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特集

2015年11月26日(木)

人民元がIMFのSDR構成通貨入りへ

 
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有馬
「中国の通貨・人民元。
この人民元が、今月(11月)30日にも、世界の主要通貨になる見通しとなりました。
“主要通貨になる”、これ、どういうことなのか。
キーワードは『SDR』。
ファイナンシャルプランナーの資格を持つ藤田さんが説明します。」


藤田
「『SDR』は、英語の『Special Drawing Rights』の頭文字を取ったもので、日本語では『特別引き出し権』と訳されます。
これは主に、IMF=国際通貨基金の加盟国が万が一の際に緊急の資金を借りることができる権利のことなんです。




SDRは、IMFへの出資額に応じて加盟国に配分されているんですが、例えば、ある加盟国が外貨不足に陥った場合、SDRと引き換えにドルやユーロといった主要な国際通貨をほかの加盟国やIMFから融通してもらえるという仕組みになっています。
いわばSDRは、主要通貨と交換できる『引換券』のようなものなんです。




このSDRと引き換えることができるのは、現在、ドル・ユーロ・ポンド・円の4種類の通貨となっていますが、ここに今回、中国の人民元が新たに加わる見通しとなっているんです。
SDRを、どの通貨で構成するかについては、5年ごとに見直しを行っていますが、中国は以前から構成通貨に人民元を採用するよう求めてきました。
そして、見直しの年にあたる今年(2015年)、IMFは、中国の人民元を5つ目の通貨に加える方針を決定。
今月30日のIMFの理事会で承認されれば、人民元がSDRの通貨に選ばれる見通しです。」

IMFの“お墨付き” 信用力のアップへ

有馬
「NHKで中国の人民元と言いますとこの人、経済部の湯浅デスクにスタジオに来てもらいました。
人民元のSDR入り、主要通貨になると。
具体的にはどういうことなんでしょうか?」

湯浅庸右デスク(経済部)
「具体的にというか、要は主要通貨になるということなんですけれども、SDRに加わることで何かが目に見えて変わることはないんです。
ただ、IMFのお墨付きを得ることになりますので、人民元の信用性は高まることになります。
将来的には、アメリカや日本といった先進国も自国の外貨準備に人民元を用意しようというような動きが高まる可能性があります。
人民元の存在感はますます高まっていくことになります。」

有馬
「より使われるようになるということですね。
湯浅デスクには、また後ほど話を聞いていきます。
主要通貨として人民元が使われるようになる、存在感を増す。
これは間違いないだろうという話なんですけれども、では、人民元は今、世界でどのように使われて国際化しているのか。
早くも人民元のこれからを見据えた各地の動きを取材しました。」


“一帯一路”構想で拡大 存在感増す人民元

中央アジアのカザフスタン。
中国とヨーロッパを結ぶ経済圏「一帯一路」構想のもと、中国からのインフラ整備や投資が拡大しています。





「こちらは中国への線路。
こちらは別の(ヨーロッパへの)線路。
新シルクロードの中心地です。」





中国が西に伸ばした鉄道網と、ヨーロッパへの鉄道網との中継地点となるこの施設。
建設費用の多くは、人民元を使った中国からの投資で賄われました。
このほかにも中国からの投資で進められている高速道路やトンネル、それにホテルの建設。
これらの多くが人民元建てで行われる事になると見られています。

カザフスタン 商工会議所の幹部
「中国は地域の発展にとても重要な国だ。」







香港で広がる人民元 将来に期待する声も

急速に国際化する人民元。
最も浸透しているのが特別行政区、香港です。

吉岡拓馬支局長(香港支局)
「金融街そばのこの通りには、たくさんの両替ショップが並んでいますが、どの店も取り扱っている主な通貨は、人民元です。」

中国本土との人やモノの移動が盛んになる中、人民元と香港ドルを両替する人々の姿は日常風景となっています。
人民元が身近な存在になり、資産を人民元で運用する人も増えてきています。



不動産仲介会社に勤務する、麦海倫(ばく・かいりん)さん。
5年前、香港の銀行が提供する人民元の短期の定期預金を始めました。
預金額は72万人民元、およそ1,400万円。
5%あまりという高い利子が魅力に映ったと言います。



麦海倫さん
「長期的な目線から見て、人民元は安定していると思います。
人民元の商品は中国経済の成長と連動しているし、投資しない手はないわ。」





香港での人民元の預金は、11年前に認められて以降、年々拡大。
現在、香港の金融機関や個人が預金している人民元の額は、あわせておよそ9,000億元、日本円で17兆円に上ります。
さらに、香港で投資家たちの関心を集めてきたのが…。
香港の食文化を代表する点心にちなんで名付けられた「点心債」と呼ばれる金融商品です。



「点心債」とは、企業が資金を集める手段として香港で発行する「人民元建て債券」を意味しています。
投資家は「人民元建て債券」を香港ドルで購入。





満期を迎えれば、利子を加えた人民元が現金で戻ってきます。
利子が比較的高かったこともあり、人気を呼んできました。
8年前の発売開始以来、「点心債」への投資は増加を続け、これまでにあわせて6,600億元、日本円でおよそ12兆円分が発行されました。
香港の金融当局のトップは、人民元の国際化を後押ししていく方針を示しています。


香港金融管理局 陳徳霖総裁
「人民元の国際化は、今後さらに進んでいくだろう。
成長の道は明るく、人民元利用の可能性は広がる一方だ。」







人民元拡大に商機 金融都市ロンドンは

人民元の取り引き拡大は大きなビジネスチャンスになると動き出しているのが、イギリスです。
ロンドンにある世界有数の国際金融センター、シティー。
人民元の取り引きの一大拠点となることを目指しています。



