超音速旅客機「コンコルド」から、経営者が学べることは3つある。埋没費用と事業成功の可能性には何ら因果関係がないこと、自分には自らの専門性との戦いが控えていること、そして自分自身の専門性は必ず歪んでいること、だ。
文: 竹田茂
本稿はポスト資本主義時代の起業術を伝えるメディア『42/54』の提供記事です。
「コンコルド」は英仏のエアラインが共同で開発した音速の2倍近い最高速を誇る旅客機だ。1969年に初飛行し1976年から2003年まで定期運行されていた。離着陸時のパイロットの視界確保と最高の空力特性を両立させるため、機首が可動式のドループノーズになっていることも含め、多くのデザイン上の特徴も併せもつ、感嘆に価する美しい機体だ。
ただ、開発途中から様々な問題が発見され、順調に運行が開始されたとしても開発コストを回収できないことが判明した。あまりにも巨額の開発費を“すでに投じていた”ため引くに引けない状態となり、致し方なく初飛行に辿り着いたのは有名な話である。
2000年に起きた悲惨な墜落事故──5分前に飛び立った航空機が落とした金属破片を踏みつけタイヤがバースト、離散したゴム破片がタイヤを制御するワイヤー等を直撃・切断、そこから発生した火花が主翼に格納されている燃料タンクに引火して爆発。機体は操縦不能に陥り、離陸からわずか2分後に近くのホテルに激突して大破・炎上、乗客100人、乗務員9人の全員と、墜落現場の4名の113人が死亡した──が契機となり、未来永劫にわたって採算が合わないことがわかっていたコンコルドに引導を渡した形になった。
回収できるか否かとは無関係に、すでに投下した資金や労力などを「埋没費用(サンクコスト)」という。このコストは、途中で当該事業を中止したり撤退したりしても戻ってくる見込みはない。しかし、その費用があまりに巨額である場合は、回収できる見込みがなくても「もはや後戻りできないという恐怖感と、楽観的で根拠のない未来予測」を拠り所に、中止・撤退を考えずに計画を推進してしまい、結果として巨額の負債だけが残ることがある。
これが「コンコルドの悲劇」であり、公共事業などはこれに該当するケースが非常に多いと思われる。本州四国連絡橋(瀬戸大橋を含む10の橋の総称)など、誰がどう考えても回収できるわけがない巨額の税金がそこに注入されているが、得体の知れない「公益性」という大義名分がこの悲劇を隠蔽しているに過ぎない。