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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/24


みんなの思い出

1
1

オープニング


 嵐渦巻く初秋の空――。
 窓を叩く雨粒は弾幕のように激しく、絶えず逆巻く風は乱暴に木々をさらう。
 そんな9月の某日、ある1件の依頼が掲示された。

 『つくばゲート攻略における兵器開発の意見聴取会』

 依頼人の名は、かの無尽光研究委員会筆頭研究員でもあるレミエル・N・ヴァイサリス(jz0006)。
 連ねて、関東天魔ゲート破壊作戦の責任者となっている月摘 紫蝶(jz0043)の名が添えられている。


 生徒の部活や一部教師によって、トンデモメカやトンデモ兵器が当たり前に飛び出す久遠ヶ原。
 レミエルと紫蝶の名がなければ――そしてつくばゲートという、冗談で持ち出せるような名称がなければ――。
 その依頼は一笑に付して終わるものだっただろうが。
「え‥‥マジのやつ?」
「祭器みたいに戦場を左右する兵器‥‥責任重大ね」
「拙者が考えた最強の兵器を語ればいいってことでござるか?」
「自分の意見が歴史を動かすかもしれないのね、燃えるわ!」
 云々。
 信憑性とともにその依頼の噂は瞬く間に広まっていった。

 そして――
 本気で戦況を案じるもの。
 天魔の鼻っ柱を折ってやりたいもの。
 はたまた、興味本位で覗いてみたいもの。
 ベリアルが船を落とされた時の顔が見てみたいもの‥‥。
 各々の思いを抱いて、会議室の扉を開いたのだった。



「よく集まってくれた。依頼人であり開発責任者のレミエルと――」
「監督役の月摘だ」

 会議室にしつらえられた円卓に、抽選で選ばれた6名の生徒が席についている。
 各座席にはペットボトルのミネラルウォーターと、4枚綴りの簡素な資料。
 あなたは、資料の1枚目‥‥表紙を捲った。
 2枚目は現況のまとめ、3枚目と4枚目は‥‥新たな兵器の案がまとめられていた。

「まずは依頼の経緯を説明しよう。
 現在関東には、茨城県つくば市の冥魔ゲート、神奈川県横浜市の天使ゲートの2つの巨大ゲートが存在している。
 これらの動きは2015年の夏、三峯の気脈を巡る戦いに端を発したものだが
 ――そこは資料に目を通してもらうということで、割愛させてもらうよ。
 これらのゲートは現在破壊に向けて準備が進められていて、今回の依頼もその一環といったところだ。


 で、だ。
 この2つのゲートのうち、つくばのベリアルゲートは過去に例のないものなのさ。

 一般的にゲートは、地上に近いところに設置される。
 まぁ、空中や海中なんかもあるけど、地面から遠ければ遠いほど力を無駄に消耗してしまう。
 これは地中を巡る気脈から離れてしまうから、だな。ゲート術は気脈を利用して展開するからね。

 ところが、つくばゲートは――地上300mという規格外の高度にゲートがある。
 ベリアルが持つ力と、空挺・エンハンブレに内蔵された結晶体のエネルギー。
 そして2ヶ月以上もの長い時間をかけて練り上げられたゲート術‥‥。様々な要因が考えられるが、ともかく。
 これまで我々が崩してきたゲートとは違い、地続きで攻め込める場所ではないわけだ。


 先日、偶然に入手したエンハンブレの鍵‥‥資料にもある六分儀の座標情報をもとに、転送による侵入に成功した。
 しかしこれはあくまで30名程度だから使えた手段であるし、陥落を目的としていないから人数も多くは必要としなかった。
 が、ゲートを攻略しようとなるとそうもいくまい。
 ケッツァーの手勢はベリアルを筆頭に、アルファールやロウワン、カッツェ、ジェルトリュード、カーラとリロ‥‥他にも、出現の可能性としては多数の悪魔が数えられる。それらと正面衝突するのに30名じゃ自殺行為もいいところだ」


