高校生ラッパーたちによるフリースタイルMCバトルの大会「BAZOOKA!!! 高校生ラップ選手権」でひときわ注目を集めていたラッパーがいる。それがLick-Gだ。
若干17歳、現役の高校生ながら、時に対戦相手を挑発する好戦的なスタイルで「戦極MCBATTLE」や「THE 罵倒」など数々の大会で輝かしい戦績を残している。
今回は、一層広がりを持つ日本語ラップシーン、その新世代の雄にインタビューを実施。バトルシーンの現状から、現在制作中だという新作アルバムについてまで話を聞いた。
取材・編集/ふじきりょうすけ、写真/ほむらよしかず
Lick-G : 即興ラップ&インタビュー ヒップホップと高校生活を語る
──Lick-Gさんがラップをはじめたきっかけから聞かせていただけますか?
Lick-G たまたまYouTubeで日本語ラップを聞いてからヒップホップにはまったんです。日本語ラップそのものに衝撃を受けたので、具体的に「この人に食らった!」みたいなラッパーはいないですね。
もともと親父が洋楽ヒップホップのCDをたくさん持ってたり、昔は雑誌でUSラップの批評を書いてたらしくて。母親の妹はイギリスでポップスのCDを出してたりしたんで、音楽に向いた環境ではありました。
日本語ラップを聴きはじめるまでは、洋楽を軽く流す程度に聞き漁るとかで、音楽に刺激されることはなかったんです。たまたま流れてた2pacやerick sermonの曲を小学生のときに流行ってたPSPに入れたはしていたんですけど。好奇心旺盛な性格だったけど広く浅くだったので、ディープな部分には辿りつかなかったんですよね。
Lick-G 自分が日本語ラップ知ったのが2012年の4月頃なので、「高校生ラップ選手権」がはじまる3ヶ月くらい前なんですよね。
今みたいなMCバトルブームが起きる数年前だったので、まだまだフリースタイルを知らない人が多かったんですけど「面白いな」って、純粋に食らいました。
だから日本語ラップを知ったのと同時ぐらいに、見様見真似でフリースタイルをやり出したんです。ビートもいらない即興は、やろうと思えば簡単で手軽じゃないですか。
でも地元にラップしてるやつなんていないし、最初の1年くらいはSkypeを使ってネット上でサイファーとかバトルとか。その間も「早く現場でフリースタイルやってみてえ」という気持ちは強くなる一方でした。中2ぐらいになると、横須賀とか横浜のサイファーに行ってましたね。
──ちょうどその時期に、バトルに参加されはじめていますよね。
Lick-G そうですね。フリースタイルが面白くて好きだったんで、自然な流れで「UMB」(ULTIMATE MC BATTLE)に出ることにしたんです。その時は1回戦で負けちゃったんですけど。
Skypeでやってたバトルと違ったのは、マイクの全体的な扱いも変わるし、生の音で目の前にいるオーディエンスも巻き込まないといけないということ。はじめて勝てたのはラッパーのSIMON JAPさんが主催していた「Warugaki☆Gym」です。4回目くらいのバトルでやっと決勝までいきました。
──バトルに参加し続けている理由はどういうところにあるのでしょうか?
