川崎フロンターレといえば、Jリーグでは少ない予算で地域密着のおもしろ宣伝販促をてがけるプロモーション部の存在が有名です。
その仕掛け人である天野春果プロモーション部長は、著書に『僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ 』(小学館)というのがあるくらいに、この低予算おもしろプロモ企画ではすでにスポーツ界では名が知られており、そのため現在はその手腕を認められ、東京五輪組織委員会に出向されているそうです。
報道によると東京五輪の予算は当初見込みの3500億円から見込み額2兆円にまで膨れ上がっているとのこと。
ああJリーグビジネスはまだまだなんだな・・・と思わざるをえない貧乏くささスレスレの企画や、一方でサポーターの趣向をピンポイントでつくマニアックなタイアップ企画で、サポーター達の目を細めさせている天野氏。
天野氏の時は来ました。いまこそ東京都ひいては日本のために、ローコストなおもしろプロモで予算の浪費を防いでいただきたいものです。
さて、そんなスポーツビジネス界では注目を集めている川崎フロンターレのプロモーション部が、人材を募集しているというので、ちょっと見てきました。それがこんな感じです。
→エン・ジャパンより
◇川崎フロンターレ「契約社員」募集のお知らせ
[給与]
月給15万円〜20万円
※経験や能力によって応相談[募集職種]
契約社員
[業務内容]
プロモーションスタッフ
[勤務時間]
月〜金 9:00〜17:50
※但し、川崎フロンターレ主催の公式戦は出勤日の為、都度変動あり
※但し、業務の都合により残業・休日出勤あり[休日休暇]
【年間休日124日】
■週休2日制(月7~8日)
■祝日
■年末年始休暇
■夏季休暇
■GW
■有給休暇
■慶弔休暇[応募資格]
学歴不問・要普通自動車免許(AT可)
[勤務地]
株式会社川崎フロンターレ
〒213-0013 神奈川県川崎市高津区末長4-8-52
JR南武線「武蔵新城」駅下車徒歩15分
Jリーグがいくら貧乏だからといって、世にプロモーションとはなんぞやと熱く問う、川崎フロンターレのプロモーション部の契約社員が15万円・・・。
というか、これって神奈川県の最低時給(2016年10月現在 930円/時)を下回ってないか。これじゃあいっても時給900円ぐらいにしかならんだろ。今どき、これはいくらなんでも。
川崎フロンターレのチームカラーは、水色と黒。そうか、あのブラックにはそういう意味があったのか・・・。
・・・などと考えつつ、自分も吹けば飛ぶよな零細ながらも経営者のはしくれ。ふだんアルバイトも雇用している立場でありますから、これについてちゃんと計算してみました。すると・・・
【年間365日で時給換算した場合】
・年間休日 124日
・労働時間 7時間50分=7.833h
これを365日の年間平均で時給を算出すると・・・約953円/時
おお、神奈川県の最低時給をクリアしているじゃないですか。
しかし、これはあくまでも年間にならした額なので、休日が少なく労働日数が多い7・8・10月の場合を計算してみると・・・
【月別に実質労働日数で時給換算した場合】
・月間労働日 22日または23日(休日7-8日)
・時給 870円または832円
というわけで、ざっと計算したところよりもはるか下の時給が出ました。神奈川県の最低時給を100円も下回る数字です。
830円って、今から約30年前に筆者が中央大学の1階の学食(通称:貧乏食堂)でバイトしていた時給と変わらんですよ。ちなみに学食のバイトには賄いついてましたけどね。こっちのほうが福利厚生にメリットあり。
さて、これについて、神奈川県の横浜南労働基準監督署に問い合わせてみた。
・最低時給は月給制などに換算していても適用される
・本人がその給与に同意したとしても法令に反する
というところを今さらながら最初に教えていただきつつ、それでは最低時給の計算方法はいかにと問うたところ以下のとおり。
・年間の総労働時間にならして、時給計算するのは可
・ただし月の労働日数により、これを下回ることはトラブルを招くことがあるので推奨できない
そんなわけで、月によっては県最低時給を下回っていても、年間平均で算出すればOKならば、グレーに片足突っ込んでいるもののセーフということでありました。
大企業がオーナーであるJリーグのクラブチームは、だいたい経営陣が本社の総務や人事あがりの人が天下ってくる場合が多いのですが、なので、そのへんは抜かりなしということでしょうか。それにエンジャパンはさすがに最低時給チェックしているはずですしね。
いやはや、それにしてもJリーグのマーケティングの花形ともいえるセクションの契約社員が、月ベースだと神奈川県の最低時給を下回り、30年前の貧乏学生のアルバイトと同じくらいの時給とは驚きです。
とはいっても、これ応募来るんでしょうね。スポーツマーケティングの世界を夢見る方とか。
資本主義社会ですから、人間すらも商品として需要と供給の関係で価格が決定する、それすなわち「賃金」であると、マルクス先生にわたしは習いました。供給が多ければ、価格は下がる。なんともはやな話です。
聞くところによると、エンジャパンの求人は以前にもあったそうで、それを考えると、さすがにこの丁稚奉公クラスの給与では続かないということなんですかね。
くだんの天野氏は、某所のインタビューで、スポーツとは「ヒューマンライン」なんだ、と熱く語っていらっしゃいます。人はパンのみに生きるにあらずということですね。しかしてやはりパンがないと生きていけないというのもこれまた人類は避けられない事実なわけで、ぜひとも出向からお帰りの際には被雇用者の「ライフライン」の確立もがんばっていただきたいと思うわけです。
ビジネスとしてのサッカーというのは、これまでも様々な場所で考察してきました。
最近はプロ野球の市場価値下落を予測した『野球崩壊』という著書が出ています。が、これはサッカーも状況は異なるといえども、さして変わらぬ話です。
そもそも日本の人口が劇的に減っていきますし、さらにそのためにエンタメビジネスの土台となっている競技をする人口がこれまでにない縮小をしていくんですから、当たり前の話といえば当たり前です。
なので、筆者はずっと、日本のプロスポーツビジネスは資本政策や市場を世界(特にアジア)に拡大しないかぎり、この先は難しいと考えています。
そうしないと、現在Jリーグ年間順位のトップを走る有名チームの花形部署の契約社員が、時給換算で最低時給未満という丁稚奉公の世界だとかいうのは、今後も変わらないばかりか、もっと悪化していくのではないですかね。