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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/28


みんなの思い出

1
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オープニング

●済まん、とだけは言っておこう
「助けてくれ」
 彼は手近な撃退士を見つけると、臆面も無く真顔で頼んだ。
 ここは久遠ヶ原学園の廊下。別段危機的な場所でも無ければ、そんな状況でも無い筈、だが。
「いや、俺一人では無理だ」
 きっぱりと言い放った彼の腰に見覚えの有る金属を付けている事から、やはりこの男性も撃退士なのだろう。
 了承を得られれば空いている部屋に他の撃退士達を招き、だが、ものの十分もすれば解散していく。
 その光景が何度か繰り返されたものだから、度々その場を通る者達は「何があったのだろう」と覗き込むように見てはいた。
 そんな彼の元に新たな撃退士が、自分から様子を伺いに行く。
 これも興味本位から出た行動であった。
「あぁ……来てくれたか」
 撃退士が行った頃には、彼は空き部屋の中に座っている。
 両手を頭の後ろで組んで天井を仰ぎ、思ったよりかは余裕が有りそうな様子であった。
 そんな彼に撃退士の一人は先程から見ていて思った質問を投げかける。
 どうして男性ばかりに声を掛けるんだ? と。
「……女性に相談し難い内容だからさ」
 続けて男は、溜息を吐きながら困った様な視線を撃退士に向けて行った。
「なぁ、変態的な依頼が来たんだが助けてくれないか?」


「妖怪二の腕足りないって知ってるか」
 そんなピンポイントな妖怪は初めて聞く。
 男は撃退士を対面に座らせると、資料も無しにそんな話をし始めた。
「まぁ待て、今のは俗称って奴だ。別名、妖怪乳足りない」
 どちらにせよ、ろくでもない妖怪というのは理解出来た。
 俗称に派生した理由も何となく分かる。
「街外れの街道に出没するそうなんだが、夜な夜な通り掛かる女性に襲い掛かるそうだ。それも、決まって巨乳のな」
 といってもこの時代にわざわざそんな場所を歩いて通る訳も無く、道を行く際は車を飛ばし、どうしても歩かなければならない時は誰かの付き添いの元に通っていた。
 被害に遭った件数は、勿論と言うべきか歩行者が多い。
 その内の一人から発覚した今回の事件は、いつの間にか妙な名前を付けられて依頼として舞い込んで来た。
「巨乳の女性が襲われたって事が判明したのはな、その妖怪が呟いた言葉がきっかけだ。俺じゃないぞ」
 報告では、襲われた女性の一人は付き添いの人と共にその街道を歩いていた。
 小道は在るものの、街道は一本道。まばらだが、街路灯も備えられている。
 道を半分辺り過ぎた頃だろうか。
 道端の草むらから、ガサガサという、動物が隠れているような音が聞こえた。
 後となってはどちらの方角かまでは思い出せない。
 ともかく、その音に気付いた彼女が恐る恐る振り向き、そして悲鳴を上げた。
 草むらから這い出るように現れた、光沢の有る水色の肌をした二人の……人型の何か。
 長く垂れる長髪をしていることから女性のようだと認識されているが、本来人間に有る筈の目や鼻などはそこに無く、ツルリとした、まるで加工された宝石のような肌をしていたという。
 腰を抜かしそうになった彼女らに、その水色の物体達は顔の表面、口の部分だけスライムを抉じ開けるように穴を開かせると口々にこう呟いた。
「『お前……ちち……くれ』……ってな」
 それで付けられた名前が『妖怪乳足りない』。
「調査の結果、この妖怪どもはディアボロと判明した。だけどそれまでだ。乳狙いの囮なら俺に提供してやれるものはねぇ」
 悩んだ末に思いついたのが、他の者の知恵を借りて助力を請おうという事だったらしい。
 乳狙いとかいうのを真面目に考えれば考えるほど馬鹿らしくなったというのもある。
 そもそも、そんな部位だけ狙う天魔が居るのか?
 男が話すに、確かに女性っぽくて体の表面はその……膨らみは無かったらしいが。
「大体からして、何で女ばっか襲うんだって話だよな。あぁ、そうだ。被害者のリストを洗ってみたんだが、男もやられてんなぁ。ん……?」
 リストに目を通す男が低く喉を鳴らした。
「むしろ男の方が多い……か?」
 男は首を横に捻る。
 理由は分からなかったが、頭の中に靄が掛かった気がした。