Lick-G 最近は賞金もすげえ上がってて。勝ちさえすればライブのギャラより貰えて、メイクマネーできる。デカい大会であれば勝つと話題になって、音源も注目されるし。
6/19 戦極スパーリング年齢無制限
※Lick-Gさんの試合は11:47、14:29、16:00から
Lick-G なにより音源は基本中の基本なんです。本当はフリースタイルがサブ的な要素なんですけど、今は逆になっちゃってますよね。
音源出してないと、もはやアーティストとは言えないですし、フリースタイルブームのぬるま湯につかってないで、どんどん曲をつくらないといけない。「サッカー選手がリフィティングうまくても、結局プレーできなきゃしょうがないよね」ってたとえ話でよく言われますけど、本当にそう。
バトルをはじめたころの自分みたいに、駆け出しの中2で出てるならまだしも、せっかく「高校生ラップ選手権」とか出てるのに音源がないっていう状態は、チャンスを無駄にしてるとしか思えない。バトルで優勝しても音源がなければ、ライブにも呼ばれないし。
──そう言いつつも、Lick-Gさんはバトルにも積極的に出ているように感じます。
Lick-G スキルとして「フリースタイルもできるんだぞ」というセルフボースト(自己賛美)なんです。もちろん、音源だけのラッパーが悪いというわけではないんですけど、海外だとラジオでフリースタイルをぶっかましてるアーティストは、また更にリスペクト貰えてるし。
だからそこに出る意味はある。だけど、出続けるとフリースタイルのMCだというイメージがついちゃうというジレンマもありますね。
自分もこれ以上バトルに出場していると、今後のアーティスト生命に支障が出るんじゃないかな、と思うんです。バトルに出てることはセルフボーストになる一方で、どうしてもその枠にはまっちゃうからダラダラ出続けるのも良くない。
早いとこデカイ大会で勝ちたいですね。最近は、もう売名もできてるから正直出る意味はないし。バトルへのモチベーションは、基本的に賞金だけです。
Lick-G スタイルはスキルがついてくるなかで、自然と生まれましたね。対戦相手を典型的なバトルだけのダサいやつじゃんって思った時はなんかガッカリというか……。
それこそバトルはセルフボーストなんで、相手が自分よりダサいと「うわー、またこういうの来ちゃったか」的な捉え方でそういう態度になる時があるんだと思います。尊敬してる人にはしないし、そもそもディスがスタイルの軸ではないので。
フリースタイルは言葉の面白さが大事だと思ってるんです。例えば、あとからバトルを見返したときも「ここサンプリングしてんじゃん」という気づきがあるじゃないですか。だから、知ってるトラックが流れたら、どんどん曲の歌詞とかを使って、リスペクトを表したい。音源のレベルですることを即興に落としこみたいんですよね。
──バトルも、YouTubeに掲載されたり、DVDになったりして、その日限りのものだけじゃなくなってますよね。だからこそバトルもアーティストとして、作品として考えているというか。
Lick-G その試合で勝つためだけに適当な6文字くらいの韻も言えるけど、後から見返すとダサいと思ってしまう。勝つためだけになんでもするわけじゃないんです。
その結果、負けちゃったりもする思うんですけど。それでも、ラッパーがバトルを音源のレベルに近づけていかないと、観客もサンプリグの面白さやディグ(音楽を探す)の良さに気づかないままになっちゃうじゃないですか。
──一過性じゃない、コアな面白さに気づいて欲しいということですね。では、バトルをしてみたい人はいますか?
Lick-G バトルで当たりたい人ってのは特にないかな。バトル中の8小節は、じっくり聞くことができないですし、どうしても一時的に過激な言葉で会場は湧いちゃうんで。
本来バトルでアーティストの優劣が決まるとかはないんです。でも最近は、バトルで勝ったあのラッパーがいい、と思う人が増えてるのは良くない傾向だなと思ってます。
バトルはその場の水物でしかない。アーティストの価値は全て曲で決まるんです。最近はよく音源のない人に負けるけど、自分のほうが良い歌詞を書けてればそれでOKなんです。負けが続くと、逆に制作にストイックになれることが多いですね。
