米マックス・プランク・フロリダ神経科学研究所は9月29日、学習・記憶に重要な分子である神経栄養因子BDNFとその受容体TrkBの活性を、生きた神経の単一のシナプスにおいて可視化することに成功し、BDNFとTrkBが神経シナプスの情報伝達効率を増強させる新しいメカニズムを発見したと発表した。
同成果は、マックス・プランク・フロリダ神経科学研究所 安田涼平ディレクター、デューク大学 ジェームス・マクナマラ教授らの研究グループによるもの。9月28日付の英国科学誌「Nature」オンライン版に関連論文が2報掲載された。
シナプスの情報伝達効率の変化は、記憶を形成する主要なメカニズムだと考えられている。BDNFとTrkBは、シナプス伝達の変化や学習・記憶に重要であることが知られているが、記憶形成の場であるシナプスでの詳細な挙動は、これまで明らかにされていなかった。
今回、同研究グループは、2光子励起蛍光寿命測定顕微鏡などを用いた新しい手法により、BDNFの放出とTrkBの活性を、後シナプス(シナプスの受信側)を形成する構造である樹状突起スパインで可視化する手法を開発。これにより、刺激されたスパインからBDNFが放出される様子と、刺激されたスパインのTrkBが活性化される様子の観察に成功した。
この結果は、BDNFがスパインから放出されること、それが同じスパインにあるTrkBに結合し、TrkBを活性化することを示唆している。さらに、活性化されたTrkBはスパイン内部の低分子量Gタンパク質とよばれる一群のタンパク質を活性化し、スパインの構造変化を引き起こすことによって、シナプスを増強することが明らかになった。
同研究グループは、このように、自己分泌機構が樹状突起スパインのような極小の細胞構造で行われることは、これまでの常識を覆す発見であるとしており、なぜこのような複雑なメカニズムによって情報の貯蔵が行われるのかを解明するためには、さらなる詳細な研究が必要であると説明している。