プレイング

赫華Noir・黒百合(ja0422)
高等部1年3組 女 

※アドリブ可

○心情

なんか珍しい敵ねェ…歯ごたえなさそうだけどォ…(ため息

○行動

可能ならば事前に参加者の作戦内容、行動内容を確認
差異がある場合は相談の後に行動内容の修正を行う

戦闘開始前に「変化の術」で身体を変化させて巨乳化する
作戦地域に侵入した場合は周囲索敵を行い、奇襲などを警戒
巨乳キャラを積極的に狙ってくると考えられるので要警戒態勢を維持する

敵と接触した場合は攻撃開始
「陰陽の翼」で飛行してG3装備に切り替えて空中から攻撃を加える(以後、戦闘中は定期的に「陰陽の翼」を使用して飛行状態を維持
複数の目標を「アンタレス」の射程内に収められる場合は範囲攻撃で対処
万が一、近接攻撃が必要になった場合はロンゴ〜に切り替えて対処
「破軍の咆哮」で正面、後方、及び側面は「尻尾ライフル」で処理を行う

「まァ、私の今の胸は巨乳ではなくて虚乳(偽乳)だけどねェ…あァ、別に悲しくなんてないわよォ、無駄な乳なんで被弾面積や空気抵抗が上昇して役に立たないでしょォ?」(←戦闘狂

戦闘終了後は周囲索敵、残敵の確認を行った後に撤収する

撃退士・仁良井 叶伊(ja0618)
大学部2年11組 男 
妖怪…いや、なんでもないです

地味に嫌なモノが出てきましたけど、奇襲が面倒なのを除けば
まあ…問題ないでしょうね…
ですから、私も足を引っ張らない程度にガンバリマス

それにしても、外見が男性って私一人のはずですが…依頼人はどうしたんでしょうかね

(行動)
現場で草叢を中心に警戒ですね
特に地面の振動や不自然な草の擦れる音には注意しますが…目立ちそうですけどね

出現したら飛燕をを打ち込んでから一気に踏み込んでサンダーブレードで止め、袋叩きで動かれる前に倒しましょうか…
二体同時出現ならスタンさせられる人を二手に分け、それを中心に前衛型を半々にして分けて同時に攻撃し、貫通攻撃に対して後衛は十分距離をとるか真っ直ぐに並ばない様に気を付けて貰いましょう

前衛の麻痺が怖いので、できれば速攻で決めたい所ですが…中々に大変そうですね
あとは…撃破して退却する迄は不測の事態が怖い状況なので、注意を切らさずにいきます

「妖怪ちち足りない」…ですか…
依頼主のネーミングセンスに困る扱いですけど、私から見ると「蒼晶地精」なんて身も蓋もない仮名が…
これもまた…どうなんですかね

ヨーヨー美少女(♂)・犬乃 さんぽ(ja1272)
大学部2年10組 男 
行動/人々を襲う悪い妖怪ちち足りないを、ニンジャの力でやっつけるよ!

理由/これ以上犠牲者を出さない為にも、正義のニンジャとしては放っておけないよ!

手段/胸の大きな人を狙うディアボロか…でも、女性を囮にするわけにもいかないと思うから、ボク、変化の術で胸の大きな女の子に変装して現地に向かうね。
「ボクに任せてよ!……すっ、好きで女装するわけじゃないから(赤く)」

 でも、あの撃退士さん男の人に声かけて回った割には、ボクと叶伊君だけだよね?(かくり)
「ボク、男!男!」

 現地に着いたら、囮になって誘き寄せつつディアボロを待ち構えるよ。
「男の人も襲われてるみたいだし、ひょっとして、乳じゃなくて血血たりない、だったりしないかな?」

 草のすれる音なんかに注意しておいて、不意打ちされない様に注意。

 件のディアボロ達が現れたら、まずは誘き寄せられてきた所に2体纏めて影手裏剣・烈で攻撃だよ。
「待っていたよ、妖怪ちちたりない…くらえ、鋼鉄流星ヨーヨー★シャワー!降り注げヨーヨー達」

