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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/24


みんなの思い出

1
1

オープニング


 ディアボロが出た。
 サーバントが出た。

 人々は撃退署や久遠ヶ原学園に退治を要請し、役所は避難を呼びかける。
 要請を受けた撃退士達は現場に赴き、避難が済んでいなければそれを促し、逃げ遅れた者がいれば救助し、敵を速やかに片付ける。
 それはもう、型に嵌まった一連の動き、ルーティンワークと言っていいだろう。

 かつては非日常だった光景は、もはや日常となり、当たり前のこととなった。
 一般の人々は助けられるのが当たり前であり、撃退士は彼等を助けるのが当たり前だと思われている。
 中には助けられても礼を言わないどころか、到着が遅いだの手際が悪いだの文句を付ける者も少なくなかった。
 それどころか天魔の襲撃を撃退士のせいにする者もいる、お前達が下手に抵抗するから天魔が襲ってくるのだ――と。


「もう、やってらんねーよ」
 撃退士としてはベテランの部類に入る少年は、依頼から帰る電車の中で呟いた。
 高校生の彼は、もう十年近く撃退士として戦い続けている。
 最初の頃は「悪いやつらをやっつけるんだ」と子供らしい正義感に燃え、ただ夢中で戦っていた。
 戦う度に強くなることが実感され、助けた人々に「ありがとう」と言われることが嬉しくて、また次も頑張ろうと決意を新たにしていた。
 でも、近頃は。

 レベルが30を過ぎたころから能力は伸び悩み、確実にレベルアップしているという実感が薄くなった。
 出て来る敵も似たようなもので、遭遇する状況も似たり寄ったり、いつも「ああ、このパターンは前にも見たな」という思いが付きまとう。
 それに何より、最近は感謝されることが少なくなった。

「べつに、チヤホヤされたくて撃退士やってるわけじゃねーけどさ」
 それでも、労いの言葉や「ありがとう」の一言もなければ、戦いの後に残った疲れが何倍にも感じられる。
 文句でも言われた日には、こいつら全員ぶっ殺してやろうかという思いが腹の底から湧き上がって来る。
 思うだけで、行動を起こしたことはないけれど――まだ。
 でも、このままだといつか爆発する。

「だからさ、俺もう撃退士やめようかなって」
 彼は一緒にいた仲間達にそう言った。
 周りを見れば、車内の人々は平和な日常にどっぷりと浸かったように、呑気に好き勝手に過ごしている。
 天魔との戦いは続いているけれど、それは自分達には関係のない世界で起こっていること。
 たまに巻き込まれることはあっても、撃退士が上手いこと片付けてくれる。
 そんなふうに思っていそうな顔ばかりだ。
 実際、この車内にあって依頼帰りの彼等撃退士は、周囲から完全に浮いていた。
 そこそこに混んでいるにも関わらず、彼等の周りだけぽっかりと空間が出来ている。
 近くにいる乗客達も彼等を見ないように、存在しないものとして扱いたがっているような空気を感じる。

「もう、やってらんねーよ」
 彼はもう一度呟く。
 異を唱える仲間はひとりもいなかった。



 その数日後。
 学園の斡旋所に天魔出現の報が入った。
 とある町に小鬼型のディアボロが現れたというのだ。
 いわゆるゴブリンというやつで、撃退士なら新入生でも難なく倒せる相手だ。
 小鬼のほうでも自分達が弱いことは理解しているようで、少しでも反撃されれば一目散に逃げ出していく。
 それなら最初から町を襲うことなど考えなければいいものを、そこに思い至る知能もないところが量産型モブの哀しさといったところか。
 とにかく、事件は「いつものパターン」に嵌まった典型的なルーティンワークだった。
 住民を避難させ、敵を片付けて、終わり。
 簡単な仕事だ。
 ゴミの収集日に回収車が来てゴミを持って行ってくれるのと同じくらい、日常的で当たり前のこと。
 きっと感謝されることもない。

 しかし、気が付けば少年はその依頼を受けていた。
 もう撃退士はやめると本気で考えているのに。
 初心者にも出来る簡単な仕事なのに。
「これで、最後だ」
 少年は思った。

 この仕事で何も得るものがなければ、退学届を出そう。
 撃退士であったことは忘れて、ただの一般市民になろう。
 何も思い煩うことのない「向こう側」の気楽な人間になろう。



