大学院サバイバル!? : 先行研究のまとめ方、陥りやすい3つの罠!?

(写真:アフロ)

このところ、研究室の大学院生の指導をしていて、痛切に思ったことがあります。

多くの大学院生が、先行研究をまとめるのが苦手である

ということです。

しかし、それを大学院生のせいにすることはできません。僕自身がきちんと教えていなかったのです。

研究をするためには、先行研究(過去の研究で何がわかっていて、何がわかっていないか)を整理し、まとめ、かくことが非常に重要ですが、それを改めてきちんと体系的に教える事は、あまりしてきませんでした。論文をかくなかで、OJT的には教えてきましたが、それを敢えて、言葉をつくして説明する事はしてきませんでした。

これについては、僕はきちんと教えてこなかったのではないか、と反省をいたしました。彼 / 彼女たちに指導をする一方で、ここでも、先行研究についてのまとめ方についてまとめておこうと思います。

大学院生が先行研究をまとめるときに陥りやすいケースNo.1は、「あれもあります、これもあります、こっちは、こんなことをやってます」的に、いろいろな先行研究が脈絡なく「並べられてる」かたちのものです。「脈絡なく」というのがポイントです。

要するに「並べた」だけ。

僕は、このタイプを「食い散らかし型」と呼んでいます。

先行研究は「並べる」のではありません。

このタイプに陥っている場合、文章に頻出する「接続詞」があります。もし、あなたの先行研究のまとめにその接続詞が頻出しているようであれば、「食い散らかし型」に陥っている可能性は「ゼロ」ではないかもしれません。もし論文あったら、チェックしてみて。

「食い散らかし型」に頻出する接続詞は、「ちなみに」「さて」「ところで」です。

さすがに「話を元に戻すと・・・」はあまり見られませんが(笑)、これらの接続詞を用いれば、これまででてきた話と少し違う話を、そのあとで続けることができます。

逆にいえば、これらの接続詞が先行研究のレビューにおいてでてくるということは、逆接でも、順接でもなく、文章がつながってしまっている状態、すなわち、「羅列」になっていることを意味します。

極端な話、

中原(2008)は・・・・といっている。

ちなみに

佐藤(2007)は・・・・といっている

ところで

鈴木(2006)は・・・・といっている

さて

高橋(2009)は・・・・といっている

やっぱり

中原(2008)は・・・・といっている(笑)

・ 

という感じで、ナンボでもつながるんですね。

これは避けたい。

さらに深刻なのは「接続詞がなく先行研究が羅列されている状態」ですが、こちらもたまーにあります。

ポイントは、「中原(2008)」「佐藤(2007)」「鈴木(2006)」「高橋(2009)」で述べている内容に、何の意味的連関もつけられていないことです。

中原(2008)は・・・・といっている。

佐藤(2007)は・・・・といっている

鈴木(2006)は・・・・といっている

高橋(2009)は・・・・といっている

これを避けるためには「意味的連関」をつければよいのです。

中原(2008)は・・・・といっている。

中原のいっている・・・は・・・だけど、それと違うことに佐藤がある

佐藤(2007)は・・・・

佐藤は・・・であるが、それと類似するのは鈴木である・・・

鈴木(2006)は・・・・といっている

という風にね。

順接であれ、逆接であれ、その「意味的連関」を探すことが、「先行研究のレビュー」という作業です

繰り返しになりますが、先行研究のレビューというのは先行研究を「脈絡なく並べること」ではありません。

先行研究同士の「意味的連関を探し、それを述べること」なのです。

次に陥りやすいケースは、先行研究を読んでいるうちに、結局、どんどん問題が発散していくタイプ。

これは「カオス型」と読んでいます。

もしかすると、「オレ、ちゃんと勉強してるってこと、そこんとこ、わかっといてよね、4649!」という感じでのアピールがあるのかもしれません。なぜなら、全然関係ないものまで引用されてる場合もあるから(笑)

本来ならば、少しずつ少しずつ、問題がフォーカスされていかなくてはなりません。

読み込んだ複数の先行研究をつなげて、ひとつのストーリーにして、最後の最後の1点においてリサーチクエスチョンにつながる。

ストーリーにするときには、先行研究同士の共通点、違いなどを見つけて、グルーピングしたり、対照させたりするとうまくいく場合が多いです。

例えばね、こういうかたちで、グルーピングしたり、対照させたりします。

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先行研究を概観し大別すると、3つの異なるアプローチが見いだせる。

第1のアプローチは・・・である。例えば中原(2010)...林(2001)は・・・

共通点は・・・である

第2のアプローチは・・・である。例えばTAKUZO(2010)...和田(2005)・・・

共通点は・・・である

第3のアプローチは・・・である。例えば高橋(2010)....三橋(2011)・・・

共通点は・・・である。

第一のアプローチ、第二のアプローチ、第三のアプローチの差異は・・・である。しかし、において共通点は見いだせる。よって、わたくしめの研究では、ここを研究してみたいですぅ、いいすか?

