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<ノーベル賞受賞大隅教授>自他共に認める「へそ曲がり」 原点は故郷・福岡

西日本新聞 10月3日(月)19時32分配信

 「競争するのは好きじゃないし、勝つ自信もない」。今年のノーベル医学生理学賞に決まった東京工業大栄誉教授、大隅良典さん(71)はそう語る。研究者らしからぬ発言だが、その真意は「人と違うことをやる」ということだ。

【画像】少年時代の大隅氏。九州大工学部教授だった父芳雄さん、母しなさんと

 自他共に認める「へそ曲がり」は徹底している。父の芳雄さん(故人)は九州大工学部の元教授(鉱山学)。「父が九大にいたから東大に進学し、工学以外を選んだ」。1988年に東京大教養学部助教授となって研究室を持った時も、それまでのテーマは捨てて酵母の液胞における分解メカニズムの解明に乗り出した。

12歳上の兄がたびたび科学書を買ってくれた

 「たくさんの人がやっている領域は『俺が1番』と早さを競うしかない。でもそこに興味がない。誰も見たことがない現象を見るのが楽しいんです」。助手もいない中、独り顕微鏡と向き合った。それがオートファジー(自食作用)の発見につながった。

 科学者としての原点は故郷にある。福岡高(福岡市博多区)では化学部に入り、顕微鏡や試験管に親しんだ。仲間とエチルアルコールと蒸留水を混ぜた試薬を飲み、赤ら顔で帰宅するやんちゃな面もあった。12歳上の兄で東京女子大名誉教授(日本文化史)の和雄さんがたびたび科学書を買ってくれたのも大きい。自然と研究者の道を志した。

「人と違うことや面白いことに挑戦できる」

 オートファジーは近年、医療分野での応用が期待され注目を浴びている。それでも「生命の本質に迫る問題は酵母でも解くことができる。流行を追いかけずに自分の面白いことをやるのが私の基本精神」と基礎研究を重視する。研究の門をたたく学生には、まず顕微鏡での観察をさせる。

 若い研究者には目先の成果を追い求める傾向も感じている。「科学はそもそも見通しがつかないもの。すぐに成果は出ないかもしれないけど、人と違うことや面白いことに挑戦できる。残された時間でそんな環境づくりもやっていきたい」

西日本新聞社

最終更新:10月3日(月)23時3分

西日本新聞