少女ファイトと作品内の「性」について
愛する読者様へ
こんにちは!日本橋ヨヲコです。今日は誕生日&少女ファイト10周年の節目でもあるので記念に少し長く語らせてください。
少女ファイトは高校の女子バレーを描く世界なので、女の子の登場人物が凄く多い作品になっています。たぶんもう軽く100人は超えてますよね。いろんな考えを持ったいろんな女子がわんさか出てきます。
そういうのもあって、昨今のGL(ガールズラブ)ブームといっていいのかな?女の子同士の恋愛を好まれる読者様が世に増え、それをきっかけで手にとっていただけるという、バレーに興味が無い方でもその機会に恵まれたこと、不思議なめぐり合わせだなと感謝しています。
そして近年その傾向が顕著になるにつれ、一部のご感想にこの作品内の男女カップルが多すぎるというご感想、たまに拝見します。ここからヘテロラブ=HL(異性愛)、ガールズラブ=GL(女の子同士の同性愛)と略させてくださいね。(HLはいわゆるNLの意なんですが、「ノーマルラブ」という言葉が苦手な方もいるので今回はHL表記にしますね。個人的にはわかればどちらでもいいよ派です。)
今回はこの少女ファイトと性についてお話させていただこうと思います。あっ、タイトル重めですがこの記事は暗い話じゃまったくないのでご心配なく!わたしはすごくたのしくまじめに、でも少しの緊張感を持ってお伝えしたいことを書かせていただきますね(*´∀`*)
時間がない方のために先に結論から言うと、「わたしのまんがに関しては、作品中の性別はあまり気にしないで読んでほしい」ということです。(これはあくまで希望なので、押しつけではないですよ😊)
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〜注:ここから先は少女ファイトのネタバレが超含まれています!!!〜
(しかもすごく長いので興味と余裕がある読者様だけ読んでね♡)
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まず主観やイメージではなく数字から考えてみましょう。
LGBTの日本人口に対する割合は7.6%といわれています。100人中3〜5人くらいがセクシュアルマイノリティとすれば、少女ファイトのHL率はそこまで極端なものではなく、普通の割合なんですよね。(そしてすでに3〜5人はLGBT描写がある選手も出ています。)少女ファイトはGLまんがではないのでHLが多く見えるのは仕方ないことだと思います。わたしはこの世界を現実に近い性的嗜好の塩梅で描いていますから。ただ、女子は若い頃お互いをより必要とし執着する傾向があり、少女ファイトでは百合に近い表現になっている場合も多くあります。GLを求めている読者様がその成分をこの物語に多く望んでいる場合、期待している部分のすれ違いが起きるのは当然のことですね。個人的には終着にむけて、性別すら凌駕する関係性を描きたいと思っているのです。G戦場ヘヴンズドアってそうだったとおもうんですよ。あれは町蔵と鉄男の関係をあえてカテゴライズ(あまり好きじゃないけど)すると「ブロマンス」に属すると思うので。
そして、黒曜谷高校の中でもまだはっきりと全員がHLです、と言い切った描写は描いていません。自分の本来の性的嗜好は歳をとるごとにわかってくる場合も多いですから、若い頃はとりあえず異性と付き合ってみることも多いでしょう。そして他校メンバーやOGや全日本などにはLGBTに属する選手もいます。あまりネタばらしはしたくないのですが、ひとつ答えを言ってしまうと大石真理はバイセクシュアルです。それに加えて彼女は天然ともいえるコミュ力で友人にも恋人のように接していたから、みんなが虜になってしまったという側面があります。
あと意外と男子と完全に付き合っている女子メンバーは少ないんです。黒曜谷だと鏡子とナオくらい。これは女子9人程度の高校部活内だとそこそこリアルな数字だと思います。ルミや志乃の恋は連載中に達成できるかな…?という困難さ。厚子とサラは少し相手に関心は出てきたけど恋心までいってない。ユカは言い寄られてるだけ。学は一旦別れて今は家族のような愛。練も両想いとはいえ何の約束もしていない宙ぶらりんの状態。将来的に恋愛になるかもしれない相手がいる、というだけで、まだ「カップル」ではないんですよね。OG組だと繭と笛子に至っては独り身を貫こうとしてる。政子も実家の跡取り問題で婚活は難航中。環と知花は既婚ですが環は現在子どもを作る気がなく、知花は妊娠中。