 攻撃を喰らいそうな時は、空蝉で回避。
「九十一式エクソダス☆シャドー!」

 更に、幻影・影分身でもう一人のボクを呼び出すよ。
「お前達が2人なら、ボクだって…♂双忍♀ダブル☆ステルス!おいで、もう一人のボク」

 止めは召喚した女の子のボクと挟み撃ちにしながら、闇遁・闇影陣の連続ニンポー。
「さぁニンジャの時間だ…影時シャドー★クロック!」

護法の銀・Rehni Nam(ja5283)
高等部3年1組 女 
男装のレフ夫モードでOPの引継ぎ参加
レフ夫を男性枠にしても、男性2人、男の娘1人、そして残りは女の子……
女性に声を掛け捲っている生徒の動向を探れ、という別の依頼を受けた結果がこれだよ
(という設定

ところで
実は僕……本当は女なんだよ!
(ばっとジャケットを脱ぐと普段の格好に早代わり
 そして包丁をそっと撫でながら
妖怪・乳置いてけとして、妖怪ちち足りないは、本物であれば、善き仲間ですが……
同時にライバルであり、敵でもあります

まあ、ディアボロと言う時点で殲滅確定ですし
ちょっと行ってぶち倒してくるのです



……そう言えば
襲われた数は男性の方が多いとの事でしたが
女性は、本当に巨乳の方ばかりが襲われていたのですか?





探索
生命探知で探索
虫はともかく小動物は、ディアボロがいるなら逃げているでしょう
そして虫も5cmを越えるものなど滅多にいませんし、反応があればディアボロと考えて行動です



戦闘
前衛盾役
1体をJCやパ盾(の光槍)で殴ってヘイト稼いで引き付けます
麻痺時は2体目と分断
他PCが範囲攻使うなら、2体目の位置調整し巻込まれないよう離れましょう
離れる必要なければそのまま攻撃実施です

そろそろ落ちそうなら包丁一閃(刀
レート差を広げ一気に止めを目指します
刺せなくても、他の人が刺せるでしょう



回復
HP50%

自己のみはRR
癒光残0→癒風

哀転の白・Spica=Virgia=Azlight(ja8786)
大学部1年3組 女 
★アドリブ・絡み可
○心情
「乳足りない…変態…?
ピンポイントに部位狙いする敵の意図が読めず困惑

○目的
敵殲滅

○行動
飛行し敵射程外から狙撃
敵直線範囲攻撃は注意、高度を稼いで射程外に逃げる
「近接、ばっかり…いいカモ…」
近付かれそうになったら後退・引き撃ちし距離を一定に保つ

敵2体の位置が近い場合上空から接近し槍に持ち替えCサイス・炸裂陣で薙ぎ払う
射程外から撃ち反撃を防ぐ
「固まるの、狙ってくださいって…言ってるようなもの…」
範囲攻撃後散開しない場合連続で範囲攻撃
散開した場合狙撃銃に持ち替え上空から狙撃

戦闘中敵の様子に注意、言ってる事の意味を理解するよう推理
もう少しまっとうな理由を探ってみる
まっとうな理由もなさそうな場合呆れて機械的に処理
「理由、探ろうとした私が…バカだった…」

もふもふもふもふもふもふ・伊座並 明日奈(jb2281)
高等部2年4組 女 
※アドリブ・絡み歓迎
【心情】
「乳足りない…お胸…ボクも欲しい…」

【目的】
敵撃破

【準備】
地上で行動する場合には畑に足を取られない様に注意する
作戦があれば事前に打ち合わせ、それに<協力>で応える。

【行動】
・戦闘前
まずはディアボロ探し
陰影の翼で上空へ飛び草むらを上から覗いたり、武器の先で草むらの中を突いてみたり
見つけたら味方に連絡

・戦闘
「ボクだってお胸欲しいよ!」
ディアボロの「ちちくれ」発言に逆切れ
魔法少女の変身ポーズを取りながら光纏、「本気(マジ)狩るしちゃうぞッ☆」と決め台詞を言って突っ込む