 と、まだ言葉を続けようとするレミエルを、紫蝶が「そろそろ議論に移れ」と制止する。
 こういう話題になるとやたらと饒舌になるのは彼の難点だ。


「おっと。すまない、前置きが長くなってしまった。
 我々がつくばゲートを陥とすためには、『地上から船内に乗り込める体制を整える』事が第一条件といえるだろう。
 ということで、君たちにはその手段‥‥如何に空挺を地上に下ろすか、という方法を検討してもらいたいんだ。

 資料にあるとおり、私から2つの案を提供させてもらった。が、勿論、これ以外の新案も歓迎する。

 ――ただし、物事には必ずメリットとデメリットがあるはずだ。
 例えば先日失った『聖槍アドヴェンティ』は強力だが使用者のエネルギーを使い果たしてしまうし、
 祭器の『千億星の光旗槍』は使用者が限られる上、使用者は無防備になるだろう?
 もしくは開発コストや資源が莫大に必要だったり、開発時間が間に合わないものもある。
 そういう点も『デメリット』と言えるね。

 万能の道具なんて絶対にない。そんなものが作れるなら天魔が何万年も戦争しているわけないからね。
 だから、案としてはどんなものでも構わないが、必ず自分自身でデメリットも考えた上で提案してほしい」



プレイング

歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
大学部7年9組 男 
目的
依頼の達成

動機
責任は大きいけどやりがいがある依頼と思ったから

行動
降下作戦について、船に大戦力を送り込めれば降下させる必要はないのかを確認
転移;すでに限界
航空機;強化しても不安
飛行補助;祭器で飛行付与でもしないと人数は飛行スキルもち限定になり、祭器の使用は未決定
との回答により素直に船を降ろす方法を考えたほうがいいと納得する

霊磁砲は船以外を対象にした時はどうなるか尋ねる
地上戦では破壊範囲が広く市街地では使いにくいのか、今後の他の大規模作戦に利用できるとは限らないのか

魔術式は準備時間が長く戦力分散が必要なのがつらいな
余っている素材で支援できるものを作れたらましかな

星の鎖の強化案、鎖兵器に賛成
他に比べて射程がやや短く術者をある程度限定しちゃうけど、準備時間の短さと戦力集中できることのメリットは大きいと判断
術者の数も魔術式の安全性を最大限に高めた場合に比べたら少なくなるし

霊磁砲の仕様を見ての感想
旭川(【旭川】風速140米の対決)で複数人で使用するアウル兵器を使ってから、共同アウル兵器っていつ完成するのかなって思っていたんだよね
そういうものを完成させる為には特別な素材が必要だったのか
神器が失われちゃったし、こういうので代わりになるものができるといいな

獲物追う狩人・浪風 悠人(ja3452)
大学部3年11組 男 

【心情】
ケッツァーメンバーには借りがあり、また船の内部や戦力を一部見知った者として会議に臨む

【目的】
エンハンブレを落とす方法を議論する

【行動】
参加者には一通り挨拶して回り、レミエルさんには以前の探索の時にお世話になった事を感謝し、議題前に先日ケッツァー治療院の撃破に成功しケッツァーメンバーは今後満足行く治療は受けれなくなった事を話す事でここが正念場だと自他共に言い聞かせる

先の作戦でエンハンブレの内部へ突入した際に大量のディアボロの存在や部屋数から合流してない悪魔やまだ出会っていない悪魔の存在を把握したため早急に船を対処したいが、下手をするとかなりの戦力を一度に地上に降ろさせることになるので方法は慎重に行きたい、と述べ

案1の霊磁砲では破損させることで破片や内部のディアボロが無秩序に降り注ぐ点や一度しか使えない点から安定した利用が難しい上、敵が奪取ないし接触してデータを持ち帰った場合対抗手段や複製して来る可能性がありとても危険だと言い


案2の魔術式『クラック・ルーティング』では発動する為の条件がこちらの戦力の低減のみならず大勢の重体者を出し、またその護衛に戦力の分散を招くのは危険と判断する

最終的には相談して出した大掛かりな『星の鎖』作戦に賛同する
戦力の分散を防ぎまた拠点防衛に近い形になるので護衛がしやすい点で多少はリスクが減ってるからである
もし計算上鎖要員が少ない場合は自分も術者を志願する