そんなわけで、作者としてもキャラにもそれぞれ多種多様な生き様を描いてまして、カップルになったといってもそこまで単純な関係ではありません。
あとその割合やデータを一旦横に置いておくとして「HLが多い」イメージが強いのは、わたしはキャラを正反対の気質のキャラで対峙させることが多く、その手法を使うと性別も逆になってしまうという現象も関係してる気がします。これはもう対比できるキャラとの深い関係性を描く自分の癖なのでしょう。
そして人が人に興味をもったり好きになることも「成長」ですし、自分以外の他人を大切に感じたり複雑な感情を抱くのは今まで見ていた世界が一変するので、その一連の変化をわたし自身はとても肯定的にとらえています。だからそれを「リア充」という簡単な言葉で終わらせたくない。自分以外の人格と誠実に向き合わなくてはいけなくなるわけですから。充実じゃなくむしろ戦いかと。
でもここはリアルで恋愛自体を苦手(または興味がない)とされる方とで趣向がはっきり別れますよね。それはもう仕方のないことだとおもいます。
なので、わたしは各キャラにそれぞれ異性を用意したという気はなく、デビューから一貫して関係性フェチなので、主要キャラに心が揺れる相手が出来た時どう感じるのか、どう動くのかをすっごく描きたかったから描きました!としか言えず。無我夢中で描いてる時ってそういうパッションだけなんです。わたしは誰かが誰かを強く思う気持ちが好きです。心が動く瞬間が。そういう描写を描くと一見「恋愛」が「多く見える」のかもしれませんね。裏には「恋愛」という一つの単語ではまとめられない感情があったとしてもね。単純に描きたくてたまらないんだと思います「人が人に興味がある状態」が。それは誰かが自然にGLを好きで、自然にすべてをGLで描いたり表現していたりすることとそこまで変わらないんじゃないかな。(そしてわたしがそれを責めることなどありえないわけで、むしろそういった表現を守りたい側なわけで。)そこはわかっていただけるとすごくうれしいな。
ここからは由良木や鏡子を例を出して「表現がわかりにくかっただろうな」と感じた部分の補足をしてみますね。普段はこういうの無粋になるのでやらないのですが、少女ファイト10周年記念なので裏話としてお許しください。
8巻で由良木がサラに「君は鏡子ちゃんと寝れないでしょ」と言って彼女を揺らがせたことがあります。この後、ある種同性愛をよく理解できていないヘテロ男性にありがちな無粋な言葉を乱発します。由良木は登場初期からバイを匂わせる空気もあり、その方面に非常に理解がありそうなので意外に偏った発言ですよね。ドラマCDでもサラはシゲルと似ているから惚れたという描写もあります。これは彼はサラを追い詰めて怒らせ、本音を吐き出させたい目的があったからです。自分の気持ちに気づいてほしい爪痕を残す意味もあったのでしょう。
いわゆる過度の一般化に近い慣習を叩きつけて本音をさぐるしたたかさがあるのも由良木なのです。思いの外打たれ弱かったサラに対してアメとムチ的な方向転換をし、付き合うかどうかの結論を急がず、まず君の世界に自分も入れてくれと懇願することで自分の付け入る余地を長期戦で画策しています。ずるいですね。でもこの特殊攻撃はサラにかなり効きました。由良木のだいすきアピールに手を振り返すくらいには気を許すようになっています。その後彼は12巻で鏡子に「オレは君達の主従関係に妬いてたから そう思い込ませたかっただけのずるいやつですよ ごめんね」と暴露します。鏡子と由良木は(ドラマCDを聴いてもらえるとよくわかるのですが)戦友なので、鏡子はそれに対して「あたしはサラを抱けるけどねー」とか「あたしに遠慮しないでいいよ あんたも一緒にくれば?」と返します。これはもう将来的には4人で暮らそうよくらいの発言だと思ってくれていい。千石は嫌がりそうですけどね笑。鏡子は千石と恋愛をしていますが、サラの存在は別格で執着心を捨てられていません。(それはこの先の展開でよりわかると思います)
そんなかんじで表層に見えているものより深層の気持ちの矢印はかなり複雑です。鏡子は理事長に似てとても欲深いので、千石もサラもどちらも自分の近くに置こうとしています。ここは現時点でそれがわかってもわからなくても大丈夫なところですが。そう、この二人は愛が重いんです。そして性の傾向も複雑な形をしている関係性です。だから単純な「HL」でもない。バイとはいえどちらかといえばゲイよりな由良木がシゲルと重なるサラだからこそ興味を持ったのかもしれませんし。鏡子のサラを「抱ける」発言もあながち冗談ではない気がします。
