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奥華子、失う前に気づきたい。休養を経てわかった「大切なもの」

奥華子、失う前に気づきたい。休養を経てわかった「大切なもの」

奥華子『思い出になれ / 愛という宝物』
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子
2016/10/03
  • 18

デビュー10周年の感謝を込めて、各会場2日間4公演で150曲以上を披露するライブツアー『奥華子 10周年ありがとう!弾き語り全曲ライブ!』を成功させた奥華子。このライブで初披露された新曲“思い出になれ”は、彼女の真骨頂とも言うべき、男性目線の切ない失恋ソング。

奥華子と言えば、映画『時をかける少女』の主題歌“ガーネット”や、数々のCMソングが有名だが、“思い出になれ”は彼女のベーシックにある繊細な心理描写と真っ直ぐなメロディーの魅力を、改めて伝えてくれる作品だと言えよう。今回は改めてデビューからの10年を振り返り、決して順風満帆ではなかったこれまでのキャリアを、いかなる発想の転換で乗り越えてきたのかを語ってもらった。やるべきことに追われ「もう頑張れない状態だった」という奥が語る「モノの見方」は、ミュージシャンのみならず、誰しもにとっての生きるヒントになるはずだ。

デビュー5年目くらいまでは、ホントに辛くていっぱいいっぱいだったけど、今は自由になった。

―ニューシングルの表題曲“思い出になれ”は、タイアップがついているわけでもなく、奥さんが今作りたい曲を素直に作ったとお伺いしました。

:今までも自分が作りたいものを作ってはいたんですけど、今回は「全曲ライブツアーで新曲を披露したい」という理由で作り始めたので、何の気負いもなく、すごく自然体で作りました。

奥華子
奥華子

―全曲ライブは各会場共に2日間で150曲以上を披露されたそうですね。

:「馬鹿じゃないの?」とか「やらされたの?」とか言う人もいたんですけど、全然そうじゃなくて(笑)。その前の全国ツアーを回る中で、ファンの方がアンケートに書いてくれた好きな曲とか聴きたい曲が、ことごとく最近のライブではやっていない曲ばかりだったんです。

なので、「みんなのリクエストに応えるには、全曲ライブをやるしかない」って冗談っぽく言っていたんですけど、全国ツアーが終わった後に、「ホントにやっちゃおうか?」って、私から言い出したんです。

―ファンからすればあまり演奏されないレアな曲が聴けるのはすごく嬉しいことだと思いますが、それにしても全曲はすごいなと。

:1公演3時間半で、それを1日2公演、2日間やったので、一曲一曲噛みしめて、振り返りながら歌いました。初めて自分を褒めてあげるじゃないですけど、「ちゃんと作ってきたんだな」と思える、すごく意味のあるライブになりました。

―区切りのライブに向けて自然体で作った“思い出になれ”が、奥さんの代名詞である「失恋ソング」だったことには意味があるように思います。キャリアを重ねる中ではイメージとの戦いもあって、「失恋ソングじゃない曲もあるのに」と思った時期もあったんじゃないかと思うんですね。そういう時期を経ての、自然体で生まれた失恋ソングなのかなって。

:うーん……でも、ほっとくと失恋ソングばっかり書いちゃうんですよね。自分で聴くのも歌うのも、マイナー調の暗い失恋ソングみたいなのが好きだから、そういう曲を作るのは全く苦ではないんですけど、逆に、そうじゃない曲を作るときは、すごく意識しないとできないんです。

まあ、デビュー5年目くらいまではホントに辛くて、「どうしよう、どうしよう」っていっぱいいっぱいだったんですけど、その頃の自分に比べたら、今は自由になったというか、解放されましたね。

奥華子

―当時いっぱいいっぱいだったのは、主に何が理由だったのでしょうか?

:今は自分を認めることができるんですけど、当時は「自分は全然ダメだ」って完全否定してたんです。メジャーではもっといろんな変化があると勝手にイメージしていたんですけど、そうでもなかったから「自分はダメなのかな?」って思ったし、それが売り上げ枚数とかチャートで、数字として出たときに「どうしたらいいんだろう?」っていう迷いが大きくて、自分を肯定できなかったんですよね。

でも、この間の全曲ライブにしてもそうですけど、奥華子にしかできないことがあるんじゃないかって、徐々にそう思えるようになってきて。今は自分に対して「そう焦らなさんな」みたいな(笑)。ちゃんと自分がいいと思えるものを作っていれば、きっと結果もついてくるって思えるようになりましたね。

奥華子

―奥さんの考え方が変わる転機になったのは、2012年ではないかと思います。ベストアルバムを出されて、その後1年間、コンサートをお休みをされていたわけですが、改めてあの時期のことを振り返っていただけますか?

:あの頃は「もういいや」みたいな投げやりな感じだったんです。気持ちが荒んでいたというか。でもその後に『君と僕の道』(2014年)というアルバムを作ったあたりから気持ちが落ち着いてきました。

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リリース情報

奥華子『思い出になれ / 愛という宝物』
奥華子
『思い出になれ / 愛という宝物』(CD)

2016年9月21日(水)発売
価格:1,200円(税込)
PCCA-04427

1. 思い出になれ
2. 愛という宝物
3. 小さなアリ(Live ver.)
4. 思い出になれ(instrumental)
5. 愛という宝物(instrumental)

プロフィール

奥華子
奥華子(おく はなこ)

シンガーソングライター。キーボードでの弾き語りによる駅前路上ライブを2004年に渋谷でスタート、柏・津田沼など関東を中心に、1年間で2万枚の自主制作CDを手売りするなど、驚異的な集客力の路上ライブが話題となり、2005年にメジャーデビュー。劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌となった“ガーネット”で注目を集める。これまでにシングル15枚、オリジナルアルバム8枚をリリース。2012年は初のベストアルバム『奥華子BEST-My Letters-』がオリコン9位を記録。10周年となる2015年は全国弾き語りツアー全37公演、そして12月23日には弦カル&バンドのスペシャル編成による公演を行なった。2016年夏には、デビュー10周年を記念して奥華子がこれまで発表してきた150曲を超える全楽曲を弾き語りで披露するライブツアー『奥華子 10周年ありがとう!弾き語り全曲ライブ!』を全国4都市で開催した。また、多くのCMソングも手がけており、積和不動産「MAST」「ガスト」「くもん」等の歌声は、一度聞いたら忘れられない、CMとしてお茶の間でも高く評価されている。

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