レミエル様の盾となる・巫 聖羅(ja3916)
大学部2年11組 女 
「…うーん。どの案も一長一短でメリット・デメリット色々あるけれど…」

個人的には
魔術式『クラック・ルーティング』>星の鎖>霊磁砲
――の順で推させて貰うわね

◆魔術式『クラック・ルーティング』
1術が完成し着陸するまで30分間、術者と触媒は動く事ができず、妨害された場合再び30分かけて術を構築しなければならない
2各地の術者は多大なアウルを消費し疲労困憊となる(強制的に重体)
3術者を護衛するため戦力分散せざるをえない

デメリットが3点ね
1と3は術式発動までの間、8方向に戦力分散して防衛する必要が生じるけれど、
どの道エンハンブレに一度に突入出来る人数は限られてる筈だし、
予め突入部隊を選定しておく事で、突入時の問題はほぼ解消出来る

問題は敵に一点突破を狙われた際の対処法だけれど…
敵としても30分間で術者の位置を特定し、戦力を投入して作戦行動を行うのは難しいと思われる
また敵からすれば全ての術者を潰す必要があるのか? 一箇所だけ潰せば良いのか?
判断しかねる状況になる筈

2に関しては術式が発動した後、術者はその場に留まる必要はないわよね?
それなら護衛部隊が安全な場所に即退避させるのが無難かと

また術式発動までの間、術者を隠蔽する事が出来れば成功率は格段に跳ね上がる上、
術式完成後の安定度はダントツに高いわ

隠蔽方法に関しては、
1囮部隊を設置して敵攪乱
2アカシックレコーダーの【蜃気楼】を術者に付与して隠蔽
…等が可能と考える

地下施設の悪夢・星杜 焔(ja5378)
大学部2年1組 男 
アドリブ○

兵器開発に関われるなんてわくわくするねぇ
頭を使う時は甘いものだよね
手製の小豆トーストと紅茶を差し入れで持ち込むよ

■提案
空を飛んでいるものを無理やり引きずり下ろす〜というと
アストラルヴァンガードの星の鎖が思い浮かびますが…
その術の仕組みを応用する形などは可能でしょうか?

■案1
全員戦力低下は連携でカバー可能
しかし槍が護衛付の状況下で破壊された事を考えると
より大きく小回りが利かないだろうこれが
絶対に破壊されないとはいいきれない
破壊されると次はない、という所が致命的に感じる

破損がデメリットという事は…
『手に入れる』事を最終目標にしているなら
大破損させる手段は本来望ましくないのでは?

■1か2なら案2
敵はどこか一箇所を潰せばよく戦力を分散する必要がない
戦力分散状態で果たして…20〜30分耐えられるか

二重発動で外円を決して敵に気づかれないよう
内円で敵の注意を引き付け
一箇所を崩しても術が止まらない、全て崩す必要がある――と思わせる事ができればあるいは…

しかし保険をかけるだけ重体者も増えてしまうね

■鎖兵器
戦力分散がなく30人で成功が望め再チャレンジが容易…か
皆の賛同が得られるならこの案を推したいと思うよ

特定の職のスキルが必要になるという点
開発の間に学園で習得や持越し等の支援は可能か?

守るための終曲・龍仙 樹(jb0212)
大学部5年6組 男 
アドリブ◎
星の鎖を触媒にて強化してエンハンブレに使用し引きずり下ろす案を推す。

星の鎖を強化してエンハンブレを引きずり降ろす案を支持し、具体案として『レミエルが部隊長の専任部隊の設置』と『それを防衛する役割』、『降りたエンハンブレに乗り込む役割』の三つの役割立てでのエンハンブレ攻略を提案。

「個人個人で行動するよりも、一つの部隊に固まった方が、威力もまとまりやすくうまくいくでしょう」

「また個別に部隊等を設置していくと、守る対象がばらける可能性があり、また個人同士の相性などにより、上手く連携がとれない可能性もあります」

「それら考えると、エンハンブレ攻略の実質的中心となるだろうレミエルさんを長として、学園公認の専門部隊を設置してもらい、そこに希望者・志願者が参加してもらうのがよいと思います」