──ラッパー、アーティストとしてみた時のヒップホップと、バトルでの勝敗は全く別物だと。
Lick-G ヒップホップの面白さを知ってもらうにはバトルだけじゃ難しい。だから、自分は音源に興味をもって欲しくて、バトルがヒップホップの一部だということを、今にわかといわれてる層にもちゃんと伝えたいんです。ラッパーにもっとそういう意識があったら、客も音源をディグったりすると思うんですよね。
大会で勝ったりして、発言権が大きくなった今だからこそ、どんどんサンプリングしたい。それで、観客が求めてるバトルができなくなると、負けちゃうんですけど……。
それでも、アーテイストとしてヒップホップの面白さを広めたいという気持ちがあるから。
Lick-G 自分がここまでプロップスを得て来たから、ヒップホップを普及させることもラップゲーム的にも大事だなと思う──ラップってゲームだから、周りとは違う個性がある音源をつくるとか、客演でも相手よりやばいリリックを書いたりするとか。そういう勝ち上がり方をしないといけない。
音源でいいフロウや韻ができてる人でも、バトルだとワンパターンになっちゃうんです。バトルだと簡単な、例えば「既存の勘違い、段違い」みたいな韻を踏んじゃうんですよ。だけど自分は、そんな韻を踏まない。バトルであっても、誰も聞いたことがない韻を出してます。
2016 2/13 戦極スパーリング2nd STAGE BEST BOUT
※Lick-Gさんのバトルは6:15、11:45から
──その上で、相手が韻を踏もうとすると、ライム読みしますよね。
Lick-G 実際、そんなガツガツやってやろうとかは思ってません。ただ、ルール違反だと言われるんですけど、USのラップバトルだとライム読みって普通に見るんですよ。
ボディタッチ禁止のバトルでも、肩に触るとか程度ならやる人もたまにいますよね。あれをOKとするなら許可してほしいです(笑)。
──そういったスタイルでステージに立つことで、世代のなかでも一線を画すという風に評されたりする。若手として括られることに対してどのように思われてるのですか?
Lick-G 若いうちにラップやってる以上、括られること自体はしょうがないと思うんですよね。ただ、音源を聞いてもらえば、年齢とか関係ないスキルっていうのは自負してる。結局、バトルでも音源でも聞いてもらえれば伝わるので。
Lick-G 無意識にみえて実は、日本のヘッズにも「この言葉は知った方がいい」みたいにUSの英単語とかスラングを入れてます。USで使われてるような、一部のフレーズをサンプリングしてるんです。
──日本語ラップで食らったアーティストはいない、と言っていましたが、USにはサンプリングしたくなるような、憧れるラッパーがいらっしゃるんですか?
Lick-G 強く憧れてる人はいないんですが、LogicとWiz Khalifa。この2人はかなり聴きます。特にLogicの這い上がり方なんかは自分もこうなりたい、と思わせてくれます。
Logic - Flexicution
Lick-G USとかをちゃんと聞いてれば、歌詞とかも絶対面白くなると思うし、それこそ既存の日本語ラップ的な乗せ方になる必要もなくて。
日本人のアーティストを憧れって言うと、スケールが小さくなっちゃうんで、USを目標にして成り上がりたいですね。
──ネット上にドロップされてる曲は特に、チルアウトから、トラップまでさまざまなジャンルの曲サンプリングされてますよね。
Lick-G 音源はトラップだけ、みたいなラッパーも多いんですけど、自分の気にいった音でやってるだけなんですよね。
楽曲の幅の広さは、スキルの見せ場としても有効だと思うんです。トラップだけ、オールドスクールだけのラッパーじゃなくて全方向。
ただ、今まではアルバムではなかったのでYouTubeにいろんな曲あげてもよかったんですけど、アルバムになると1つの作品としてみないといけないんで難しいです。いろんな曲があるということと、作品の方向性がバラバラになることは紙一重なんで。
—Lick-Gさんにとってヒップホップの面白さはどういったところにありますか?