プレイング

慟哭宿せし憤怒の闘拳・鐘田将太郎(ja0114)
大学部4年6組 男 
能力伸び悩みはわかるが、感謝されなくなったっつー理由で撃退士やめようかなって…。
そんな理由でやめられてもなあ…。

雑魚多数、負傷者無しか。
おい、ディバ君、雑魚だからって手ぇ抜いて戦うんじゃねぇぞ。
(名前がわからないのでわかっているジョブをもじって以降そう呼ぶ)
さっさと退治して避難警報解除させようぜ。

※予想外の事件
小鬼が合体して、王冠つけたキングゴブリンに変化。数は8体。接近パワー型。
逃げ遅れた幼児がいた。

って、ディアボロって合体でけんのか!?どこぞのスライムか!
人数少ないから、ディバ君、お前もゴブリン退治しろ。ベテランならちょちょいのちょいだろ?

闘気解放、外殻強化使用後、本気だしてキングゴブリン攻撃。
とどめをさそうとしたところ、逃げ遅れた幼児に気づくが、俺が助けられそうもない。
「ディバ君、手が空いてるんだったらお前があの子助けろ! 戦う気がないならそんくらいやれ!」
その間、ディバ君が攻撃されないようガード。
ディアボロ退治が終わり、ディバ君が子供助けられたようならそれで良し。
「ありがとう」とお礼を言われればなお良し。
その場合、小さい子でも感謝されるのはいいモンだろ?と一言。

終わった後はファミレスでトークタイム。
ディバ君が今後どうしたいか聞きたいモンだ。続けるもやめるもディバ君次第だけどね。

赫華Noir・黒百合(ja0422)
高等部1年3組 女 

※アドリブ可

○心情

さてェ、雑魚掃討作戦ねェ…こうも歯応えが無いと面白くないわねェ…(ため息

○行動

事前に作戦内容、各自の行動内容を確認
差異がある場合は行動の修正を行う

雑魚の掃討戦という事で自身は積極的に戦闘に参加せず、ヒリュウを召喚して適当に戦わせる
「アイアンスラッシャー」による範囲攻撃、及び近接戦闘による攻撃を行う
敵が逃走しようとした場合はヒリュウを先回りさせて逃走経路を塞ぐ
自身は後方でヒリュウの操作、自身の周辺に敵が来た場合は正面は「弾丸蟲」後方側面は「尻尾ライフル」で迎撃、近接攻撃はロンゴ〜、遠距離攻撃はG3装備で対処する
不意打ち、潜伏など十分に注意して周囲の索敵など実施する

戦闘終了後は周囲の残党確認、負傷者の治療(活性化スキルを変更して回復スキルにする)を行った後に撤収する

突発的自体には冷静に対処する


獲物追う狩人・浪風 悠人(ja3452)
大学部3年11組 男 

【心情】
『誰かの為に戦えるのならこの程度何ともないんですよ、僕の中では、ね』
激しい戦闘から帰還したばかりでまだ傷が完全に癒えていないが誰かに必要とされる限りは戦いたいと決意を持って依頼に臨む

【目的】
ディアボロの討伐

【行動】
依頼が終わって間もないあちこち擦れた格好で参加
同行する少年に挨拶と自己紹介をし、格好を不審がられたら実はまだ帰還して間もない事を伝え心情を述べる
ただ、少年が自分より強いディバインと言うこともあり、尊敬の意を込めて、足は引っ張りませんがもしもの時はよろしくお願いしますと伝える

現場に着いたらすぐさま人に近い位置に居る雑魚をウエポンバッシュで遠ざけつつ、周囲を巻き込まない状態になったら討伐に切り替える
いくら雑魚でもレート差のある少年が複数に囲まれたら危険なので背後を取られない様に背中のカバーに回る

敵が合体したらウエポンバッシュで他の敵から距離を空けさせて一対一に持ち込む
一対一になったら短期決戦に持ち込む為倒れるまでアークを撃ち込み続ける
倒したら少年の援護に向かい、敵の背後からアイビーウィップを打ち込んで束縛する
後は手分けして討伐する