先月(10月)、中国の習近平国家主席と会談したキャメロン首相。
人民元建ての国債を、中国・香港以外では初めて、ロンドンで発行することに合意するなど、人民元の国際化を強く後押しすることを約束しました。




中国 習近平国家主席
「中国とイギリスがウィン・ウィンの関係を築く『黄金時代』の幕をともに開ける。」






イギリス キャメロン首相
「われわれは両国の関係を新たなレベルに引き上げることを決意した。」






こちらは金融取引で使うシステムを運営する会社です。
この会社のシステムを介した人民元の取引量は、この1年で50%増加。
人民元での取り引きがさらに拡大すれば、それだけ手数料収入も増えると期待しています。





EBSブローカーテック 市場部門責任者 ダリル・フッカーさん
「人民元取り引きの拡大はめざましい。
SDRで取り引きはさらに拡大するでしょう。」





人民元をドルなどの主要通貨と同様に扱う市場も現れてきています。

下村直人記者(ロンドン支局)
「ロンドンにある世界最大の金属の取引所です。
こちらでは、今年7月から中国の通貨・人民元を担保として認めているんです。」

銅やアルミニウムなどを取り引きしているロンドン金属取引所。
取り引きの4分の1は中国の投資家によるものです。
この割合をさらに拡大するため、ドル、ユーロ、ポンド、そして日本円に続き、人民元での取り引きを認めることにしたのです。


LMEクリア トレバー・スパナーCEO
「より多くの中国人を市場に取り込みたい。
この先2年ほどで、それは現実になるだろう。」





世界で存在感を高めている人民元。
それをしたたかに取り込み、シティーは国際金融センターとしての地位を不動のものにしようとしています。


中国 人民元が主要通貨へ 世界経済への影響は

有馬
「確かに目覚ましい拡大の動きですよね。
この動きがさらに加速するということなんですよね?」

湯浅デスク
「加速していくと見られます。
人民元は世界で確実に利用される割合も高まっていますし、中国は世界中で貿易を拡大しているだけではなくて、外交戦略の柱である、最近出てきた『一帯一路』というインフラ整備の構想でも積極的に人民元を使っていくことなると見られます。
人民元はどんどん加速していくと見られます。」



求められる主要通貨の“責任”

有馬
「ただ、世界の主要通貨になるということは責任も生じると。
大きな力には責任が伴うという話がありましたけれども、いわば欧米が作ってきた金融のルールを守らないといけないということですよね。
その欧米のルールに従う覚悟はあるんですか?」

湯浅デスク
「今の時点では、その覚悟はあると。
ゆくゆくは自分でまたルールを変えていこう、というようなこともあるのかもしれませんけれども、中国国内には“SDR入りを急ぐ必要はない”という慎重論もあったようなんですけれども、中国としては、やはり先進国を目指す上で、どうしてもSDR入りを実現すべきだという議論が優先されたんだと思います。
経済は大国ですけれども、通貨は規制が多く不自由で、途上国の通貨並みという状況なんですね。
こういう状況を脱却したかったと言えると思います。
ただ、当然、主要通貨になるということで、責任も伴うことになりますから、これについてIMFの元幹部も指摘しています。」

IMF米代表前理事 メグ・ランドセーガー氏
「人民元がひとたび主要通貨となれば、後戻りはできなくなる。
人民元の相場を決めるのは、中国政府ではなく市場に変わっていく。
これにより中国は改革を求める圧力にさらされ続けることになるだろう。」






“SDR入り”中国の狙いは

有馬
「いったん主要通貨になると後戻りできませんよ、という指摘だったわけですけれども、そこまでして中国政府がSDR入りを急いだ理由というのはあるんですよね?」

湯浅デスク
「国内の改革を進めるための『てこ』にしたい、という思惑もあるんですね。
と言いますのは、最近、中国の指導部が発信するメッセージが危機感に満ちあふれているんです。
中国経済は最近、成長が鈍化してきました。
このままですと、先進国に脱皮できないままに中国は高齢化社会に入ってしまうという危機感を私も感じます。
ゆくゆく中国は人民元を、先進国で当たり前の『変動相場』にしようとしています。
変動相場になれば、例えばNHKの為替レートの画面でもドルやユーロと並んで『1元が何円』というような時代が来るかもしれないわけですけれども、そういう動きの激しい変動相場に耐えられる経済にしていかないといけないと。
そうするためにも同時に経済改革を進めていこうということなんですね。
逆に言うと、それができないようであれば、中国の指導部が持っている危機感が現実のものになってしまう。
これが改革の原動力と言えます。」


日本への影響は

有馬
「日本への影響はどうなんでしょうか?
相対的に日本の地位が落ちていくということになっちゃうわけですよね?」

湯浅デスク
「このままでは日本の円が人民元に押される形で、世界的に存在感を低下させていくおそれはあります。
かつては、日本の円を国際化していこうという議論も熱心にされていたわけですけれども、最近は盛り上がっていません。
これはバブル崩壊したあとに、長きにわたって経済の活力が低下して、東京の金融市場も元気がなくなってしまったのが大きな原因です。
今後、世界で円をもっと使ってもらうような努力もするべきだと思いますし、東京市場の存在感を高めていくことも重要です。
VTRでロンドンがそうでしたように、この人民元の勢いを東京市場に取り込んでいくようなしたたかな戦略も必要かもしれません。
円の国際化の努力は諦めてはいけないというふうに思います。」

有馬
「諦めるなと。
東京も日本も、したたかにやっていきたいですね。」

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