元官房副長官と語るポリティカル・ドラマとしてのシン・ゴジラ

2016年10月 3日(月) 22:11:54

シンゴジラ.gif

さて、ちょっといろいろあって間あきすぎちゃったので、さらっとシン・ゴジラについて書いてみる(いまさら感)。

 ※ここに辿り着くまでのお話しは前回の「2016年上半期にショックを受けた3つの制作物」をお読みください。

前回書いた「衝撃」以外にも、いろんな切り口でいくらでも書けそうな傑作映画ではあるのだけど、このシン・ゴジラ、ポリティカルドラマとしても優れていることは説明するまでもないと思う。たくさんの評論も書かれているし。

そのたくさんの評論の中に、政治家経験も官僚経験もないボクがいまさら薄い論評をひとつ足してもほとんど意味がない。

ただ、この映画、実は「政治や統治に興味がない人にその仕組みを説明するのに最適な映画なのではないか」とは、観てすぐ思った。

なぜなら、観た人はみなすでにその登場人物たちの名前や肩書きまで細かく覚えていたりして、思い入れも強いからである。彼らの関係性をもう少しくわしくわかりやすく語ってあげることで、実は政治がもっと身近にわかりやすくなるのではないか?

矢口蘭堂官房副長官(長谷川博己)とか。
赤坂秀樹首相補佐官(竹野内豊)とか。
泉修一保守第一党政調副会長(松尾諭)とか。
財前正夫統合幕僚長(國村隼)とか。
尾頭ヒロミ環境省自然環境局野生生物課長補佐(市川実日子)とか安田龍彦文部科学省研究振興局基礎研究振興課長(高橋一生)とか。とかとか。

彼らにこんなに親しみを持っている我々である。
彼らを通して政治や統治の仕組みを知る千載一遇のチャンスが「今」なのではないだろうか?

たとえば、

官房副長官(矢口)と首相補佐官(赤坂)はどっちが偉い? いったいどっちがどうで何やってる?

って、みなさん、わかります?

映画では赤坂が先輩風吹かせていたけどね。
でも実際には官房副長官と首相補佐官って、どうなんだろう?
みなさん、これを機会に知りたくないですか?

というか、彼らが勤める「内閣官房」についても、この機会にさらりと知っちゃいたくないですか?

ニュースとかでよく出てはくるけど「官房」って何だろう?
民間企業ではほとんど使わない言葉なんで、よくわからん人も多いと思う。
内閣府とどう違うわけ? どう棲み分けてるの? 首相官邸機能とどうかぶるわけ?

そういえば、泉ちゃんも謎だw
「まずは君がおちつけ」の泉政調副会長。

だいたい何であんなに偉そうなんだろう?
なんで若くしてあんなにコネと人脈があるのだろう?
保守第一党政調副会長が肩書きだけど、政府的には無役職だよね?。。。違うのかな?
政調会長とか政調副会長ってよく聞くけど、いったい何?
というか、彼の「男の本懐」である出世の最終目標は、なぜ首相でも官房長官でもなくて幹事長なの?

わからない。。。
政調って言うからには調整役なんだろう、くらいしかわからない。

他にもいろいろある。
尾頭ヒロミの課長補佐って民間で言ったらどの程度のポジション?
統合幕僚長って何? 幕僚っていったい何?
首相官邸と公邸の違いって?
閣議って?
とか。とかとか。

まぁ知ってる人には「そんなことも説明できんのか!」と失笑レベルかもしれない。

でもさ、意外とわかってなくないですか?
これを機会に知りたくないですか?

ボクは、内閣官房参与をやっていたことがあるので、内閣官房が何か、くらいはなんとかわかる。
当時、首相官邸にも何度も行ったし、首相執務室にも入ったことがあるから、官邸の機能なども表面的には多少はわかる。

でも、そんなボクでもその程度。
よくわからないことだらけなのだ。

それも含めて、「実は、シン・ゴジラが大ヒットしている今って、みんなが政治や統治の仕組みを知る千載一遇のチャンスでは?」と、自分を省みて思ったのである。

なによりボク自身が一番知りたい。
そして、シン・ゴジラを観た直後のいまなら、難しそうな話でも、矢口がどうだ、泉ちゃんがどうだ、尾頭ヒロミがどうだ、って登場人物たちに置き換えて、すんなり頭に入ってきそうである!

