犬だったころは「人間の生活ってきっとたのしいんだろうなあ」と想像していた。
二足歩行すれば視界も広がるし、地面に落ちてるクソのにおいとか嗅がなくてすむし、なにより空いた前の両足を手として使える。
人間はこの手で性器をこすったり、性器をつまんだり、性器を握ったり、とにかく毎日性器とたのしくいちゃいちゃしているらしい。
そういうのってさ、四足歩行だと無理じゃん?
で、子供ができるじゃん?
つかれるんだよね、いいかげん、そういうの。
そういうわけで、魔法使い増田に頼んで声と引き換えに人間にしてもらった。
最初は「動く、動くぞ!」って感じでぴょんぴょん飛び跳ねたりしてたけど、意外とバランスとるのむずかしくてすぐ転ぶ。
何ていうの? 慣性? が意外とつくから超ヘッドスライディングしまくる。
でも本当につらいのは転んで痛いことそのものじゃないんだ。
ふつうさ、道端で誰かがすっころんでたらさ、近づいていってクンクン言いながら「だいじょうぶ? けがはない? お尻の穴舐める?」っていたわってやるもんじゃん? 心配してやるじゃん?
でも人間って、全っっっ然、そういうのないのな。
老若男女、ババアからガキまでただ奇異そうな白けた目でこっちをみやってはスルーして過ぎていく。
だれもお尻のにおいをかがせてくれない。
これは辛い。
俺は明日からまたイヌに戻るつもりだけど、おまえらは頼むから少しでもまともになってくれよな。
転んで痛そうにしてる人を見かけたら、せめて傷口をなめてやれ。