春樹

第二章 文学は人の心を描けない

第三章 メディアが作家と文学を作る

第四章 文学のジャンル化

第五章 純文学など存在しない

第六章 文学史が作られていく

第七章 錯覚は露見する

第八章 文学とは錯覚にすぎない

終 章 ある錯覚の未来について

あとがき

文学の読み方 (星海社新書)

文学の読み方 (星海社新書)


さやわかさんの本を読むのは、『僕たちのゲーム史』以来なんだけど、

シンプルなテーゼをたてて最初から最後まで一貫したストーリーを立てていること、

雑誌等からの引用が多いこと

共通していると思った。

この本だと、例えば芥川賞の選評からの引用がとても多い。小説本文や(時評・選評ではない)文芸評論からの引用より遥かに多い。

さやわか流」で「メディア論的」と先に書いたのはこのあたりのため。

あと、「ですます調」で砕けた言い回しで、この内容なので、大塚英志の文章っぽいなとも思った、もちろん、違いは色々あるけれど。


メディア論的だなーというのは、内容面においても

自然主義ないし私小説が、雑誌メディアによる文壇の成立を背景にしていることや、新聞や雑誌による大衆文化の成立に従いジャーナリズム化・社会性の高い文学が生まれていったことなどの話からも感じた。


小説神髄』とかを、小説を褒めたいがために論理がめちゃくちゃと言ってるのとか面白かったw


文学のサブ・カルチャー化というのが、なるほど、そういうことだったのかと得心した。

文学は社会全体を描くことができる芸術であった(これももちろん錯覚なのだというのが本書の主張だけど、少なくともそう思われていた、また文学が社会を描くことができるとはどういうことなのか云々というのは、プロレタリア文学文学者の戦争協力、文学と政治論争のあたりが参考になる)けれど、そうではなくなってしまった、と。

題材の話でもあるけど、題材だけの話ではないのだ、というあたりが、自分的な発見だった。

文学のサブ・カルチャー化とは、村上龍芥川賞受賞に対する江藤淳批判の言葉。


最終的に、錯覚と呼んだものって要するにフィクションのことではないか、と思ったら、錯覚という言葉は、フロイト宗教を錯覚と呼んだところから来ている、とあって、これはいよいよ次は『サピエンス全史』を読まねばならないではないか、と思った。


ないものねだりとしては、海外文学についても触れてほしかった。

錯覚に対する誤解が日本独自の文学観を形成したのではないか、という話になってるけど、実際のところ、どこまで日本独自なのか。私小説純文学というのは、日本独自の概念らしいというのは知ってるけど。この本だと、日本独自というものには、ゲーム的リアリズムも含まれていると読めるのだけど、それはちょっと違うような気がして。

メタフィクションという言葉は本書の中には出てこないけど、村上龍が、私小説は錯覚であることを暴いた作品であると論じていて、完全にメタフィクションの話をしていて、それならやっぱり、ポール・オースターとかも本当は絡むのでは、と思った。


星海社新書を読むのもこれが2冊目だけど、相変わらず変わった組版してるなーと思った。

『僕たちのゲーム史』に比べたら全然普通だけど。

フッターの位置がかなり低いのと、引用でフォントを変えてるところが、あまり他で見ないなと思う。


誤字発見報告

p.200 引用の1行目「小説の部隊」→「舞台」の誤字? あるいは原文ママ

p.207 5行目「地盤誌沈下」→「誌」が衍字

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