基本的に前衛攻撃として行動
陰影の翼の使用回数が残っていれば飛行
鎚を主に使用し、敵攻撃を回避しながら隙を伺い、キャット・サンダーストライクでスタンを狙い攻撃
隙が出来たら勢いそのままに追撃

状況によっては武器を拳に持ち替え、射程ギリギリから攻撃
スキルもCTS→超大猫撃に入替

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部1年8組 女 
「わかってる?これはレフニーちゃんに対する挑戦だぜ。」
妖怪乳おいてけとしてつとに有名な(?)レフニーを弄る気満点なラファルであった。
むしろそれ以外でこの依頼に参加する意味が解らない。

敵の台詞はどうせ
「おまえ『のいの』ちち『りぎわを見せて』くれ」

「おまえ『の目鼻く』ちち『ょっとわけて』くれ」※敵はのっぺらぼうだからね。

ぐらいのくだらない事だろう思っているけれど「ちち」が「乳」に聞こえるなら好都合。
貧乳魔神のレフニーにあることないこと吹き込んで大いに弄り倒す。(ご本人からは許可いただいております)
因みにラファルもレフニーに引けを取らないくらいに乳がないが本人はいたって気にしてないのでもーまんたい。

あ、俺も変化の術で男装していくぜ。名前はラファ郎あたりでレフ夫(レフニー男装モード)とは仲良しなのかなぁ?

戦闘方面ではそうそうたるメンツが揃っているので俺は何もしなくてもいいんじゃね?とか心の片隅では思っているでレフニーちゃんをたきつけてやってもらう方向で。

あ、一応邪魔にならない程度には仕事しますよ。
近接系が多そうなので、遠距離魔砲バズーカ砲での攻撃をメインとして「重圧」を入れたりして支援する。

この想いいつまでも・天宮 葉月(jb7258)
大学部1年10組 女 
妖怪乳足りないって…何でも妖怪付ければ良いと思ってない?最近流行ってるみたいだし。あと、足る足らないってものじゃないと思うなー。
それにしても変なディアボロ。くれっていう割には、もぎ取りに来るとかいう話でもないみたいだし…何が目的なんだろ?それと、大きいのにも大きいなりの苦労があるからね?一概に良いとも言えないと思います、はい。
ところで…(周りの参加者を見渡して)うん、良かった大丈夫そう。ほら、男の人の方が襲われてるらしいし、それなら別に囮にならなくてもいいかなーって…。
何はともあれ、困ってる人も居るから早く倒しちゃわないと。

草むらから出てくるらしいし、なるべく道の真ん中を歩けば急に襲われないかな?
回復担当ですけど、スキルの射程が短いから自分も前に。
街路灯だけだと明りが弱そうだから、敵が出たら全員に通達してから星の輝きで照らします。
あとは武器の大きさを活かして、爪が届かない間合いから攻撃。味方の傷はライトヒールで回復して、麻痺が入ってるようならクリアランスで。攻撃されたらシールドを使って魔具で受けます。危なそうならシールドで盾を。
物理が効きにくい感じなら七星剣に持ち替えます。ついでに星の輝きをヴァルキリージャベリンに変更して投げます。
2体とも倒したら、鞘込めのままの野太刀で一通り草むらをガッサガッサとやって他にも居ないか確認します。



リプレイ本文

●字面でドン
 女性に声を掛けまくっている男性撃退士がいるらしい。
 そんな話をRehni Nam(ja5283)が聞いたのはいつ頃だったろうか。
 何処でどう話が捻じ曲がってしまったのか、あらぬ疑いを掛けられてしまった彼の動向を探る為、後ろ髪を一つ結びに男性に扮したRehniは彼へ接近した。
 結果。
 物凄く希望に満ちた瞳で両肩を掴まれた。