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要するに、先行研究の共通点、差異点をみつけて、「構造」をつくるのです。

くどいようですが、先行研究は「並べる」のではありません。

意味的連関を見つけ」をして、願わくば「構造」をつくると、自然と「フォーカス」が絞れるようになります。

そうやって、あの手この手をつかって、論理をたどり、すこしずつすこしずつ問題領域を絞っていきます。

そして、究極の「1点」に問題をしぼりこみます。

「1点」がポイントです。

なぜなら、

One paper, One research question, One conclusion

が原則だからです。だから、先行研究からリサーチクエスチョンにつながるところは、1点に絞ることが求められます。

その1点でリサーチクエスチョンにつながる瞬間では、

「このリサーチクエスチョンを解くことが、私にとっては運命だったんだ、この運命には逆らえないわ、アミーゴ」

というような状態になっていなくてはなりません。

神々しい感じなんだよな、リサーチクエスチョンとつながるときは。

あまりにも必然、あまりにも必然という感じで、この1点に絞るのです。

「この問題を解くために、オレは生まれてきたんだ!」

という感じで、今まで先行研究をレビューしてきたことの努力を、1点で昇華させるのです。

そう、リサーチクエスチョンとは、必然的な、あまりにも必然的なものなのです。

リサーチクエスチョンを探すとは、

これを解かなくては、わたくしめは、「どうにも、こうにも、にっちも、さっちも、たまりまへん、かんにんしておくれやす」という感じ(?)の、「たった1つのこと」を探す作業

です。

最後によくおこるのは、「あれもいいよね、これもいいよね」的に、先行研究がとりあげらており、きちんとした批判がなされていないものです。

僕はこのタイプを「みんな違って、みんないい型」と呼んでいます。

「みんな違って、みんないい」が通用するところは世の中で多いのかもしれません。

が、研究の現場では、通用しません。きちんとした「批判」をひとつひとつ丁寧に行っていく必要があります。

じゃあ、「批判」をするとはどういうことか?

それはよいところを評価し、きちんと課題を見つけることです。こういうところは注力できているけど、ここを見逃している、と、先行研究をリスペクトしつつ、きちんと評価することです。

他人の研究の「重箱の隅」をつついて、「ここにこんな穴があるから、オマエの研究、全部ダメじゃ、ボケ」的な先行研究の批判をたまにみかけますが、そういうのは僕は好きじゃありません。文章に「知性」が感じられません。

確かに、研究には「攻撃性」が必要です。

今まで誰もやらないから、オレがすんのや! なんで、今まで、こんなアタリマエのこと誰もやってないねん!ヴォケ、だったら、オレがやるほかないやろー!

というような、ある種の攻撃性や怒り。

でもね、その攻撃性や怒りを発揮する前に、しかし、他人の研究をいったんアクセプトし、リスペクトしてうえで、褒めるべきことを褒め、課題を述べる。これが、僕は「知性」だと信じます。

研究とは「スポットライト」に似ているのです。

ある場所に光を当てて、強くそこを照らし出すことは、光が当たらない場所に「漆黒の闇をつくりだすこと」なのです。

でも、漆黒の闇があるからこそ、光のあたる場所がハイライトされます。

「テメーの研究、ここに闇あんだろが、ヴォケ!、だから、オマエの研究、全部意味なし!」

みたいなことを言っていると、私たちは、先達が苦労して苦労して「光を当てた部分」を見逃します。

そういう知的態度に、僕は「知性」を感じません。

なんか、もったいなくない? 僕はもったいないと思います。

要するに、先行研究をまとめるときには、5つのプロセスなのです。

自戒をこめて、便所スリッパで後頭部をひっぱたかれそうになることを覚悟して言うと、こんな感じ。

1.【コレクション】

まず数多くの先行研究を集める

2.【クリティーク】

きちんとした批判的な読解をした上で

3.【ストーリー】

それらを「ひとつの筋(ストーリー)」にする

ストーリーにするときの前提は、先行研究同士の共通点や違いを

みつけ、それらをグルーピングしたり、対照させたりして、

あたかもひとつの物語のように配列します。

くれぐれも「並べただけ」にしないようにすることが大切です。

4.【フォーカス】

ほんでもって、少しずつ少しずつ話を狭めていって

5.【コネクション】

最後にリサーチクエスチョンにつなげる

あくまで1つのことで!!!

このように、先行研究のまとめっていうのは、一番難しい部分なのです。たぶん、すでに博士号を取得し、職業研究者になっている先生方でも、先行研究のまとめには、ある程度、苦労なさるのではないでしょうか。

正直に告白しますが、少なくとも僕はそうです。「オマエと一緒にするな」と便所スリッパで目つぶしされそうですが、僕は、今でも困難を感じます。

先行研究のまとめ、すなわち、自分の研究の意味づけ・位置づけってのは、「みんなの課題」なんだよ、きっとね。

そして人生は続く!

院生諸氏、もうすぐそこだ!

一緒に頑張ろう!

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事を、加筆・修正したものです)