STOP!映画泥棒の映像が終わり、場内が暗くなって、その後に喘ぎ声が流れ始めた時、僕はスタッフが間違ってAVを流してしまったのだろうと思った。
映画館の大音量で女が喘ぐ声を聞くのは恥ずかしい。
隣の席のカップルがどことなく気まずそうだった。
喘ぎ声が止まった時。
車の後部座席から出てきたのはシミケンではなく福山雅治だった。
女の服がはだけて巨乳がはみ出ている。
福山はタバコを吸いながら金を渡し、女は「また呼んでね」と言って車から降りる。
ああ、これはAVじゃなかったんだ。
僕は少し安心した。
ちなみに監督はカンパニー松尾ではなく『モテキ』や『バクマン』で有名な大根仁だ。
この映画の舞台は週刊誌の作成現場だ。
週刊文春をイメージするとわかりやすい。
カメラマンがスクープの写真を撮り、記者がそれを記事にする。
芸能人、政治家、野球選手...
有名人を尾行し、待ち伏せ、写真を撮るカメラマンの仕事は実はとてもエキサイティングだ。
僕たち読者はコンビニでなんとなく週刊文春を買い、なんとなく記事を読み、なんとなく衝撃的な写真を見ているが、その記事には当然、作った人がいる。
写真を撮った人がいる。
車内から東京の街を覗き込み、有名人のプライベートを暴き、写真を撮りまくっているカメラマンがいるのだ。
そのカメラマンこそが、映画の主人公である都城静(みやこのじょう しずか)だ。
福山雅治が演じている。
かつてスターカメラマンだった都城は、ある事件をきっかけに借金や酒にまみれた自堕落な生活を送ってきた。
そんな中、ひょうんなきっかけで新人記者の行川野火(なめかわ のび)とコンビを組むことになる。
こんな役を福山が演じるのか...と思ってしまうくらい破天荒でめちゃくちゃな静。
「あいつら芸能人にとって、俺たちの仕事はゴキブリかドブネズミ以下なんだよ」
と言いながら、芸能人の尻を追いかけては写真を撮り、スキャンダルに叩き落す静に対して、野火は最初嫌悪感を示す。
最初は
「マジ最悪ですねこの仕事」
と吐き捨てた野火だったが、静と共に行動していくうちに少しずつ心を開き、惹かれ、仕事の面白さに気付き、信頼関係を築いていく。
終盤は静と野火の信頼関係を軸に話が展開していくわけだが、物語を通じての二人の関係の変化が面白かった。
ストーリーについては、賛否両論あるかもしれない。
「え、マジ?」
と思う部分もあったが、それでも個人的にはすごく楽しめた。
福山雅治は役に入り込んでいて、観てるこっちも感情移入してしまうし、シーンそれぞれに臨場感があって、自分がパパラッチしているような気分でのめり込むことができた。リリー・フランキーの怪演と呼ぶにふさわしい演技にも驚いた。
そして、スクープを撮るために部署が一丸となって協力し、成果を喜ぶ様子は映画「ソーシャルネットワーク」のようで、正直羨ましかった。
この映画はエロシーンが多いため、まだセックスもしていない初々しいカップルで見に行くのはおすすめできない。
ちょっと気まずくなりそうだからだ。
でも、付き合ってしばらく経った二人が刺激的な映画を観たい時にはもってこいの映画だと思う。
初々しさ溢れるカップルには「キミの名は。」を勧めたい。
心温まる素敵なストーリーではないし、後世に語り継がれる名作にはならないだろう。
でも、ちょっとドキドキして、ハラハラして、時々笑い、ほっこりすることもできる。
そんないい映画だと僕は思う。
ちなみに「ごめん。馬鹿で悪かったな。」というコピーを書いたのは糸井重里。静のキャラを的確に表現してる。