ということで。
ボクが主宰しているコミュニティ「4th」で、「シン・ゴジラをきっかけに政治の仕組みを理解しよう」という趣旨の夜ラボ(セミナーみたいなもの)をやろうと企画したんですね。

題して『元官房副長官と語るポリティカル・ドラマとしてのシン・ゴジラ』。

そして、なにより、4thには「さとなおオープンラボ」の卒業生として元官房副長官の松井孝治さん(現・慶應義塾大学教授)がいる(4thは基本的にラボ卒業生で構成されている)。

彼は元通産省官僚でもあるので、官僚のこともわかる。そしていまや学生に教える立場である。だからやさしくフラットに教えてくれそうである。

なので、その松井さんに、「シン・ゴジラを観たばっかりの人たちに対して、政治と統治の仕組みをやさしく教えてくれませんか?」とお願いしたのである。

それがシン・ゴジラ劇場公開後三日目くらいだっただろうか。
彼もシン・ゴジラを観て興奮していた後だったこともあり、快諾してくれた。
で、お忙しい方だし、聴衆たちも「シン・ゴジラを鑑賞済みであること」が条件になるので、その一ヶ月ほど後の9月7日にセッティングしたのである。

さらに。

たまたま松井さんにお願いをした数日後の夜、TBSキャスターの松原耕二さんとサシで飲んでいて「そういう会やるんです」と伝えたら大いに乗ってくれて、彼も来てくれることになった。

そのうえ。
松井さんとボクの共通のお知り合い(落語仲間)に、原子力規制庁の次長がいて(荻野徹さん・元警察大学校校長)、彼を松井さんが呼んでくれて、現役官僚としての切り口からも語ってくれることになった。

なんと贅沢な!

こうして、プライベートでクローズドなコミュニティに、登壇者として、

松井孝治元官房副長官
松原耕二TBSキャスター
荻野徹原子力規制庁次長

という3人が揃うというあり得ない会となったのである(聞き手・佐藤尚之)。聴衆も熱く、立ち見まで出る盛況ぶりとなった。

松井元官房副長官が用意してくださったスライドは135枚。
ものすごく熱く、くわしく、ありあまる知識を披露していただいた。

矢口と赤坂の違いの話はもちろん、シン・ゴジラ登場人物の関係図や役割などをまずしっかり頭に入れてくれる。
その後、官邸機能の話から、内閣と各省庁の関係についての話、政府と与党の関係についての話、自衛隊についての話、その他もろもろ、映画「サマーウォーズ」や映画「日本のいちばん長い日」への言及や、54年ゴジラや3.11との関連話、ゴジラへの武力行使の法的解釈まで、話は多岐にわたり、そこに松原キャスターがツッコミ、荻野次長がもっとくわしく説明してくれ・・・

面白かったなぁ。
そして頭がポーッとなるくらい「濃い話」だった。

部分部分は知っていても系統立って聞かないとわからないことってたくさんある。

それを元官邸の住人から、現霞ヶ関の住人から、そして報道の最前線の住人から聞くリアリティは半端ない。オーバーでなく、テレビや新聞やネットのニュースを見る目が変わった。

あぁそうかそういうことか・・・と、いろんなことが次々と氷解していった。

特に「泉ちゃん」系の氷解度は高く、「うわー、泉ちゃんってだから幹事長を目指しているのかー!」って目から鱗だったw

こんなに大事なことなのに、こんなに知らずに生きている。

それを痛烈に感じた3時間強であった。


ということで、こんなイベントをやったよ、というご報告でした。

え?
結局、矢口と赤坂はどっちが偉いのかって?
泉ちゃんっていったい何者なのかって?
もっとイベントの内容をくわしく話せって?

それはね、内容が面白すぎたので、いま「この内容で本にならないか」と、いくつかの出版社に打診しているところなのです。

シン・ゴジラの登場人物に引っかけて、政治や統治をやさしく理解する本。

読みたくないですか?
そして、そういう基礎知識だけでなく、松井さんのもっともっと深い話(官邸の中空構造についての話)とかも、わかりやすく読みたくないですか?

もしうまく話が進んだら、またご報告します。

一時期、ボクは「国民と政治の距離を近づける」というテーマをずっと追っていこうと、ライフワーク的に考えている時期があったのだけど(その名も「国民と政治の距離を近づけるための民間ワーキンググループ」として内閣官房に属していた時期もあった)、あれから6年くらい経って、また少しその情熱を思い出したりしているところです。

その辺も含めて、また別の機会に。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター
(株)ツナグ代表。(株)4th代表。独立行政法人「国際交流基金」理事。復興庁政策参与。公益社団法人「助けあいジャパン」代表。東京大学大学院非常勤講師。上智大学非常勤講師。朝日広告賞審査員など。
1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。
現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。
本名での著書に「明日の広告」「明日のコミュニケーション」(ともにアスキー新書)。「明日のプランニング」(講談社現代新書)
“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。
花火師免許所持。
東京出身。東京在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園夙川芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao[a]satonao.com まで(←スパムメール防止のため、@を[a]にしてあります)。

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