 地味に嫌なモノが出た。
 話を伺っていく内、仁良井 叶伊(ja0618)を含めてこの中の何人がそう思っただろうか。
 それは勿論と言うべきか、当初に依頼を請け負った男性撃退士も同じくその様に思っていた。
 名前の事を抜きにしても、対策を安直に考えると『囮として胸の豊かな女性を用意して誘き出す』。
 そんな中現れたRehniと叶伊は、ともすれば男には天使、もしくは救世主の様に見えた事だろう。
 改めて募った撃退士達を端から端まで見渡した時も、「後は任せた」と、太陽に照らされたかのような清々しい顔で言われた事が印象に残っているくらいだ。
 もっとも。
「実は僕……本当は女なんだよ!」
 とRehniが普段の格好に早代わりした際は彼も困惑を隠せていなかったし。
「ボク、男! 男!」
 と撃退士達の間からひょこっと顔を出した犬乃 さんぽ(ja1272)が名乗り出れば、困惑が混乱に変わっていくのが目に見えた。
 念の為に言って置くが、さんぽは正真正銘の男性だ。
 ただ、何と言うか……先の言葉にも滲み出ているが、金髪ポニーテールの女性顔、極めつけに細身体型に露出度の高いセーラー服という衣装が見事に発言の全てを打ち消してしまっている。
 付き合いの無い男性撃退士からすればその言動の節々からも女性に見えてしまう事は仕方の無い事であり、まさか「じゃあちょっと触って確認……」という訳にもいかないので、微妙な笑顔で返してしまったのは許してあげて欲しい。
 とにかく、無事に妖怪退治の面子が集まった事に男性撃退士が安堵したのには変わりない。
 乳足りないという名前に依頼の全てを持っていかれそうではあるが、れっきとした天魔であることは証明済みだ。
(「乳足りない……変態……?」)
 そうSpica=Virgia=Azlight(ja8786)が思う気持ちも解る。
 巨乳に固執するそれは紛うことなき変態の姿。
 しかし、それを求めて一体何になるというのか?
(「妖怪乳足りないって……何でも妖怪付ければ良いと思ってない?」)
 天宮 葉月(jb7258)の思う所も理解出来る。
 やっつけ感は否めない。
 だが、それも天魔に対する恐怖心を和らげる為の、一般人の命名だとすればどうだろうか。
 無理が有りそうだ。どう考えても面白半分に命名されている。そうでないとも言い切れないが。
 それでも数多の天魔を屠って来た一人のラファル A ユーティライネン(jb4620)ならば、いくら相手がふざけた名前であろうとも油断が危機を招く事は想像出来る事だろう。
 今回の面子を並び見れば、油断すらも余裕という言葉に変える事もまた容易、ではあるのだが。
 また、依頼に参加した者達に女性が多かったのも男性撃退士に取っては有難い事だっただろう。
 強いて言うなら少し物足りないと言うか、彼が予想していた作戦が実行出来るのが葉月くらいか、というところだったが。
「ボクに任せてよ!」
 そんな中、前へと出たのがさんぽである。
 何度も言うようだが、彼も男だ。
 女性を囮にする事は少し躊躇いが有ったのだろう。
 それに、さんぽの案は名乗り出るに相応しいものであったと言えよう。
 彼女……ではなかった、彼の容姿ならではの術。
「そっちの方が似合ってるんじゃないのォ……?」
 後ろを向いたさんぽは手をかざすと、クスリと笑う黒百合(ja0422)に一度振り向く。
「……すっ、好きで女装するわけじゃないから」
 そばかすの頬を赤らめ、光に包まれるさんぽを見ながら、伊座並 明日奈(jb2281)は自分の胸に手を当てた。
(「乳足りない……お胸……ボクも欲しい……」)