「また、それで行くなら、星の鎖を行使する部隊を守る役割と、星の鎖が成功してエンハンブレを降ろした際に突入する部隊がそれぞれ別途必要になるかと思います」

「成功すれば、予想では数時間は降ろしておけそうですが、相手がどういう対応をしてくるか解らない以上、早急に手を打つべきでしょう。
星の鎖でエンハンブレを拘束している間に、最低でも制御を内部から奪取する必要もあると思います」

「私は『星の鎖部隊』、『星の鎖部隊を護る護衛』、『制御を内側から奪取する突入部隊』の三つに分かれて制圧の初期段階を行ってはどうかと思います」

バケツプリンマイスター・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部4年9組 男 
魔法の鍵が掛かった向こう側に行ってみたいぞ
さらに大きな戦いに向けての戦力にもなりそうだ

・行動
差し入れ
珈琲と紅茶を淹れよう
ワッフルとスコーンは俺の恋人の手作り
「俺、この戦いが終わったら結婚したいぞ。フラグじゃない、そんなものへし折ってやるさ」

星の鎖を強化する案に賛成
護衛が必要だがどうせなら一箇所に纏めたほうが楽
さて30人を守りきるにはどうするか
術者は戦闘行動を取れない、回避系よりも防御やダメージ減少系がいいと思う
範囲系回復はアスヴァンだけか
護衛が回復役を兼ねよう

・追加質問
術開始から発動までの想定時間はどれくらい?

船を降ろした後
疲労した術者達を安全圏に移送することは可能?
ダメージにより術使用者が15人以下になった場合、船は再び上昇可能になる?

●護衛に使えそうな手段の提案
・ストレイシオンの固有スキル<防御効果>
最低保証ダメージも減少
広範囲カバー可
習得レベルが低めで駆け出しのバハムートテイマーで可能
召還している間は使えるのがいい

・陰陽師の四神結界
範囲は広い
効果は低めだが鍛えれば使えると思う

・ディバの円卓の騎士
1回のみだが範囲が広く、防御が大幅に上がるのがいいな

・ディバの庇護の翼
庇護対象者が防御UPやダメージ減少系を付与済みなら、ディバの負担は減るはず

・余ったニギアカガネで防御
・・というのが使えるらしいが、これは効果を重複させることはできるのか?
とくにストレイシオンの防御効果と一緒なら心強い



リプレイ本文



「最初に確認させてくれないかな?」

 と、誰よりもはやく手を挙げたのは龍崎海(ja0565)だった。
「船が滞空中でも直接乗り込むことができれば、降下させる必要はないんじゃないか? 前回は転移で潜入したはずだけど」
 先の潜入作戦――『Operation;Blitz』に参加していた彼の意見は尤もであった。
 転移でエンハンブレに乗り込んだ人数はおよそ30人。それが拡大できるのならば、兵器を必要としない可能性すらある。
「上位天魔のゲートを攻め落とせるほどの兵力を、一度に上空へ運ぶ手立てがあればそれも選択肢に入るさ」
「というと、具体的な人数は――」
 レミエルの返事に、間髪入れずに食い下がる海。
 ちらりとレミエルが横に目をやると、紫蝶が心得たように
「過去の大規模作戦を鑑みると、大きなゲート攻略戦だと大凡200人から300人ほどの兵力が必要、かな」
 と補足した。
 兵器に関わる内容はレミエル、作戦に関わる内容は紫蝶から返答するということのようだ。
「転移では‥‥」
「人数に限界がある。前回の30人でも結構ギリギリだぞ」
「では航空機などは」
「今から用立てるのはかなり厳しい。セスナレベルなら何とかなりそうだが‥‥」
 過去に富士山ゲートにて降下作戦を仕掛けた時ですら、航空機もろとも片道切符を覚悟しての大掛かりな作戦。
 撃墜されれば一網打尽。リスクの高さは、かの作戦でも危惧されたところだった。
 そして高山であった富士とは違いエンハンブレは『空の孤島』。
 降下作戦を行うにしろ、風に煽られて船に着地できませんでした、では済まない。
「‥‥ちなみに、霊磁砲は船以外を対象にした時はどうなりますか?」
「火力としては特に変わる事はない。その分、地上を狙うのであれば街への被害は甚大だろうが‥‥」