Lick-G アートは遠回しだと思うんすけど、ラップは直接自分の言葉だから。言いたいことを言えるし究極の自己表現になる。それにヒップホップは這い上がれる音楽でもあって。お金とかもすげえ興味あるんですけど、原点はそこ。ヒップホップは、本当にゼロからでもなんでもできちゃう可能性があるんです。
音楽をやってる人は自分の逆境があった方が絶対成功できると思うんです。日本語ラップで有名な人も何かしらのコンプレックスや弱点を全部丸め込んで今のところにいる。
僕も友達がいなかったからずっと休日も自室でネットに浸かってる毎日だったし、仮想世界では変わらなかった現実をラップで少しずつでも変えることができて、孤独すらも武器にできた。ヒップホップをはじめたきっかけが、絶対そこにあるんです。
若干17歳、現役の高校生ながら、時に対戦相手を挑発する好戦的なスタイルで「戦極MCBATTLE」や「THE 罵倒」など数々の大会で輝かしい戦績を残している。
今回は、一層広がりを持つ日本語ラップシーン、その新世代の雄にインタビューを実施。バトルシーンの現状から、現在制作中だという新作アルバムについてまで話を聞いた。
取材・編集/ふじきりょうすけ、写真/ほむらよしかず
日本語ラップを聞いてヒップホップに衝撃を受けた
Lick-G たまたまYouTubeで日本語ラップを聞いてからヒップホップにはまったんです。日本語ラップそのものに衝撃を受けたので、具体的に「この人に食らった!」みたいなラッパーはいないですね。
もともと親父が洋楽ヒップホップのCDをたくさん持ってたり、昔は雑誌でUSラップの批評を書いてたらしくて。母親の妹はイギリスでポップスのCDを出してたりしたんで、音楽に向いた環境ではありました。
日本語ラップを聴きはじめるまでは、洋楽を軽く流す程度に聞き漁るとかで、音楽に刺激されることはなかったんです。たまたま流れてた2pacやerick sermonの曲を小学生のときに流行ってたPSPに入れたはしていたんですけど。好奇心旺盛な性格だったけど広く浅くだったので、ディープな部分には辿りつかなかったんですよね。
Lick-G 自分が日本語ラップ知ったのが2012年の4月頃なので、「高校生ラップ選手権」がはじまる3ヶ月くらい前なんですよね。
今みたいなMCバトルブームが起きる数年前だったので、まだまだフリースタイルを知らない人が多かったんですけど「面白いな」って、純粋に食らいました。
だから日本語ラップを知ったのと同時ぐらいに、見様見真似でフリースタイルをやり出したんです。ビートもいらない即興は、やろうと思えば簡単で手軽じゃないですか。
でも地元にラップしてるやつなんていないし、最初の1年くらいはSkypeを使ってネット上でサイファーとかバトルとか。その間も「早く現場でフリースタイルやってみてえ」という気持ちは強くなる一方でした。中2ぐらいになると、横須賀とか横浜のサイファーに行ってましたね。
──ちょうどその時期に、バトルに参加されはじめていますよね。
Lick-G そうですね。フリースタイルが面白くて好きだったんで、自然な流れで「UMB」(ULTIMATE MC BATTLE)に出ることにしたんです。その時は1回戦で負けちゃったんですけど。
Skypeでやってたバトルと違ったのは、マイクの全体的な扱いも変わるし、生の音で目の前にいるオーディエンスも巻き込まないといけないということ。はじめて勝てたのはラッパーのSIMON JAPさんが主催していた「Warugaki☆Gym」です。4回目くらいのバトルでやっと決勝までいきました。
──バトルに参加し続けている理由はどういうところにあるのでしょうか?