 街道に人影は見当たらない。
 ただの田舎道には、寂しげに揺れる草花が願わくば人の手が入る事を拒むように生い茂っていた。
 民家という民家は広大な風景画の一画に点在しているだけであり、何処か生暖かい風に運ばれてくるとすれば何かを燃やしたような焦げ臭さ。
 葉月達はその道の真ん中を真っ直ぐに進む。
 敵の出現は道から外れた草の中。
 彼らの位置ならば、天魔が突然現れたとしても戦闘準備の猶予は充分に与えられるだろう。
 ここからでは未だその姿を視認する事は叶わない。
 草が邪魔をしているのか、道外れの畑が予想より深い位置に在るのか。
 どちらにせよ、無闇に動く事は避けたいところだ。
 やがて、彼らの進む道の両脇に生える草が、段々と高くなっている事に気付くだろう。
 恐らくは、ここからが奴らの生息地帯。
 特に目印らしい目印は無い。
 強いて言うなら、この自分達の腰、或いは肩まで伸びきった草の道がその印、といったところだろうか。
 人の歩く道を進むのは黒百合を含んだ七名。
 黒百合も自身の姿を変える術を心得ている。
 普段は小柄な彼女だが、今日の胸は一段と高い。
 これも敵を誘き出す為とは言え、巨大な二山を周囲にすれば、見方によればモデルの集団とも間違われそうだ。
 だが、そんなモデル達の一員である黒百合の顔は何処か憂鬱そうに溜息を吐く。
(「なんか珍しい敵ねェ……歯ごたえなさそうだけどォ……」)
 索敵の合間に、ラファルはもう一回黒百合からの溜息を聞いた。
「熱でもあんのか?」
 同じく変化の術で、こちらは男性に変装したラファルが黒百合に訊いた。
 元々の性格と口調からかラファルも随分と似合っている。
 名はラファ郎、といったところか。
「いいェ……まァ、さっさと捻りつぶしてやるわァ……」
 その会話を飛翔した状態で真上から聞いていた明日奈がふと訊ねた。
 勿論ディアボロへの警戒も怠らない。
 上空から見下ろした先に何も見当たらなかった報告のついでに、彼らに話し掛けた。
「でも、この中で一番狙われ易いのって……天宮さんなのかなぁ?」
 言われた葉月は少し悩み、改めて周りを見回す。
 確かに、傍から見ても彼女のスタイルは良い。
 だが、外見だけなら葉月にも負けない容姿がその場に二人揃っている。
 それに、話では男性も多く襲われたと聞く。
 それが事実なら、自分だけ狙われる恐れは少ない……筈だ。
「まァ、私達の今の胸は巨乳ではなくて虚乳(偽乳)だけどねェ……あァ、別に悲しくなんてないわよォ、無駄な乳なんて被弾面積や空気抵抗が上昇して役に立たないでしょォ?」
 歩きながら、黒百合が明日奈へと返した。
 これも戦闘狂ならではの考え方か。
 と、叶伊が急に足を止め、草の一点を振り返って凝視した。
 それに続いて、Rehniも叶伊の視線の先を見やる。
「やはり……そこですか」
 その言葉に撃退士達は身構えた。
 出て来るとするなら、奴らしか居ない。
 街路灯の頼りない明かりをよそに、葉月は自身を中心としてその辺りを照らし出す。
 唯一明日奈だけは、街路灯が朧げに点灯を始めるその更に上を飛翔し、草むらの中を見下ろした。
 叶伊が聞いたのは、微かに草の擦れる音。
 Rehniが感じたのは、そこに蠢く二つの生命。
 そして明日奈が見下ろしたものは、草を倒しながら蛇行して接近する影の塊。
「皆、来るよっ」
 言葉の終わる前にSpicaの身体を銀のヴェールが纏う。
 紫の瞳が迎撃態勢に入る皆を通り越し、今やハッキリと近づく草の音の元に向けられた。
 明日奈が言葉を終え、旋回して自陣へ舞い戻る。
 その、直後。
 草の根元からそいつらは這い出した。
 地を這う動作のくせに割と素早く、水溜りが流れ出て来たかのように撃退士達の前で起き上がる。
 青い宝石の名にはふさわしく、やすりで丹念に磨き上げられたような滑らかな肌。
 水色と表現出来るには出来る色。だが、混じり合う暗い影はどうしても禍々しさを拭い切れていやしない。
 確実な二本足はおぼつかない足取りで撃退士達へ歩を進める。
 やがてそれは、倒れ込むような勢いを付けて攻撃の足取りとなり。
「お……ちち……くれ……」
 刃を模した掌と共に接近。
 その正面から、ミサイルが撃ち込まれた。