 やや間をおいて。
「否定ばかりになってすまない。でも意欲的な意見は歓迎だよ」
 海の怒涛の質問ラッシュが一段落したことを認めると、レミエルは苦笑した。
 会議も発明もトライアンドエラーが大事だしね、と笑って、自身も円卓に腰をかけるのだった。




 参加者が資料に目を通し、無言になっているその間。
「そういえばレミエルさんとは先日の作戦以来ですね。あの時はお世話になりました」
「そうだな、あれはなかなか楽しかったぜ。実に興味深かった」
 浪風 悠人(ja3452)は、軽く頭を下げながらその静寂を打ち払った。
 そして、その言葉にミハイル・エッカート(jb0544)が続いた。どちらも海同様Blitzの参加者であり、夏にあの空挺へと潜入した仲間だ。
「礼を言うのは俺のほうさ。危険な任務だったが、君たちはとても心強いパートナーだった。お陰で内部の様子をだいぶ探る事ができたよ」
 と、手元の分厚いファイルに収められた探索メモを開いてみせるレミエル。
 今は見せられる段階ではないが、兵器開発と並行して、このメモから内部構造のMAPを起こしているという。
 子供のように顔を輝かせるレミエルを見て悠人は思わず口元が綻んだが、やがてすっと顔を引き締めた。
「それとは別件ですが。先日、『ケッツァー治療院』という外部拠点を破壊することができました」
「ああ。これで、超回復によるゾンビアタックはできない」
「はい。‥‥正念場、ですね」
 参加者皆が、誰からともなくうなずき合った。


「‥‥うーん。どの案も一長一短でメリット・デメリット色々ある‥‥ありますよね」
 巫 聖羅(ja3916)の提案で、まずはレミエルが提案した2案を精査しようという事に。
 なおレミエル様ファンクラブ隠れ会員たる聖羅、レミエルの前では淑女で通す模様。
「霊磁砲は、破壊されたら後がない事と、どうしても船を破損させてしまうことがデメリットかしら」
「そういやレミエルはあの船を欲しいらしいしな。わかる、わかるぞ‥‥」
 少年の心を抱いた大人たちの熱きパトス。
 ミハイルとレミエルが目と目で通じ合う何かを感じている横で、
「それも無くはないけど、Blitz以降に発生したあの『霧』が、エンハンブレの兵器なら――そこが制御不能になったら危険だと思うんです」
「破損させることで破片や内部のディアボロが無秩序に降り注ぐ事も考えられますね」
 聖羅と悠人はぴしゃりと現実的懸念点を突きつけたのだった。
 そこに、そういえば、と言葉を繋げたのは龍仙 樹(jb0212)。
「クラック・ルーティングは、離着陸だけではなく艦内の動力制御全般を奪えるんでしょうか?」
「うぅん‥‥確実に制御下に置けると見込んでいるのは操縦関係だね。『霧』や主砲については‥‥可能性はある、としか言えない」
 レミエルの言葉に「ふむ」と一言。
「そうなると、クラックのメリットと言える可能性もありますね」
「デメリットは兵力が分散する事と、術の成立まで時間がかかること、だね〜」
 おっとりとした、星杜 焔(ja5378)の声が続いた。
 柔和な笑み、柔らかな物腰。およそ兵器とは縁遠そうなこの青年――
「兵器開発に関われるなんてわくわくするねぇ。もっと工夫できないかな〜?」
 結婚以降影を潜め気味ではあったが、割と重度のメカ・銃オタという闇を秘めていた。


 さて、焔の発言により一同の論点は『既存の案を改良できないか』というところに移行した。

『霊磁砲を他の乗り物に搭載してはどうか』
『クラックの術成立を短縮する方法はないか』
『飛行スキルを兵器で補助して兵力を空に送る事はできないか』
『防衛用の兵器は作れないか』
『術者を地下に隠すのはどうだろうか』
 云々。

 それぞれに利点はあるものの、立ちはだかるデメリットを打開できる天啓はなかなか降りないままにじりじりと進む時計の針。
 まるで手探りでパズルのピースを探るような。
 遠い月明かりを頼りに獣道を進むような。

