ラノベ業界最大手企業の社長・川上量生氏は、あるインタビューでこう発言している。
ライトノベルの主人公は努力しちゃダメなんです。読む側が自分を投影できなくなるからです。ヒロインは都合よく向こうからやってくる。超能力などの能力は、いつのまにか勝手に身についている。今のライトノベルの多くが、そういう設定で書かれていますよ。
――恋人や能力を努力して勝ち取るのではなく、何もしなくても、いつの間にか恋人と能力を手に入れているという設定でないと売れないということですか。その努力の過程こそが、今までは物語の根幹だったはずなのに。
そうです。今は努力できる立派な人物が主人公だと、読む側が気後れして感情移入できないんですよ。主人公は読者と同じ等身大の人間。そして、主人公に都合のいい物語を求める傾向が進んできた。文学の世界でもそうなってきていると思います。これらはネットの影響が大きいと僕は思います。
全文:http://www.yomiuri.co.jp/yolon/ichiran/20160923-OYT8T50010.html
つまり、売れるラノベは「主人公に努力をさせず、都合のいい展開が繰り広げられる」というわけだ。
この発言に対し、ラノベファンからは「それはおかしい」という意見がちらほらある。
しかし、これでもラノベ業界最大手の社長なわけだ。トップの人が適当な事を言うわけがないじゃないか。だから、売れるラノベの法則は「主人公に努力させない」というのが本当なのか、白黒つけようじゃないか。
というわけで「このライトノベルがすごい」やオリコン、円盤の売り上げなどをもとに、以下の売れている最近のラノベを厳選した(アニメ化した作品のみ)。
ソードアート・オンライン
ノーゲーム・ノーライフ
魔法科高校の劣等生
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
この素晴らしい世界に祝福を!
Re:ゼロから始める異世界生活
冴えない彼女の育てかた
GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり
オーバーロード
落第騎士の英雄譚
灰と幻想のグリムガル
※川上氏は「今は売れるための絶対の方法があるんです」と発言しているため、最近アニメ化されたものを中心に厳選
- やはり俺の青春ラブコメは間違っている
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん8
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/06/24
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (30件) を見る
結果:川上氏の発言に値しない
- ソードアート・オンライン
ソードアート・オンライン (18) アリシゼーション・ラスティング (電撃文庫)
- 作者: 川原礫,abec
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/08/10
- メディア: 文庫
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さらには作中に出てくるサチが死亡し、主人公はトラウマになり、その後はギルドに入らず、ソロで行動することになるなど、決して主人公に都合のいい展開ではない。
結果:川上氏の発言の作品に値しない
- ノーゲーム・ノーライフ
ノーゲーム・ノーライフ 9 ゲーマー兄妹は一ターン休むそうです<ノーゲーム・ノーライフ> (MF文庫J)
- 作者: 榎宮祐
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / メディアファクトリー
- 発売日: 2016/09/25
- メディア: Kindle版
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あまり努力しているといった描写はないし、主人公に都合のいい展開、と言えなくもない。線引きが難しいが、どちらかと言えば川上氏の発言には値する作品だと思われる。
結果:川上氏の発言に値する
- 魔法科高校の劣等生
- 作者: 佐島勤,石田可奈
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/09/10
- メディア: 文庫
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しかしその強さは才能ではなく、努力によるものが大きい。強くあるため、毎日の訓練をかかさない。
バトルシーンではあまりに主人公が強すぎるため負ける事はなく、主人公に都合のいい展開と言えるかもしれない。だが努力していない、というのはありえない。
結果:川上氏の発言に値しない
- ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか11 (GA文庫)
- 作者: 大森藤ノ,ヤスダスズヒト
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2016/10/14
- メディア: 文庫
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そこから必死な努力を積み重ね、英雄になるという目標を掲げ成長していく。
仲間の命が危なくなったところを自らの決死の活躍で逃れるなど、都合のいい展開ばかりではない。
結果:川上氏の発言に値しない
- この素晴らしい世界に祝福を!
