今回漫画好きの方にオススメするエロ漫画は、早見純先生の「卑しく下品に」です。早見純先生は「史上最悪にエロくてグロテスクで変態的」と評される漫画家です。その作風は、(ヌキという意味での)エロ漫画という枠を完全に逸脱しています。(大なり小なり、この「漫画好きにオススメのエロ漫画」シリーズで紹介している先生方は、逸脱しているのですけれど)
断筆しちゃった早見純が奇跡的な復活をとげ、2000年代になって発表した力作群を集めたのが「卑しく下品に」(一水社)である。これは凄いの一語に尽きる本。早見純という作家が何故に天才と呼ばれ、そして何年も断筆してもファンから決して見離されず、それどころか新たなファンまで増やし続けた理由がはっきりとわかる一冊。
そんな早見先生の最近の単行本「卑しく下品に」を用いて、今回は早見純のススメ!
卑しく下品に p25
早見先生の話にはよく強姦が出てきます。エロ漫画には強姦はありがちなのですが、早見先生の強姦には特徴的なことがあります。それは、「常に視点が強姦される側の女性にある」というところです。
早見先生の強姦では、男の行為を肯定するようなことは一切ありません。やられる女性の目線で、ひたすら醜悪に描かれます。女性もエクスタシーに達する事などなく、ひたすらに不安感や悲壮感を噛み締めるのみです。これにより読み手には、氏賀Y太先生などのスプラッタ的なグロテスクさと一線を書く、精神的なグロテスクさや嫌悪感を沸々と沸かせてくれます。
上のようなやられている女性以外にも、女性主観はよくでてきます。例えば、死んだ叔父のノートに姪とのエロティックでグロテスクな想像が書かれているノートを永遠と描写する「ハメごろし記」では、それを読んで嫌悪を募らせていく姪のモノローグと共に話が進められます。
卑しく下品に p165
卑しく下品に p24
卑しく下品に p60
気持ち悪い物を気持ち悪く描くのには力がいる。それに精神的な嫌悪感を呼び起こさせる絵となればなお更だ。早見先生の絵は、線の一本一本までが気持ち悪い、と私は思う。絵だけじゃなく、文字も言い回しもモノローグもすべてが気持ち悪い。
上で例に出してp24の腐っていく少女が窓を眺める少女では、窓に映る対岸の滅び行く町の風景と腐っていく少女の重なりの演出がうますぎる。滅びと滅びのクロスオーバーを過剰な書き込みで表現している。秀逸すぎる。p60の手のアップは、こちらはザックリとした色の使い方と、どっしりとした線の使い方により、迫力のある気持ち悪さとなっている。
また、早見先生は次のような抽象的(?)な描写も行う。もう、ひたすらに、ただただ気持ちが悪い。
卑しく下品に p38
卑しく下品に p125
とくにえんえんと健全なセックスの話を展開し、最後のページで唐突に早見純本人によるとある女性への求婚文が呈示される「君の錠に僕の鍵」は、迫力あって思わず笑ってしまう。この迫力はこの人ならでは。
早見純「君の錠に僕の鍵」。童貞処女がセックスをしようというその瞬間をドラマチックに描写。珍しく純愛だと思ったけど、よく考えてみたらこの人の作品ってどれも純愛物語ではあるんだよね。その発露の仕方が特殊なだけで。
「卑しく下品に」に収録されている「君の錠に僕の鍵」は、健全なセックスの話をした後に、特定の女性へ早見先生が告白する話である。読んでいただければ分かるが、とにかく異質です。
がすがす強姦する話がある単行本の中にある告白。「現在 過去 未来」とか壮大な話もやばい。異常としか言いようがありません。そしてあとがきには冷静に「なるべく早くお返事下さい」これはやばい。
卑しく下品に p141
そんな訳で、この作品はここで紹介しておきながら、「決して万人にオススメ出来ない」、しかし一度は通過してもらいたい、そんな作風なのです。勿論、激しく拒否反応を起こす方もいらっしゃるでしょう。だからといってそれを歴史から抹殺させる事は決して許される事ではない。そこに自分を嫌でも投影して、その結果新たなトラウマが植え付けられようとしても、そこから逃げる事は出来ないのだ。逆に、そこに何かしらの「価値」を見出したのならば…それでいいんじゃないかな。
早見純作品には、大抵の人が眉をひそめる。当然である。
大抵の人が生理的に受け付けない。当然である。しかし、だからと言って社会から抹殺しようとか、袋だたきにしようとかいう気持ちが起こる人がいたとしたら要注意。そういう人は、御自身が集団ヒステリーを形成する異常心理の持ち主である可能性が高い。皆さんも一度早見作品を読んでセルフチェックしてはいかがかな。
もしあなたが、考えることを止まず、物事を多角的に見れるような漫画読みならば、一度早見純先生の「卑しく下品に」を読むことをオススメします。きっと気に入っていただけると思います。
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