 少しずつ、考える時間が長くなる。


 と、その時。
 おもむろに立ち上がった焔が、どんっとランチバスケットを机に載せた。



「――頭を使う時は甘いものだよね。小豆トースト作ってきたから、ちょっと休憩しよう〜?」



 一同、呆気。
 のち、
「‥‥ふっ、はははっ」
 笑い声。
 ふわっと、空気に色彩が戻った。




 こぽぽ、と心を癒やす水音が会議室に響く。
 各人の前には紅茶と珈琲。それから、
「俺の恋人の手作りだ。美味いぞ。遠慮なく食ってくれ」
「なんだエッカート、惚気かい?」
「ああ。俺、この戦いが終わったら結婚したいぞ。
 ――おいレミエル、なんか察した顔でニヤニヤするな! フラグじゃない、そんなものへし折ってやるさ」
 ミハイルが配ったワッフルとスコーンと焔お手製小豆トースト。
「珈琲とも意外と合うね〜。和洋折衷‥‥こんな感じで天魔ともおいしく共存できたらいいんだけど」
「確かに天魔との軋轢は、文化の違いも大きいみたいだからね」
 海はカップの中でゆらめく黒い水面を見つめ、それから目を閉じた。
 見果てぬ夢だと思われた平和な世界――それが朧げながら形を得ようとしている。
 我々の右手は、『天』の指先に触れた。
 しかし左手は、『魔』を認めさせるにはまだ、足りていない。
 だから。
「今は‥‥無辜の命が奪われる事のないように、負の連鎖を断ち切るための刃が必要――ですね」
 護るだけじゃ世界は変わらない。見捨てられる命は0にならない。天魔による孤児も、また生まれてしまう。
 天魔と手を取る――変革の礎となる力がほしいと、樹は思った。


「負の連鎖‥‥鎖‥‥‥‥あ」
 それは、何気ない単語からの閃きであった。
 否、甘味がもたらした天啓だったのかもしれない。
 口の中のワッフルを紅茶で飲み下し、焔は首を傾げた。
「アストラルヴァンガードの星の鎖って、上空の敵を無理矢理引きずり下ろすけど‥‥その仕組みを応用するのは可能でしょうか?」
 もぐ。
 休憩中の緩んだレミエルの顔が、一瞬でシリアスに立ち戻る――!
「‥‥!!! ふむ‥‥ほう‥‥! スキルの理論と回路を‥‥蓄霊した‥‥核で倍化させて‥‥‥‥」
 ノートにペンを走らせ、脳をフル稼働させる。
 資材の量。設計。運搬方法。回路構造。エネルギー。条件。射程。
 必要資金以外の、今考えられるだけの全てをはじき出していく。
 その姿は、おおよそ『V兵器を開発した者』としての力を実感させるものだったが、その一方で
(頬にあんこが‥‥! でも、そんなレミエル様も素敵‥‥っ!!)
 レミエルに接するほどギャップを発掘している気がする聖羅だった。