討伐が終了したら祝勝会としゃれ込む流れに賛同しつつ、少年を誘う
金銭面で断られそうなら先輩に任せとけと奢る
ドリンクバーで乾杯しながら一緒に戦ってくれたことや助け合えた事の感謝を伝える
たまにはこうゆういつもと違う事があると楽しいでしょと笑いかける

哀転の白・Spica=Virgia=Azlight(ja8786)
大学部1年3組 女 
★アドリブ・絡み可
○心情
「後輩だけど、強い…。けど、やめたい…?
スピカにとって依頼は新作コンボや戦術を試す場のため疑問符

○目的
敵殲滅
少年との対話

○行動
低空飛行し範囲攻撃を撒いて空爆
一撃で複数の敵を巻き込み早期の殲滅を目指す
範囲攻撃回数切れでMM・MLに換装
「数が多いし、面倒…」

キングゴブリン(KG)出現時狙撃銃に持ち替え敵射程外から飛行+引き撃ち
ノーダメージを狙うが数が多いため捌ききれない
被弾or接近されたらMM→MLで反撃、その後空中に逃げ狙撃
KGに囲まれた場合即座に空中へ退避
1対1でBS通る場合MM→槍刺突→[MM→ML]×2
「っ…、聞いてない…っ」

終了後ファミレスでトークタイム
他の参加者に比べ経験が浅いため何故撃退士になったのか、何を目指して続けていたのかを尋ねる
ジョブもなぜディバを選んだのか、原点を掘り下げるよう話す
聞き専だけでなく、まだ未熟とは言え自分の経験も交える
高レベルを活かし新人育成の提案も行う

バケツプリンマイスター・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部4年9組 男 
スタンス:
ディバ少年が撃退士を辞めたがっているのは耳にしている
依頼中はそれに触れず
呼び方:少年

・設定
小鬼が合体→王冠付けたキングゴブリン
8体
接近パワー型
中堅撃退士が1対1で渡り合える程度
少し大きい
「ああ、そうでないとな!少しは骨のある殺し甲斐が欲しいぜ!」

逃げ遅れた幼児が一人
「少年、お前が一番守りが堅い。頼んだぜ」
キングゴブリン寄ってきたら格好いいところを見せるがいい
終わったら「おにーちゃん、ありがとう」だぜ
胸きゅんきゅんだ

・俺の行動
スタンエッジで足止め
破魔の射手で一気に仕留める
「手も足も出ないまま肉片散らかして地面這い蹲ってくたばれ」
敵の攻撃はフィーバービートで対応
武器の角度、腕の筋肉の盛り上がりで攻撃のスピードと間合いを予測
華麗に避ける
レート差で多少やられても、戦いのスパイスだ
味方のダメージは応急手当で回復

・依頼後
ファミレスでトークタイム
プリン食べる(きりっ

・少年に話しかける
その若さで撃退士歴が随分長いらしいな
戦闘ジャンキーでもなければ10年近くやってられないと思うぜ
俺か?
正義の味方ではないな
賞賛なんて気にしない、存分に力を振るい、人間を家畜扱いする天魔をぶちのめす、実に楽しい
お前はまだ若い
もし道が見えなくなったら周りを見回せ
違う道を歩いてもいい
・・ま、今日はいい戦いぶりだったぞ
引退するには惜しい逸材だ
伸びが鈍ったら?
楽しめばなんだって伸びるさ
俺、31のオッサンだが伸び盛りだぜ

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部1年8組 女 
「だれだぁ、あいつは?見ねー顔だな。」
つぶやいたのは義体特待生のラファル。
巷では爆破魔だのペンギンが本体だの言われているだが案外人好きである。根性のねじまがった撃退士や勘違いしている新人やなんかにちょっかいを出すのが大好きで、話を聞いたりからかったり諭したりすることに無上の喜びを見出している。件のベテラン撃退士に目をつけて絡んでいく。

少年の事は「達人君」と仮称。

死んだ目をしてるように感じたので戦闘前に少し話しこむ。やる気のなさや緊張感の欠如は大事故の元だから事前に摘み取っておくのがラファル流。
戦闘そっちのけで話し込んだ結果、どうもそれだけじゃないと察する。
36レベルに適わないけれどラファルとて達人のとばぐちに立つ身だ。雑魚共は指先一つでダウンさせて、最低限の仕事はする。

