ノーベル医学・生理学賞に輝いた東京工業大栄誉教授の大隅良典さん(71)。世界的な大発見となった実験で使った酵母との出合いは、運命のいたずらのようなものだった。
東大で博士課程を修了した大隅さんは1974年、米ロックフェラー大に留学。細胞の抗体分子の構造解析で72年にノーベル医学・生理学賞を受賞したジェラルド・エーデルマン教授の研究室で、大腸菌を使って免疫学の研究を行うためだった。
意気揚々と渡米したが、着いてみると、教授は急に発生生物学に転身してしまったのだ。「あまりに突然で、何をやっていいか分からなくなった。全く答えが見えず、本当につらい時期だった」と振り返る。やっと思いついたのが、酵母を使った細胞増殖の制御機構の研究。手探りで取り組むうちに、細胞の活動を個体レベルでなく、分子レベルで見つめることの面白さを知った。
「このときの酵母との出合いが、私の人生に重要な意味を持っていた」
昭和52(1977)年に帰国し、東大理学部の植物学教室の助手になり、酵母の研究を続けた。研究テーマに選んだのは、細胞内の浸透圧調節や老廃物の貯蔵・分解を担う小器官「液胞」。当時としては異例の選択だった。
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