「わかってる? これはレフニーちゃんに対する挑戦だぜ」
 後方に跳んで距離を取り、ミサイルを撃ち込んだ張本人のラファルが言う。
 前衛の撃退士達の合間を掻い潜ったミサイル群は、正面から突っ込んだブルージュエル達に激突。
 一瞬固まったRehniを尻目に、Spicaと黒百合は翼を顕現させ、同時に明日奈の滞空する真上へと上昇する。
「ボクだってお胸欲しいよ!」
 彼女らが飛翔した事で舞い上がった風は、空に染まる黒いオーラの端をなびかせる。
 さながら魔法少女のように瞳を閉じて空中で一回転した明日奈は、黒のオーラを纏いながら自身の武器を敵へ向けた。
 猫の頭部にデフォルメされた悪魔の羽根。
「本気(マジ)狩るしちゃうぞッ☆」
 少女チックに明日奈を彩るその杖を向け、オーラを振り払って一気にブルージュエルへ滑空する。
「キャット・サンダーストライク!」
 形成された猫の手が未だ残る爆風の中へ押し込まれ、手前に居たジュエルがそれに飛ばされた。
 入れ替わって地上からは、叶伊が斧槍から衝撃波を巻き起こして残る爆風ごとブルージュエルを追撃する。
 叶伊の背後から天高く放られたのは、さんぽがアウルで創りだしたヨーヨー。
「待っていたよ、妖怪ちちたりない……くらえ、鋼鉄流星ヨーヨー★シャワー! 降り注げヨーヨー達!」
 高められた力は空中で解放され、ブルージュエル達にのみ無数のヨーヨーとなって降り注ぐ。
 回避も叶わずヨーヨーに身を撃たれたブルージュエルだが、ラファルが放ったミサイルの重力にも屈せずに一番近い位置に居た叶伊へ攻撃を仕掛けた。
 明日奈の攻撃で怯むブルージュエルとは別に、叶伊と同じ射程を持ってもう一体が地面に手を突き刺すと掘り起こすようにして一直線に隆起させた。
 これを跳躍して躱した叶伊は、隆起した土の上に乗るとその上を伝って一気に接近する。
 それと同時に前方へ駆けた葉月もギリギリの間合いから野太刀を斬り払い、ジュエルの身体を斬り裂く。
 序盤から一気に攻めに転じる事が出来た撃退士達。の、後方で盾を翳したRehniの姿。
 挑戦ってどういう事だろう。
 敵は胸の大きな人を狙うんじゃないのかな?
 というかよくよく見れば自身のそれよりは相手の方が『有る』ように見えなくもない。
 抉る気か?
 確かにAだけど。
 確かにAだけど!
 勢いを付けて前方に跳躍したRehniの盾は、葉月の剣に仰け反ったジュエルの身体を強かに打ち付けた。
「お、心なしか効いてるっぽいぜ。流石レフニーちゃん、男装してるままなだけあるな」
「もう解いてます」
 笑わない瞳で返すRehniの後方から、ラファルのバズーカがジュエルの一体に着弾。
 その上空から、黒百合とSpicaの銃弾がそれぞれに追撃を喰らわせた。
「近接、ばっかり……いいカモ……」
 動く標的に照準を合わせ、Spicaは淡々と呟く。
 確かに、あの隆起の土もここまで伸びる事は無いだろう。
 その真下で、一番近かったRehniに対して刃の手刀が突き出された。
 もう一体のジュエル近くまで移動していたRehniの頬を刃が掠める。
 軽微なダメージだ。しかし、麻痺を伴うならば油断は出来ない。
 その間に割り込んだ叶伊は、雷の刃を形成すると横薙ぎに振り払った。
 迸る電流が宝石の身体を駆け巡る。
 目に見えた電撃の欠片は、ブルージュエルの体内を逆に侵食させた事を物語っていた。
 猫の手で追撃を加えた明日奈の後ろで構えたのはさんぽ。
「お前達が2人なら、ボクだって……♂双忍♀ダブル☆ステルス! おいで、もう一人のボク」
 さんぽの呼びかけに応え、地上に二人目のさんぽが映し出される。
 いつもなら逆の性別が出でるのだが、今日はそのままの分身体がその場に並んだ。
 攻撃を受けたRehniの元へ駆けた葉月は彼女の傷を瞬時に見て取り、癒しの光でRehniの傷を回復させる。
 大丈夫だ、動けている。麻痺に陥ってはいない。
 再びラファルの砲弾が手前のジュエルに飛来する。
 すると、それを上空で見ていた二人は途端に行動を起こした。
「隙だらけだわァ……」
 黒百合が仰いだ両手から劫火が二体のジュエルへ降り注ぐ。
 Rehniに釣られてジュエルの移動した先が、二体同時に固まってしまったのだ。
「固まるの、狙ってくださいって……言ってるようなもの……」
 そこへ、槍へと持ち替えたSpicaは三日月の刃を放ち、二体へ斬撃を浴びせかける。
 続けて、包丁もとい刀を撫でながらRehniはゆるりと接近。
 妖怪・乳置いてけとしては善き仲間と言いたいが……。
「残念ですが」
 ディアボロと言う時点で殲滅確定だ。
 その刃にあえなく終わりを迎えたジュエル、その奥のもう一体に向けて、さんぽは言い放つ。
「さぁニンジャの時間だ……影時シャドー★クロック!」
 さんぽの姿がぶれる。
 一瞬にしてジュエルの視界から消え失せた彼は、分身と共に死角から合わせて三回の挟撃を重ねた。
 宝石の身体が斬り刻まれる時、さんぽはその断末魔を耳にする事であろう。