「36レベルなんてヒーローにも悪魔にもなれるってのに、もったいねー。」

口で言っても解らんだろうから、違う事を起こしてみしょうホトトギス。
報告時に念入りにあれこれ御用聞き。特に子供に聞くと予想もしない答えが帰ってくるから仲良くなっとくことにしくはない。ほら出てきた。
増援で出てきた合体ゴブリン共は蹴散らす。さらに聞くと根城もあるらしいからこれは報告するにとどめておくか。さすがに戦力が足りんし。


「どうよ、刺激を求めんならいつもと違うことしねーとな。自分から一歩踏み出すのが秘訣さ」

そう言ってカラカラと笑うと反省会に雪崩れ込む



リプレイ本文

「だれだぁ、あいつは? 見ねー顔だな」
 同行メンバーと斡旋所で顔を合わせたラファル A ユーティライネン(jb4620)は、訝しげに呟いた。
 どうやら他の仲間達も直接の面識はない様だが、何人かは「ああ、あれが例の…」と思い当たる程度には噂を見聞きした事があるらしい。
 しかし今は事件への対応が先、詳しい話はそれを片付けてからだ。
「一緒に戦うのは初めてですね、よろしくお願いします」
 浪風 悠人(ja3452)は自分よりも年下に見える少年に対しても、きちんと丁寧な挨拶を欠かさなかった。
 それにしても、もう既に一戦交えてきた様な格好なのは何故だろう。
「ああ、これですか…実はまだ帰還して間もないんですよ。着替える間もなく、この事件を知ったものですから」
「こんな簡単な事件、他の誰だって出来るだろ」
 なにもそんな状態で無理をすることはないのにと、少年は何か不思議なものでも見る様に悠人を見た。
「でも、誰かが助けを求めていると聞けば、放ってはおけませんから」
 まだ戦えるなら、そして誰かに必要とされる限りは。
「誰かの為に戦えるのならこの程度何ともないんですよ、僕の中では、ね」
「…ふぅん」
 気のない返事をして、少年は目を逸らす。
 まるで、その姿が眩しすぎるとでも言う様に。
「ともかく、足は引っ張りませんがもしもの時はよろしくお願いします」
「もしもなんて、あるわけないだろ。相手はゴブリンだぜ?」
 そっぽを向いたまま、少年は答えた。


 戦場に着いた悠人は、獲物を求めて突出しようとした一体を弾き飛ばす。
「隊列を乱してはいけませんね」
 そのまま群れ全体を押し戻し、周囲を巻き込まない所に纏めて押し込んだら討伐開始だ。
 悠人は少年が背後を取られない様に背中のカバーに回る。
 本人は「こんな雑魚にやられるわけないだろ」と不満そうだが、レート差もあるし念には念を。
「おい、ディバ君、雑魚だからって手ぇ抜いて戦うんじゃねぇぞ」
 鐘田将太郎(ja0114)は、少年に対してそう声をかける。
 雑魚多数、負傷者無しとの報告の通り、どう転んでも面倒な事にはなりそうもない現場だった。
 とは言え世の中そういつも同じパターンばかりとも限らないのだが。
「さっさと退治して避難警報解除させようぜ」
 将太郎が『俺は鐘田だ!』と大書された大鎌を振るうと、小鬼達の首が面白い様に飛んで行く。
 やはり雑魚は雑魚――だが、普通ならこの程度で逃げ去る子鬼達が、今日は妙に粘るのが気がかりと言えば気がかりだが。
「見慣れないゴブリンがいるのも気にかかるな」
 遙か後ろに目をやったミハイル・エッカート(jb0544)が呟く。
 後方に控えた何体かは、他の子鬼達よりも…何というか、お洒落をしていた。
 身体には入れ墨の様な模様があり、鳥の羽で作った様な房飾りを頭に付けている。
 人間で言えばシャーマンの様な雰囲気を纏っているが、あれは何だろう。
「まあいい、何だろうと蹴散らすだけだな!」
 ミハイルは魔銃を構え、まるで縁日の射的の様に軽く撃ち倒していった。