 ややあって。
「――うん、いける。星杜、面白い案かもしれないぞ!!」
 上気した顔で返事を返すレミエル。
 新たなピースが、かちりとはまった。



 それからのディベートは、弾むように進んでいった。
 新案・星の鎖兵器を含め、3つの案の実戦を想定した上でよりよいのはどれか――と。

「霊磁砲かクラック・ルーティングなら、クラックのほうがいいと思う。再利用できるなら霊磁砲推しだったんだけど」
「その2つなら俺もクラック案に1票だよ〜。船を乗っ取れるって面白そうだしね?
 でも失敗した時のタイムロスが、うーん‥‥触媒を多く作って、2段構えにしたりできないかな」
「それはいい案だな。2セットなら用意できるぞ。術も継続できる」
「一箇所を崩しても術が止まらない、全て崩す必要がある――と思わせる事ができればあるいは‥‥?」
 先々の転用を考慮した上で意見を述べる海。に、続いて焔がまた改良案を示して。
 新案を思いついたとしても凝り固まらない柔軟な思考。一つの食材から無限の料理を生み出すように、新たな可能性を探していく。
「でも、術者の重体がある上に戦力を分散させるのは危険じゃないですか? 2段構えってことは、重体や戦力分散も2倍ですからね」
 戦力が散るということは、悠人の戦友達もまた手の届かない所へ行くだろう。厳しい局面も増えるだろう。
 それは自分にとってだけではない。誰もが親しい誰かを喪うリスクが増えるのだ。
 悠人もまた、その根幹は『護りたい者』だった。
「星の鎖案は一箇所でいいのか。守るならそっちのほうが楽だな」
 最初はクラック案を推すつもりでいたミハイル。
 悠人や焔の案を加味した上で戦況を思い浮かべると――なるほど、星の鎖案のほうが布陣しやすい。
 だが当然ノーリスクではない。樹は資料の裏に鎖兵器についてまとめながら、問いかけた。
「しかし問題は人数確保ですね。レミエルさん、星の鎖案を成功させるには何人くらい必要でしょうか?」
「実際兵器が完成しないと正確な数字は出せないが、確実には私を含め30人。15人を切ると失敗する可能性のほうが高いと思うよ」
「リチャージにかかる時間は――」
「数分で打てるさ。ただ、スキルである以上術者に依存する比重が大きい。何度も撃つと術者の疲労が成功率に影響するだろう」
「術開始から発動までの想定時間はどれくらいだ?」
 樹に援護射撃するように、ミハイル。
「術者が身動きできない時間、という意味でなら30秒かからない程度じゃないかな。
 実際の準備としては説明や器具の装着なんかの時間もあるが、その間は一応身動きできるからね」
 となると――ストレイシオン、四神結界、円卓の騎士。
 1人ずつにはなるが庇護の翼も選択肢に入る。
 現実的に算段を組み始め、サングラスの奥の藍宝石が瞬いた。


 一滴の雫が波紋となり、他方の波紋と重なり、響いて、模様を描いていく。
 意見はおおよそ鎖案に収束の気配を見せていた。
 が。
「個人的にはクラック・ルーティング、星の鎖、霊磁砲――の順で推させて貰うわね」
 これまでほぼ聞き手に回ってきた聖羅だったが、凛と鈴音を響かせるように、きっぱりと告げる。
 新たな雫が円卓に落とされ、集まる視線。
 しかしそれに動じる事もなく。
「術式を護るために戦力が分散する事。
 これはどの道一度に突入出来る人数は限られてる筈だし、予め突入部隊を選定しておく事で、突入時の問題はほぼ解消出来るはず」
「‥‥ボトルネックにならないよう、戦力分散を逆手に取ってスムーズな乗船をしようって意味であってる、かな?」
 確認するような紫蝶の言葉に、少女は頷いた。
 確かに防衛時には難がある。しかしその先の侵攻では利にできる――と、聖羅は考えたのだ。
「問題は敵に一点突破を狙われた際の対処法だけれど‥‥。
 敵が30分間で術者の位置を特定し、戦力を投入するのは難しいと思うんです。あとは、さっき星杜さんが言ったとおり、ね」
「全て崩す必要があると思わせられれば、ってやつだね〜」
「ええ。術さえ成れば、船を下ろして戦力を送り込むという最大の目的の足がかりとして、安定度はダントツに高いはず」
 霊磁砲は船体の破損が伴うから想定外の問題が発生しやすい。
 星の鎖はスキルである以上効果時間の限界があるし、ゲート破壊までの間に敵悪魔が鎖を処理できれば船は空へ戻り、再び優勢を取られるだろう。
 であれば。完全に操縦系統を掌握できるクラック・ルーティングが一番盤石なのではないか――、と。

「巫は、聡い女性だな」
 にこりと、微笑みかけるレミエル。
「この作戦が、兵器が、何のためにあるのか‥‥きっと誰よりもその意味を、よく考えてくれたんだろう」
 始めは見惚れたものの、前のめりで熱弁していた事に気づき、聖羅は慌てて席についたのだった。





 会議を始めてからおよそ2時間。
 ブレイクタイムを挟みながらも様々な意見が場に集った。
 先の聖羅の意見も、真実他の者が見えて居なかった『何か』を確かに突いたのだろう。
 一度纏まりかけた話がより具体的に、現実的に、そして切り口を変えて。より深く、隅々まで討論された。
 特に樹は、元より聖羅と同じく術後の展開に関する意見を持っていたのもあり、鎖で降ろした後の動きについて一層雄弁になっていった。


