インタビュー

伝説の鬼畜ライター「村崎百郎」の記念館が完成! 妻・森園みるくが語る“鬼畜”の素顔

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森園みるくさん(左)、きめらちゃん(右)。村崎氏の蔵書を集めた森園邸の一室にて

 今年4月、静岡県伊東市の博物館『怪しい秘密基地 まぼろし博覧会』(以下、まぼろし博覧会)に伝説の電波系鬼畜ライター・村崎百郎氏の世界を再現した常設展示『村崎百郎館』がオープンした。『まぼろし博覧会』は広々とした敷地に秘宝館チックなトンデモ系展示や密林の中にたたずむ巨大な聖徳太子像、世界古代文明の遺跡や昭和の世界を再現した懐かしい展示などがあり、ほとんど気狂い沙汰ともいえる“ごった煮”感が魅力。都内からでも電車とバスで片道3時間ほどで日帰りも可能な場所に位置する怪しい珍スポットだ。このイカレた博物館は老舗出版社『データハウス』の鵜野義嗣社長が生みだしたもので、同社が運営する伊東の人気スポット『怪しい少年少女博物館』『伊豆高原ねこの博物館』の姉妹施設でもある。

 伝説的ライターの村崎百郎氏は、93年に漫画家・根本敬氏(※)による「月刊漫画ガロ」(青林堂)のゴミ漁りに関するインタビューでデビュー。「すかしきった日本の文化を下品のドン底に叩き堕す」ことを目的に“鬼畜系”を名乗り、著書『鬼畜のススメ』(データハウス)『電波系』(根本氏との共著/太田出版)などを執筆しながら雑誌でも活躍。“電波”が頭の中に響く体質だと公表し、狂気を丸出しにしつつも豊富な知識に裏打ちされた秀逸な文章で独特の地位を築き、今も使われている「電波系」という言葉を定着させ、90年代のサブカルブームを代表するスターとなった。村崎氏のイメージを決定付けたのが、ライフワークの「ゴミ漁り」。捨てられたゴミから元の持ち主の人格や情念をすくい取る狂気的スタイルは出版界で異彩を放っていた。

 2000年代には各界クリエイターの生まれたばかりの赤ちゃんを褒めまくる『電波兄弟の赤ちゃん泥棒』(木村重樹氏との共著/河出書房)や鬼畜時事対談『社会派くんがゆく!』(唐沢俊一氏との共著/アスペクト)などで新境地を開き、“レディースコミックの女王”と呼ばれる妻で漫画家の森園みるくさんとのコンビで漫画原作にも進出した。

 ところが、今後の活躍が期待されていた矢先の2010年7月23日、自宅を訪ねてきた読者を名乗る男に刺殺されるという衝撃的な最期を遂げた。享年48。犯人の男は統合失調症で通院歴があり、精神鑑定の結果、不起訴処分になっている。

 事件報道によって村崎氏がプロフィールで名乗っていた「1961年シベリア生まれ、中卒の工員」はキャラクターであり、実際は北海道出身で明治大学文学部卒、さらに出版社『ペヨトル工房』の元編集者であることが明らかになった。それと同時に「鬼畜や電波もキャラだった」「実はイイ人だった」といった言説がネット上などに流れ、それが今や定説のようになっているが、果たして本当の「村崎百郎=黒田一郎(村崎氏の本名)」とはどのような人物だったのか。

 今回は「村崎百郎館」の完成を記念し、誰よりも近い場所で彼を見ていた妻・森園みるくさんと、村崎氏の唯一の弟子“鬼畜娘”こと「きめら」ちゃんに貴重なエピソードを聞いた。


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「村崎百郎館」には村崎氏の等身大人形も(人形作家の三浦悦子さん制作)


■「村崎百郎館」設立のきっかけ

──記念展示をつくるきっかけは何だったのでしょうか。

森園:きっかけは「双眼鏡」だったんです。事件の後、引っ越しのために以前に住んでいた家を整理していた時、村崎の担当をしていたデータハウスの編集さんが手伝いに来てくれて、その時に遺品の双眼鏡をお渡ししたんです。その編集さんが会社で双眼鏡をいじっていたら、データハウス社長の鵜野さんが気になったみたいで「面白いもの持ってるね」と。編集さんが「これは村崎さんの遺品で他にもいっぱい変な物があったんですよ」と言ったら、社長さんが面白いと感じたらしく「だったら、これから僕が造る『まぼろし博覧会』ってところに村崎さんの部屋をつくろう」といってくれたそうなんです