「おーい達人君」
 かったるそうにランスを振り回す少年に、戦闘そっちのけでラファルが話しかける。
「見ねー顔だから新人かと思ったが、随分と手慣れた様子じゃねーか」
 それにしては、その目に生気がないのが気にかかっていた。
「やる気のなさや緊張感の欠如は大事故の元だぜ?」
 不安の芽は事前に摘み取っておくのがラファル流という事で、戦いの最中でも構わず突っ込んで行く。
 巷では爆破魔だのペンギンが本体だの言われている様だが、実は案外人好きの世話好きであるとは本人の談。
 根性のねじまがった撃退士や勘違いしている新人やなんかにちょっかいを出すのが大好きで、話を聞いたりからかったり諭したりすることに無上の喜びを見出しているというからには、この少年に絡まない筈もなかった。
 大丈夫、話しながらでも雑魚退治は出来る。
「こんな奴等、指先一つでダウンさせてやっから心配いらねーよ」
 実際にそうしながら話を聞いた結果、何かを察したラファルは、ふいっと戦場を離れた。
「36レベルなんてヒーローにも悪魔にもなれるってのに、もったいねー」
 口で言っても解らんだろうから、違う事を起こしてみしょうホトトギス。
 御用聞きよろしく子供達の話を聞きに行ったラファルは、そこで予想もしないトンデモ回答に出くわす事になる。
 普通の大人なら誰も信じないだろうが、生憎と撃退士は普通のカテゴリには入らない。
「俺は信じるぜ、話してくれてアリガトな」
 その話とは一体…?

「さてェ、雑魚掃討作戦ねェ…」
 黒百合(ja0422)は余り気乗りのしない様子で、召喚したヒリュウに適当に戦わせていた。
 なお召喚獣達のストライキは解除された模様。
「こうも歯応えが無いと面白くないわねェ…」
 溜息を吐きながらアイアンスラッシャーを命じると、小鬼達がボウリングのピンの様に倒れていく。
「まったくだ、面倒なだけの作業だな」
 それに応える様に少年がボヤいた。
「あらァ、ならどうしてこの仕事を受けたのかしらァ?」
「そっちこそ、なんで来たんだよ」
 少年の問いに、黒百合は小さく笑みを浮かべるばかりで、何も答えなかった。

「数が多いし、面倒…」
 Spica=Virgia=Azlight(ja8786)は低空を飛行しながら、小鬼達の頭上にクレセントサイスと炸裂陣の爆弾を落として行く爆撃機と化していた。
 上空からだと戦略シミュレーションゲームの様に、地上にマス目が描かれている状態が容易に想像出来る。
 なるべく多くの敵が集まっている所に狙いを定めて撃てば、素早く効率の良い殲滅が可能――な筈なのだが、如何せん数がやたらと多い。
「少し纏まってくれると、楽なんだけど…」

 その願いが通じたのだろうか。

 ゴブリンAが現れた!
 ゴブリンBが――以下どこまで続くのか、とにかく沢山!

 ゴブリン達は合体してキングゴブリン(以下KG)になった!

「って、ディアボロって合体でけんのか!? どこぞのスライムか!」
 しかも王冠付けてるし、と将太郎が驚愕の表情でそれを見上げる。
 そう、それは見上げるほどに大きかった。
 それが全部で8体も出来上がったのだから、これはちょっとした事件だ。
 斧を手にした筋骨隆々のムッキムキで、接近戦が得意なパワー型に見える。
 かなり強そうだ――見たところ中堅撃退士がタイマン張れる程度か。
「ああ、そうでないとな! 少しは骨のある殺し甲斐が欲しいぜ!」
 ミハイルが嬉しそうに前に出る。
 温存しておいたスキルを今こそ存分に使う時!
 スタンエッジで足止めし――いや、止まらない。
「なんて奴だ、魔攻で俺を上回るのか!?」
 流石はキングと名乗るだけの事はある、いや自分で名乗った訳ではないが。
 しかし、よく見れば片足だけが麻痺した様に動かなくなっている。
 しかもKGはそれを引きちぎって歩き出していた。
「くそ、どうなってやがる!?」

 上空からその様子を見ていたスピカは手元の端末で過去の記録と照合してみるが、該当する記録は存在しなかった。
「新種…?」
 スナイパーライフルに持ち替えて空中からの狙撃を狙うも、当たった筈の攻撃に怯む様子は全くない。
「っ…、効いてない…っ」
 銃撃は効果がないのだろうか。
 ならばと再び銀の槍に持ち替えて接近、アウルの雷を纏う巨大な槌を頭上から振り下ろした。
「手応え、あり…」
 押し潰される様にひしゃげたKGの身体がバラバラに砕け散る――いや、元のゴブリンに戻った?