あとわたしは完全なカリスマキャラをあまり作りません。強キャラにも必ず内面か身体面に弱点や欠点をつけます。(その2つは時には長所にもなります)鏡子の弱点は「体の弱さ」と「普段は強いのに千石やサラの問題になると脆い」ことです。由良木の弱点は「過去に多大なる迷惑をかけた姉」の存在と「私利私欲で人を脅す」部分でしょうか。(ミチルにも一回やってますね)なので由良木とサラ、千石と鏡子の恋愛を快く思われない方は、そういった部分を受け入れ難いのかもしれませんね。ただ鏡子と千石は幼少からずっとお互い思い続けてようやくの行為なので、10年ほどかかってるから許してやってほしいところもあります。
あと、なぜその相手を選んだかという性格やエピソードは作中に描いてます&ない場合はたぶんこれから出ます。(キャラによってはあえてぼやかす場合もありますが)なので作者としてはどれも意味のある関係性です。ただ人間は各自の主観で生きているものなので、作者には意味があっても読者様には意味がないと思える部分も出てくることでしょう。それに加えて恋愛描写が苦手だと意識的に読み飛ばしてしまう悪循環があるのかもしれませんね。
あ、えとですね、これ「苦手なら読まないでね」って話ではまるでなくてむしろ逆で、恋愛描写が苦手な方でもどうにか読めるような表現ができるように精進していきたいのです。
アホの子として発言してしまうと「性別とかこまけぇこたあいいんだよ!!」という気概で描いていますし、いました。そこで混乱させてた部分があったなら、それは「すまんかった」というしかなく🙏 見せ方を変えていくにはこの先10年くらいトライアンドエラーを繰り返していくことになるとおもうけど、もしよかったら気長に見守ってくださると本気でありがたやです。節目なのでちょっと抱負。
「性」に関して自分の考えを言わせていただくと、人間一人一人の「性」ってすごく複雑で、「性別は女性だけど脳は男性」→「性的嗜好は男性が好き」→「女性的な格好をするのが好き」→「だから結果的に女性に見えている」という場合もあるし、男性の逆版もまたしかりですよね。だからわたしはキャラクターの男性・女性も「物語の便宜上の一応の振り分け」だと思っているところがあって「頭の中はわからないよね」と考えています。そして当たり前ですが中には性的嗜好を隠して生きている子もいます。まだ自分の嗜好に気づいてない子もいるでしょう。性自体がない子もいます。リアルしかり、作中でも描写されてないだけなんですよね。そこをご理解いただけるとこの上なきしあわせです。
わたしはどの立場(ヘテロも同性愛も無性も)も尊重したい派です。だから個人的に「GLが好きだからHL描写いらない」っていうご意見は悲しく思います。本来そこに貴賎はないはずだから。歳を重ねると男女の性差が薄れてきつつあって、最後に残るのは人間性だけな気がして。なんか複雑になってきましたが、人の嗜好を勝手にカテゴライズしないのって愛だと思うんですよね。枠に分けても細かい性癖は全員異なりますから。
わたしは表現する側の一人として「誰かの描きたい表現を、誰かの性的嗜好ではないからといって安易に否定されないこと。」を望んでいます。空気や同調圧力で本来描きたかった表現を捻じ曲げさせるのはとても悲しいことだと常に思っているので。そういうことも考えながら少女ファイトを描いています、ということを今年の誕生日ではお伝えしようとおもったのでした。
少女ファイトは幸いなことにLGBTの一部の読者様からすごくあたたかい支持をいただいていることも知っていて、今回の記事を書かずともその前から作品に理解を示してくださる方も多くいてくださること、感謝しかありません。わたしも同じようにみなさんを応援しています。
あとどんなに壁の高いHL設定があっても、主体性をもってGLやBLの可能性を追求する二次創作の読者様の姿勢も好きです。もちろんキャラの関係性は当初の設定のまま描くので、それに対して必要以上に媚びたり性的嗜好を変更するサービスをしたりはしませんが。(逆に言えば「当初の設定のまま」なら望む可能性通りにいく場合もあるでしょう)
作品は「それを媒介にして何を思い、どう心が動いたのか」が重要ですし、読者様ご自身が「主体的に考える」ことによって完成するものですから、お互いを前向きに支え合える関係はとても健全だとおもうのです。そんな読者様に多く出会ってきたからこそ、20周年までたどり着けました。本当にありがとうございます。
日本橋はいつでも、悩んで、考えて、自分らしく生きようとする読者様の味方ですよ。
みんなちがって、みんないい😊20周年以降もどうかよろしくおねがいします!