「おま、え……ちち……おや、を、くれ……」


「どういう事かしらァ……?」
 僅か三分足らずの殲滅後、周囲索敵の後に黒百合は地面に降り立って訊ねた。
 どうやら、潜んでいたのはあの二体だけだったようだ。
 敵の言葉を繋げて聞くなら「おまえのちちおやをくれ」。
「お前の父親をくれ?」
 野太刀で伏兵が居ないか探索していた葉月が考えを復唱する。
 つまり、ディアボロが狙っていたのは女性ではなく、その時一緒に居た男性だったのだろうか。
 だとすれば、男性側に被害が多いのも少しわかる。
 胸の大きな女性というのも、共に居たのが男性であるならば……もしかしたら、単に巨乳ではなかった、と。
「私の子の父親になってくれ、とも推測出来ますね……」
 Rehniは顎に手を当て、少し思考する。
 狙われた中には胸の無い女性が含まれる事も考えられる。
 これ以上の情報は、詳しく調べてみるなら判明するだろう。
 だからといって余計な詮索をする必要も無いが。
 これも、飽くまで予想の範囲で考えられる事である。
 だが、これでこれ以上の被害は止められたと言って良いだろう。
 あのディアボロ達が、一体何を求めていたのか。
 それは、今や皆の想像に任せる他にないのかもしれない。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:1人
MVP一覧
 護法の銀・Rehni Nam(ja5283)
重体一覧
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赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部1年3組 女 鬼道忍軍
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部2年11組 男 ルインズブレイド
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部2年10組 男 鬼道忍軍
護法の銀・
Rehni Nam(ja5283)

高等部3年1組 女 バハムートテイマー
哀転の白・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部1年3組 女 阿修羅
もふもふもふもふもふもふ・
伊座並 明日奈(jb2281)

高等部2年4組 女 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部1年8組 女 鬼道忍軍
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部1年10組 女 アストラルヴァンガード


依頼相談掲示板

乳置いてけ
Rehni Nam(ja5283)|高等部3年1組|女|アス
最終発言日時:2016年09月19日 10:07
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月18日 06:52


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