「なるほど、一定以上の攻撃を加えれば合体が解けるんだな」
 多分そういう事だと、ミハイルは破魔の射手を撃ち放つ。
「手も足も出ないまま肉片散らかして地面這い蹲ってくたばれ」
 その言葉通り、崩れてバラけた小鬼達は地面に叩き付けられて這いつくばった。
 しかし、大部分はくたばる前に泡を食って逃げて行く――ただ、例のシャーマンの様な一体を残して。
「こいつが核になってたのか?」
 ということは、こいつを倒せば良い訳だ。
 KGの状態ではどこに隠れているのかわからないが、恐らく頭か胸の辺りだろう。

「わかりました、そこを狙えば良いんですね」
 悠人はウエポンバッシュで一体だけを他から切り離し、一対一の勝負に持ち込んだ。
 大剣にアークの光を宿し、核を狙って斬り付ける。
 まずは頭、次に心臓を狙うが、個体によって核の場所が違うのだろうか。
「ならば、ここは…!」
 身体の中心、腹を狙って斬り付ける。
 途端、合体が解けてただの小鬼の寄せ集めに戻った。

「きゃはァ、ずいぶん強そうなのが出て来たわねェ♪」
 黒百合はヒリュウを飛ばして退路を塞ぎつつ、弾丸蟲を放つ。
 だが、どうやら点での攻撃は効率が悪い様だと、漆黒の巨槍に持ち替え接近戦へ。
 敵の大振りな攻撃をかいくぐって突き刺し、振り抜く。

「人数少ないから、ディバ君、お前もゴブリン退治しろ。ベテランならちょちょいのちょいだろ?」
 将太郎は少年にそう声をかけ、自身は闘気を解放、外殻を強化して、いざ本気を出してKGへ攻撃を加えて行った。
 大鎌を振るう度に数体のゴブリンが剥がれ、KG本体は小さくなっていく。
「これで止め――」
 だが、その視界の隅に何かを捕らえ、手を止めた。
「子供!?」
 逃げ遅れたのか。
 しかも、フリーになった一体のKGと、取り巻きの様にそれに従う一群の子鬼達がそれに気付いて近寄ろうとしている。
「ディバ君、手が空いてるんだったらお前があの子助けろ! 戦う気がないならそんくらいやれ!」
「空いてねーし、戦ってるし!」
 だが、そこに駆け込んで来る者がいた。
「こいつは俺に任せろ」
 ミハイルだ。
「その代わり少年、お前が一番守りが堅い。頼んだぜ」
 格好いいところを見せるがいいと背中を押す。
「ちっ」
 不満そうな様子を見せながらも、少年は子供の目の前に飛び込んで庇護の翼を展開、振り下ろされた斧の一撃を受け止めた。
 直後に悠人が背中からアイビーウィップを撃ち込んで腕の動きを止める。
 横からは黒百合が放ったアウルのロケット弾が炸裂、少年はその隙に子供を抱えて安全な場所まで下がった。
「ここは任せて、その子を避難所に届けてあげて下さい」
 家族が心配しているだろうからと悠人に言われ、少年はその場を離れた。
「よし、戻って来るまでに残りを全部片付けるぞ」
 動きを抑えていたKGに将太郎が引導を渡す。
 残るは3体、全員でかかればあっという間だ。

「おっと、モタモタしてっと俺の見せ場がなくなっちまうぜ」
 ラファルは光学迷彩で姿を消して背後に回り込み、魔刃「エッジオブウルトロン」を叩き込んだ。
 スピカは空中からミョルニルを打ち下ろし、将太郎は大鎌で薙ぎ払い、バラけて散った子鬼達も黒百合が退路を断ち、一匹残らず追い詰めてプチプチと潰していく。
 少年が戻る前に、全ては綺麗に片付いていた。


