ラグビー・ワールドカップ(W杯)史上最大の番狂わせといわれた日本―南アフリカ戦から1年がたった。ラグビーブームに沸いた日本国内も、今ではほぼ元通りの光景が広がる。トップリーグの観客は落ち込み、テレビに楕円球が映る機会も減った。対照的に華々しく始まったのがバスケットボール男子のBリーグ。開幕までの準備期間は、日本のラグビー界が失ったのとほぼ同じ1年強。史上最大級の追い風を生かせなかったラグビー界と、同期間で改革をなし遂げたバスケットボール界。その違いはどこにあったのだろうか。
■Bリーグ支える先進的な事業モデル
発光ダイオード(LED)が床一面で光り輝く世界初のコートが話題になったBリーグの開幕戦は、1万席近い客席が発売20分間で完売。まだ開幕直後とはいえ、各クラブの観客数も、2リーグに分裂していた昨季の約2倍の水準で推移する。
開幕戦のテレビ視聴率は5.3%。低すぎるとも評されたが、通信アプリ「LINE」の無料中継で300万人が視聴するなど、他局やネット媒体でも多数放送していた。実質的な視聴率は、プロ野球関係者の見立てでは「10%超」。視聴者層も若年層が圧倒的に多い。民放局のプロデューサーは「実質的にプロ野球巨人戦と同程度の視聴率だとしても、年齢層を見ればBリーグの方が圧倒的に魅力的」と話す。
Bリーグが出だし上々で滑り出せたのは、「日本初」の先進的な事業モデルを次々導入できたからだ。
「デジタルマーケティングの徹底推進」を掲げるBリーグは、チケット購入や会場入場までの一切がスマートフォン(スマホ)上で完結する仕組みを導入。同時に、誰がいつ、どの試合のどの席を買ったかというデータが蓄積される仕組みを構築した。
データ分析により、PR戦略やチケットの価格設定などを勘頼みでなく論理的に行うことができる。今後は協会に競技者登録する60万人超のデータとの統合も計画中。潤沢なデータの魅力は、ソフトバンクと4年で推定120億円という巨額のネット放映権契約にも結びついた。
日本代表とBリーグのスポンサー権・放映権を一括して販売する事業会社も設立。権利のまとめ売りによって、収入を拡大する。サッカーの米プロリーグMLSなどの急成長の原動力となった仕組みだ。放映権料などから各クラブへ配る資金の割り当て方法も、入場者数に応じた傾斜配分を導入。クラブの競争を促すようにした。
手元に綿密なデータがあるから、開幕戦の翌日、リーグ側が記者会見でこうした経営データを開示することも可能になる。「開幕戦のテレビ中継終了後の3時間で、従来の2倍のチケットが売れた」「観客1人当たりの公式グッズの平均購入額は、一般的なスポーツ興行の3倍の1000円に達した」……。