Lick-G 最近は賞金もすげえ上がってて。勝ちさえすればライブのギャラより貰えて、メイクマネーできる。デカい大会であれば勝つと話題になって、音源も注目されるし。
Lick-G なにより音源は基本中の基本なんです。本当はフリースタイルがサブ的な要素なんですけど、今は逆になっちゃってますよね。
音源出してないと、もはやアーティストとは言えないですし、フリースタイルブームのぬるま湯につかってないで、どんどん曲をつくらないといけない。「サッカー選手がリフィティングうまくても、結局プレーできなきゃしょうがないよね」ってたとえ話でよく言われますけど、本当にそう。
バトルをはじめたころの自分みたいに、駆け出しの中2で出てるならまだしも、せっかく「高校生ラップ選手権」とか出てるのに音源がないっていう状態は、チャンスを無駄にしてるとしか思えない。バトルで優勝しても音源がなければ、ライブにも呼ばれないし。
──そう言いつつも、Lick-Gさんはバトルにも積極的に出ているように感じます。
Lick-G スキルとして「フリースタイルもできるんだぞ」というセルフボースト(自己賛美)なんです。もちろん、音源だけのラッパーが悪いというわけではないんですけど、海外だとラジオでフリースタイルをぶっかましてるアーティストは、また更にリスペクト貰えてるし。
だからそこに出る意味はある。だけど、出続けるとフリースタイルのMCだというイメージがついちゃうというジレンマもありますね。
自分もこれ以上バトルに出場していると、今後のアーティスト生命に支障が出るんじゃないかな、と思うんです。バトルに出てることはセルフボーストになる一方で、どうしてもその枠にはまっちゃうからダラダラ出続けるのも良くない。
早いとこデカイ大会で勝ちたいですね。最近は、もう売名もできてるから正直出る意味はないし。バトルへのモチベーションは、基本的に賞金だけです。
バトルだけじゃヒップホップの面白さはわからない
──Lick-Gさんはフロウやウィットに富んだ韻の豊富さはもちろんですが、なかでも象徴的なのはバトル中の挑発的な態度。相手に面と向かわないスタイルってどういうふうに生まれたんですか?Lick-G スタイルはスキルがついてくるなかで、自然と生まれましたね。対戦相手を典型的なバトルだけのダサいやつじゃんって思った時はなんかガッカリというか……。
それこそバトルはセルフボーストなんで、相手が自分よりダサいと「うわー、またこういうの来ちゃったか」的な捉え方でそういう態度になる時があるんだと思います。尊敬してる人にはしないし、そもそもディスがスタイルの軸ではないので。
フリースタイルは言葉の面白さが大事だと思ってるんです。例えば、あとからバトルを見返したときも「ここサンプリングしてんじゃん」という気づきがあるじゃないですか。だから、知ってるトラックが流れたら、どんどん曲の歌詞とかを使って、リスペクトを表したい。音源のレベルですることを即興に落としこみたいんですよね。
──バトルも、YouTubeに掲載されたり、DVDになったりして、その日限りのものだけじゃなくなってますよね。だからこそバトルもアーティストとして、作品として考えているというか。
Lick-G その試合で勝つためだけに適当な6文字くらいの韻も言えるけど、後から見返すとダサいと思ってしまう。勝つためだけになんでもするわけじゃないんです。
その結果、負けちゃったりもする思うんですけど。それでも、ラッパーがバトルを音源のレベルに近づけていかないと、観客もサンプリグの面白さやディグ(音楽を探す)の良さに気づかないままになっちゃうじゃないですか。
──一過性じゃない、コアな面白さに気づいて欲しいということですね。では、バトルをしてみたい人はいますか?
Lick-G バトルで当たりたい人ってのは特にないかな。バトル中の8小節は、じっくり聞くことができないですし、どうしても一時的に過激な言葉で会場は湧いちゃうんで。
本来バトルでアーティストの優劣が決まるとかはないんです。でも最近は、バトルで勝ったあのラッパーがいい、と思う人が増えてるのは良くない傾向だなと思ってます。
バトルはその場の水物でしかない。アーティストの価値は全て曲で決まるんです。最近はよく音源のない人に負けるけど、自分のほうが良い歌詞を書けてればそれでOKなんです。負けが続くと、逆に制作にストイックになれることが多いですね。
──ラッパー、アーティストとしてみた時のヒップホップと、バトルでの勝敗は全く別物だと。