この素晴らしい世界に祝福を! (9) 紅の宿命 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 暁なつめ,三嶋くろね
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 文庫
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努力に関しては皆無だ。努力どころか、ファンタジー世界にも関わらずニートに近い生活を送っている。
結果:川上氏の発言に値する
- 作者: 長月達平,大塚真一郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/09/23
- メディア: 文庫
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- Re:ゼロから始める異世界生活
アニメ2クールの範囲では、主人公にとって苦難な展開が立て続けに起こる。しかし、それまでのループで得た情報を繋ぎ合わせ、成功の道へ進む。主人公の努力なしでは成立しない展開だ。
さらに、アニメでは範囲外だが、何度もタイムリープし、ようやく達成したと思いきや、ヒロインのレムが植物状態のような状態になり、タイムリープしてもやり直せない状況になるなど、主人公にとって都合のいい展開とは絶対に言えない展開。
結果:川上氏の発言に値しない
- 冴えない彼女の育てかた
冴えない彼女の育てかた10<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 丸戸史明
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 富士見書房
- 発売日: 2016/08/20
- メディア: Kindle版
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作中に主人公の努力と言えば、ゲームの製作費を稼ぐためにアルバイトくらいだろうか。どちらかと言えば主人公には都合のいい展開が多い。
そもそも、この作品が売れたのは「ヒロインたちが可愛い」というのが一番の理由だ。
結果:川上氏の発言に値する
- GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり
ゲート 9―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり (アルファポリスCOMICS)
- 作者: 柳内たくみ,竿尾悟
- 出版社/メーカー: アルファポリス
- 発売日: 2016/06
- メディア: コミック
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結果:川上氏の発言に値する
- オーバーロード
- 作者: 丸山くがね,so-bin
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/09/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
結果:川上氏の発言に値する
- 落第騎士の英雄譚
- 作者: 海空りく,をん
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2016/04/14
- メディア: 文庫
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そんな主人公だが、実家からの嫌がらせのせいで、学園で進級できなくなったりしたり、そんな主人公を嘲ったりする生徒など、惨めな思いをするなどと、決して主人公にとって都合のいい展開はない。
結果:川上氏の発言に値しない
- 灰と幻想のグリムガル
灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ (オーバーラップ文庫)
- 作者: 十文字青
- 出版社/メーカー: オーバーラップ
- 発売日: 2016/08/25
- メディア: Kindle版
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そんな弱小チームを、努力を重ね、敵と渡り合っていく。
結果:川上氏の発言に値しない
結果
川上氏の発言に値する作品は、12個中5個。川上氏の発言は「嘘」と言っていいだろう。
上に挙げた作品は、現在のラノベの中でトップレベルの人気を誇る作品だ。その作品の半分以上は「努力」している。
「売れるラノベの法則は主人公は努力せず、都合のいい展開が続く」などと言うのは全くの嘘である。
上に挙げた12作品のうち、8作品は角川の作品だ。にも拘わらず、社長の川上氏はこのような間違った解釈を公言しているのだ。
ご都合主義な展開がなろう作品には多い
最近は小説家になろうから書籍されるラノベが非常に多い。
こちらの記事を見ると、川上氏は恐らくなろうから書籍化される作品は売れるものが多いから、「売れる法則」と思っているのではないだろうか。
川上 例えば、「小説家になろう」っていう小説投稿サイトがあるんですけど、そのランキング上位の小説の設定がほとんど一緒になってたりするんですよ。だいたい転生もので、主人公が生まれ変わって、別の人生を歩んで、活躍するっていうストーリーです(笑)。
—— ユーザーの願望が(笑)。
川上 投稿されている小説の中には本来多様性があるはずなんだけど、ランキング上位に来るものは全部似たようなものになる。ニコ動だって、いろいろな作品が投稿されていますが、何かが流行るとそれ一色になりがちです。参加数が多いってことは、逆に実質的な多様性を減らす効果があるんです。
なろうから書籍化された作品は安定して売れやすい。アニメ化していないラノベの中で、オリコンで上位を占めているのはなろう作品が多い。実際現在アニメ化されたなろう作品は全て成功している。
そして、なろうでは「異世界に転生・召喚され、チートスキルで無双」というストーリーが多い。つまり主人公にとって都合のいい展開だ。努力もせずに無双するのだ。
そういったなろう出身作品が次々と成功しているから、川上氏は「ご都合主義が売れる法則」と発言したのではないだろうか。
ちなみになろう作品が売れるのは、「なろうでの読者が買ってくれるから」というのも理由の一つだろう。また書籍化される作品はなろうでのランキングは上位だ。つまり人気は保証されているから、書籍化されても安定して売れるというのも理由の一つなのかもしれない。
最後に
何百万部も売れているような作品は、他の作品と比べ独自性があると自分は思う。上であげた俺ガイル、SAOや、禁書、ハルヒ、はがないなど、他の作品とは違う面白さがある。今でこそそれらの作品に影響されたものはあるが、その発端となっているものは莫大に売れている。
なろう出身の異世界転生系のラノベは、出せば割と売れるけど何百万部も売れるほどのヒットはしづらい、という事ではないだろうか。そう解釈すると、川上氏の発言はあながち間違っているわけでもない。
しかしオバロ、GATEなど、ご都合展開の作品は大ヒットしている。まだアニメ化していないなろう作品も、アニメ化したらオバロ並に大ヒットする可能性はある。
しかし、同じような作品が次々とアニメ化されたら間違いなく飽きられる。つまりなろう作品は飽きられたらタイムリミットだろう。
つまり売れるラノベの法則は「今までと違うストーリーで、キャラも可愛くて話も面白いこと」と結論付けよう。飽くまでも僕の意見なので異論は認める。