「――そろそろ、煮詰まったかな。最後にそれぞれ意見を聞こう」
 レミエルが周囲を見渡した。

「鎖案に賛成だよ。射程がやや短く、術者をある程度限定しちゃうけど、準備時間の短さと戦力集中できることのメリットは大きい」
 全ての案を経由した上で、海は最終的に鎖を選び、
「同じく、僕も鎖案です。戦力の分散を防ぎつつ拠点防衛に近い形になるので、護衛がしやすい点で多少はリスクは低めだと思う」
 焔は兵器を拠点とした陣形を想定して――
「そうだな、護衛を考えると1箇所にまとめられる星の鎖案を推す」
 具体的に範囲防衛の手段を挙げたミハイルは、焔に同調を示した。
「戦力分散がなく30人で成功が望めて、再チャレンジが容易‥‥うん。俺も鎖兵器に賛成かな」
「鎖案に賛成ですが、術者を把握しやすようレミエルさんを隊長とした部隊を設置してもらうのが前提、という感じです」
 事実上一発勝負のリスクを回避できる点を評価した悠人と、あくまでそれらは部隊としてまとまってこそと条件をつけた樹。
 そして、
「私は先程話した通り、クラック・ルーティング、星の鎖、霊磁砲の順が適切だと思います」
 聖羅はクラックが最も盤石だと、己の意見を最後まで通した。

 難点の先の利点に価値を見出すか。
 それとも、まずは先に進むための初手に確実性を求めるか。

「多数決、なんて言うつもりはなかったけど――無尽光研究委員会筆頭研究員たる我が名において、星の鎖兵器案を採用したい」

 円卓の上座についたレミエルの宣言に、各々が顔を少しほころばせて見合わせた。
 だが、と続けて言葉が続く。声を発したのは紫蝶だった。

「全体の指揮を預かる私としては、聖羅の意見も尤もだと私は思う。
 ‥‥方法が何であれ、術が成功した後、その効果を持続しなければ意味がない。
 これは兵器開発とは論点が異なるが、聖羅が投じた一石は無駄にせず、戦略で以てカバーしていこうと思うよ」

 聖羅を含めた参加者全員が力強く頷いた。







「――人間はすごいな」
 参加者が退出した後の会議室で、レミエルは呟いた。
「俺がここに来たばかりの頃、こと戦いに関して俺は教えるばかりの立場だったはずなのにね」
「ふふ、今日は学ばされたか?」
 机を拭きながら、紫蝶は笑った。
「学ばされたさ。祭器のときも思ったけど‥‥人間の発想力と順能力は、天魔のそれを軽く超える」
 学園に帰順した天魔生徒達もそうだ。
 来た頃はぎこちなかった彼らも、今では心のままに自由に生きている。
 人間の持つ真の力はきっと、ソフトパワーなんだろう。
「俺もうかうかしていられないな。早速あの子達の想いを形にするよう、作業に取り掛かるよ。――お先に」
 言って、レミエルは扉の向こうへと消えていき、
「そうだな、人間は強いんだよ。レミエル」
 独り窓の外の嵐を見ながら、紫蝶はそう呟いた。




 この会議よりおよそ半月後――作戦決行の報せが学園内のあまねく人に知れていくのであった。




依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:大成功面白かった!:5人
MVP一覧
 地下施設の悪夢・星杜 焔(ja5378)
重体一覧
 −

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部7年9組 男 アストラルヴァンガード
獲物追う狩人・
浪風 悠人(ja3452)

大学部3年11組 男 ルインズブレイド
レミエル様の盾となる・
巫 聖羅(ja3916)

大学部2年11組 女 ダアト
地下施設の悪夢・
星杜 焔(ja5378)

大学部2年1組 男 ディバインナイト
守るための終曲・
龍仙 樹(jb0212)

大学部5年6組 男 ディバインナイト
バケツプリンマイスター・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部4年9組 男 バハムートテイマー


依頼相談掲示板

依頼相談テーブル
龍崎海(ja0565)|大学部7年9組|男|アス
最終発言日時:2016年09月18日 15:48
【質問卓】
レミエル・N・ヴァイサリス(jz0006)|大学部5年0組|男|アス
最終発言日時:2016年09月18日 13:31
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月15日 22:17


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