Lick-G ヒップホップの面白さを知ってもらうにはバトルだけじゃ難しい。だから、自分は音源に興味をもって欲しくて、バトルがヒップホップの一部だということを、今にわかといわれてる層にもちゃんと伝えたいんです。ラッパーにもっとそういう意識があったら、客も音源をディグったりすると思うんですよね。
大会で勝ったりして、発言権が大きくなった今だからこそ、どんどんサンプリングしたい。それで、観客が求めてるバトルができなくなると、負けちゃうんですけど……。
それでも、アーテイストとしてヒップホップの面白さを広めたいという気持ちがあるから。
Lick-G 自分がここまでプロップスを得て来たから、ヒップホップを普及させることもラップゲーム的にも大事だなと思う──ラップってゲームだから、周りとは違う個性がある音源をつくるとか、客演でも相手よりやばいリリックを書いたりするとか。そういう勝ち上がり方をしないといけない。
音源でいいフロウや韻ができてる人でも、バトルだとワンパターンになっちゃうんです。バトルだと簡単な、例えば「既存の勘違い、段違い」みたいな韻を踏んじゃうんですよ。だけど自分は、そんな韻を踏まない。バトルであっても、誰も聞いたことがない韻を出してます。
──その上で、相手が韻を踏もうとすると、ライム読みしますよね。
Lick-G 実際、そんなガツガツやってやろうとかは思ってません。ただ、ルール違反だと言われるんですけど、USのラップバトルだとライム読みって普通に見るんですよ。
ボディタッチ禁止のバトルでも、肩に触るとか程度ならやる人もたまにいますよね。あれをOKとするなら許可してほしいです(笑)。
──そういったスタイルでステージに立つことで、世代のなかでも一線を画すという風に評されたりする。若手として括られることに対してどのように思われてるのですか?
Lick-G 若いうちにラップやってる以上、括られること自体はしょうがないと思うんですよね。ただ、音源を聞いてもらえば、年齢とか関係ないスキルっていうのは自負してる。結局、バトルでも音源でも聞いてもらえれば伝わるので。
USを目標にして成り上がりたい
──アルバムを製作中ということで、リリックの考えについても聞きたいです。日本語、英語と柔軟に取り入れていますが、そういった言語はハーフということもあって、自然に出てくるものなのでしょうか?Lick-G 無意識にみえて実は、日本のヘッズにも「この言葉は知った方がいい」みたいにUSの英単語とかスラングを入れてます。USで使われてるような、一部のフレーズをサンプリングしてるんです。
──日本語ラップで食らったアーティストはいない、と言っていましたが、USにはサンプリングしたくなるような、憧れるラッパーがいらっしゃるんですか?
Lick-G 強く憧れてる人はいないんですが、LogicとWiz Khalifa。この2人はかなり聴きます。特にLogicの這い上がり方なんかは自分もこうなりたい、と思わせてくれます。
日本人のアーティストを憧れって言うと、スケールが小さくなっちゃうんで、USを目標にして成り上がりたいですね。
──ネット上にドロップされてる曲は特に、チルアウトから、トラップまでさまざまなジャンルの曲サンプリングされてますよね。
Lick-G 音源はトラップだけ、みたいなラッパーも多いんですけど、自分の気にいった音でやってるだけなんですよね。
楽曲の幅の広さは、スキルの見せ場としても有効だと思うんです。トラップだけ、オールドスクールだけのラッパーじゃなくて全方向。
ただ、今まではアルバムではなかったのでYouTubeにいろんな曲あげてもよかったんですけど、アルバムになると1つの作品としてみないといけないんで難しいです。いろんな曲があるということと、作品の方向性がバラバラになることは紙一重なんで。
—Lick-Gさんにとってヒップホップの面白さはどういったところにありますか?
Lick-G アートは遠回しだと思うんすけど、ラップは直接自分の言葉だから。言いたいことを言えるし究極の自己表現になる。それにヒップホップは這い上がれる音楽でもあって。お金とかもすげえ興味あるんですけど、原点はそこ。ヒップホップは、本当にゼロからでもなんでもできちゃう可能性があるんです。
音楽をやってる人は自分の逆境があった方が絶対成功できると思うんです。日本語ラップで有名な人も何かしらのコンプレックスや弱点を全部丸め込んで今のところにいる。
僕も友達がいなかったからずっと休日も自室でネットに浸かってる毎日だったし、仮想世界では変わらなかった現実をラップで少しずつでも変えることができて、孤独すらも武器にできた。ヒップホップをはじめたきっかけが、絶対そこにあるんです。
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