時代の正体〈401〉24条の危機(1) 抵抗感薄く狙い打ち

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2016/10/04 10:53 更新:2016/10/04 20:59
  • 無料公開中
【時代の正体取材班=田崎 基】婚姻や男女平等を規定した「憲法24条」。その改正案を盛り込んでいる自民党憲法改正草案に、専門家は「戦前の家族観や家制度を取り戻そうとしている」と警鐘を鳴らす。女性差別や人権問題にも関係する24条改正への危機感から9月に発足した「24条変えさせないキャンペーン」。上智大学(東京都千代田区)で開かれたキックオフイベントに登壇した右派の動向に詳しい大学非常勤講師の能川元一さんは「24条は改憲条項として狙われる可能性がある」と指摘する。主な発言を紹介する。

 一口に「保守派」とか「右派」といっても憲法改正に対する温度差は当然ある。最近話題の「日本会議」が組織している「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のPR用リーフレットを見ると、彼らが憲法のどこにこだわっているかが分かる。

 まず前文。日本の伝統文化を書き込めと言っています。2番目に元首。3番目が9条改正。4番目が環境権規定。5番目に位置しているのが「家族」についてです。6番目が緊急事態条項で、7番目が96条の改正で改憲のハードルを下げようとしています。

 現時点での本命は「緊急事態条項」とされています。2016年に入ってから右派論壇誌や右派団体の機関誌を見ると、緊急事態条項が最も取り上げられています。ただ、仮に「なんでも一つ、好きな条文を変えられるとしたら、どこを変えたいのか」と問うたとしたら彼らの中で、緊急事態条項と答える人はほとんどいないでしょう。

 月刊「正論」4月号に掲載された「一つだけどうしても変えたいのは何条か」という50人アンケートで、「緊急事態条項」だと答えた人はたった1人でした。彼らが最もナーバスになっているのは最初の改憲運動で成功するか、失敗するかという点なのです。

 なにしろ改憲のテコとして使ってきたのが、「いままで一度も改正したことない」ということだったわけです。それが、改正発議あり、国民投票あり、その末に否決されれば、彼らの改憲運動にとって致命的打撃になる、と考えている。

 つまり狙いは「有権者の抵抗感の薄いもの」となる。民進党などの協力が得られ、かつ国民投票で過半数が得られそうなもの。その中で彼らがいま支持しているのが緊急事態条項であるという状況です。

変わる家族観


 これはある種、護憲派と改憲派のじゃんけんのようなもので、相手が何を出すかの読み合いです。

 彼らが緊急事態条項だと言っているからと、そちらばかりに備えていると、土壇場で変えてくる可能性もある。どうやら緊急事態条項では勝てそうにない、となれば当然別のものを出してくる。だが、別のものが何かは流動的です。天皇の生前退位との絡みで天皇の国家元首化を急に前面に出す可能性もあるでしょう。そうした中で24条は非常に要注意ということになる。

 月刊「正論」では第2次安倍政権期になってから3回「家族」が特集されている。第2次安倍政権が成立した12年末から今年の前半くらいまで「正論」は「歴史戦争特集」を徹底して掲載してきた。「反日包囲網」という歴史戦を突破するんだ、という勇ましいものが載っていました。

 なぜかその間に「家族」が3回特集されている。タイトルや時期をご覧いただきますと、家族に関する最高裁判決を非常に意識していることが分かる。

 まず婚外子の相続に関する差別規定。違憲判決を受けた14年3月号です。民法が改正されたのが前年の12月で、それを受けてということになる。

 「蠢動(しゅんどう)する家族破壊主義者たち」というおどろおどろしいタイトルです。最高裁判決で、婚外子の相続に差をつける差別規定が「違憲」と判断されたのは、彼らにとって非常に大きな衝撃だった。一方、夫婦別姓を認めない規定を「合憲」とした判決に、彼らは一安心しています。憲法学者の八木秀次さんは最高裁に自分の意見が受け入れられたと喜んでいます。

 ただ右派系の月刊誌「明日への選択」には「しかし、油断はしていない」と書いてある。最高裁判事の意見に「時代の変化」について言及がありました。現に婚外子の相続差別規定でも以前、合憲判決が出ていたのに時代の変化によって「家族観」が変化し、合憲から違憲へと変化したと。そうしたことを彼らはきちんと記憶している。

 それを踏まえ、油断はできないとねじを巻き直しています。

COMMENTS

facebook コメントの表示/非表示

PR