きめら:最初に村崎さんの部屋をつくるという話があったのは2011年です。それから2年くらい紆余曲折があって実際に制作に入ったのが去年。足かけ3年くらい掛かってます。

──どのような展示になっているのでしょうか。

森園:展示は村崎のライフワークだった「ゴミ漁り(※)」と「編集者・黒田一郎」。そして本人が最も大事にしていた「魔術」の計3つの部屋に分かれています。それと村崎が「月刊ムー」(学研パブリッシング)などが好きだったこともあって、様々なアーティストの不思議な作品が並ぶ「未確認生物(UMA)博覧会」というギャラリーを併設しています。最初は、単純に村崎の仕事部屋を再現するだけのつもりだったんですよ。6畳間くらいのスペースにして、すぐにつくれるかなと。だけど、実際に現地を下見したときに広さと荒れ放題ぶりにア然として、方向性を考え直してから企画がふくれていったというか…(笑)

──まぼろし博覧会は、閉鎖したまま約10年間も放置されていた広大な植物園を再利用しているとのことですからね。僕も現地で見ていますが、まだ手を入れていない建物の荒れっぷりはすごかったですね。

森園:建物内部も草が生え放題で大きな岩がゴロゴロしていましたからね。下見後、私一人で作るのは無理だ判断して、村崎が編集者として勤めていたころの『ペヨトル工房』(※)の代表だった今野裕一さんにお話をしたら、アーティストのマンタムさん(※)を推薦されたんです。マンタムさんはガラクタや骨董品をスチームパンク系の作品や退廃的なアートに生まれ変わらせる人なんですが、今野さんが「ゴミなら彼だ!」と(笑)。

──骨董とゴミは紙一重の世界なのかもしれないですね(笑)。マンタムさんが加わったことでどのような変化があったのでしょうか。

森園:マンタムさんに相談したら「村崎さんはいろんな顔を持っていたんだから、展示部屋を三つは作らないと」といわれ、別の時に村崎が親しくさせていただいていた漫画家の根本敬(※)さんにも話をしたら全く同意見だったんです。ですから、マンタムさんのプロデュースの下、村崎の部屋を忠実に再現するのではなく、3つの展示部屋を通じて彼の頭の中を再現するというコンセプトにしました。実際、村崎の人格は間違いなくたくさんありましたから。

※ゴミ漁り:村崎氏の代名詞。非常にアナログで悪趣味というイメージがあるが、かつてFBIを翻弄した米国の稀代のハッカー、ケビン・ミトニックも狙った企業のゴミから機密情報を盗んでいたことは有名。後年、ミトニックは「ゴミは宝の山」と語っており、デジタル化が進んだ現代においても情報入手の基本であり、最も効果的な方法の一つとされている。

※ペヨトル工房:80~90年代のサブカルチャーシーンを牽引した雑誌「夜想」「銀星倶楽部」「WAVE」などをはじめ、海外の幻想文学やアート系などの書籍を発行していた出版社。主宰者は今野裕一氏。1998年に出版活動を休止し、2000年に解散。その後、ミルキィ・イソベさんら旧ペヨトル関係者が設立した出版社「ステュディオ・パラボリカ」により、今野氏を編集長に迎えて03年から「夜想」がリニューアル復刊されている。

※マンタム:大阪出身のアート作家。骨董業を営みながら個展や様々な企画展などを手掛け、L'Arc~en~Cielのhyde率いる音楽ユニット「Halloween Junky Orchestra」のPVで特殊美術を担当するなど活動は多岐にわたる。「死より生まれる新たな文化」をコンセプトに有機物(動物の死骸)と無機物(骨董)を駆使した独特の作品を生み出し続けている。

※根本敬:特殊漫画大統領にして芸術家。1981年に「月刊漫画ガロ」でデビュー。「ガロ系」の中でも極北に位置する過激な作風で漫画界のみならず、音楽界やアート業界にも熱烈な支持者やフォロワーを持つオルタナティブ界の偉人。アクの強すぎる歌謡曲などの希少レコードを発掘する「幻の名盤解放同盟」の活動でも知られる。現在は執筆やアート制作の傍ら、渋谷アップリンクでトークショー「根本敬の映像夜間中学」を定期開催中。

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