「おにーちゃん、ありがとう」
 仲間達が少年と合流したのは、丁度そんな言葉をかけられている時。
「小さい子でも感謝されるのはいいモンだろ?」
 将太郎にそう言われても、素直に「うん」とは言えないお年頃。
「どうだ、胸きゅんきゅんだろ」
 そう言ったミハイルに対しては「ロリコンか、おっさん」などと悪態を吐く始末だった。
 しかし、依頼の開始前に比べれば、その表情には生気が戻っている。
「どうよ、刺激を求めんならいつもと違うことしねーとな。自分から一歩踏み出すのが秘訣さ」
 ラファルがカラカラと笑い、一同は反省会という名のトークタイムへ――

 雪崩れ込んだのは近くのファミレス。
「まずは、一緒に戦ってくれてありがとうございます」
 悠人がドリンクバーで乾杯の音頭を取る。
「それに皆で助け合えた事にも…たまにはこうゆういつもと違う事があると楽しいでしょ?」
 笑いかけた悠人に、少年はまたしてもそっぽを向いた。
「こんなの、たまたまだろ」
 そう毎回の様に劇的なドラマがあるわけでもないし、それを期待して依頼に出るのも撃退士としてどうなんだと少年は反論する。
(しかし、感謝されなくなったっつー理由で撃退士やめようかなって言ってたんだよな…?)
 ドラマを期待するのがNGで感謝を期待するのはOKな根拠は何だと、将太郎は内心でツッコミを入れた。
(能力伸び悩みはわかるが、そんな理由でやめられてもなあ…)
 その気持ちは、まだ変わらないのだろうか。
「後輩だけど、強い…。けど、まだやめたい…?」
 スピカが尋ねる。
 彼女にとっては、依頼とは新作コンボや戦術を試す場であり、今回の空爆もその一環だった。
 初の試みで、まだ実験段階である為、今後も実践を重ねる必要がある。
 だから、少年の「やめたい」という気持ちがわからなかった。
「どうして、撃退士になったの…?」
「それは、適性があったから」
「ディバ、選んだのは…?」
「守りたいから」
 ヒーローとはそういうものだ。
 少なくとも選んだ当時はそう思っていた。
「今は、違うの…?」
 その問いには沈黙が返る。
「当時ってのは、まだ小学校の低学年か…随分長いな」
 ミハイルが大きなプリンにかぶりつきながら言った。
「戦闘ジャンキーでもなければ10年近くやってられないと思うぜ?」
「あんたは?」
「俺か? 正義の味方ではないな。賞賛なんて気にしない、存分に力を振るい、人間を家畜扱いする天魔をぶちのめす、実に楽しい」
 プリンが美味いのと同じくらい単純明快だ。
「私は…新しい事、試す為…」
 スピカが言った。
 阿修羅を選んだのは「火力こそ正義」だから。
 レベル1でどこまで強くなれるか試し、その後も火力に特化して腕を磨いてきた。
 コンボを見つけて試しトライ&エラーを繰り返して戦術も磨いてきた――経験は、まだそれほど多くはないけれど。
「ディバ君はこれからどうしたいんだ?」
 将太郎が尋ねる。
 続けるのも辞めるのも本人次第だから、それに関して口出しはしないが、悩んでいるなら何かしらアドバイスくらいは出来るだろう。
「高レベル、活かして…新人育成も、良いかも…」
 黙ったままの少年に、スピカが提案してみる。
「お前はまだ若い」
 暫く待って、ミハイルが言った。
「もし道が見えなくなったら周りを見回せ。違う道を歩いてもいい」
 遠回りも悪くないものだ。
「…ま、今日はいい戦いぶりだったぞ。引退するには惜しい逸材だ」
 あ、プリンおかわり。
「伸びが鈍った事を気にしてる様だが、楽しめばなんだって伸びるさ。俺、31のオッサンだが伸び盛りだぜ?」
 そう言って、ミハイルは二つ目のプリンを口に運んだ。


 その数日後、屋上には奥義修得の為に訓練を受ける少年の姿があったという。

 もう一つ。
 KGとはゴブリンが組体操の様に積み重なっただけの単なる寄せ集めであり、一つの個体に見えたのは強力な幻覚作用のせいであった、らしい。
 しかし、あれはキングだったのだ――君達の心の中では!


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:大成功面白かった!:2人
MVP一覧
 −
重体一覧
 −

慟哭宿せし憤怒の闘拳・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部4年6組 男 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部1年3組 女 鬼道忍軍
獲物追う狩人・
浪風 悠人(ja3452)

大学部3年11組 男 ルインズブレイド
哀転の白・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部1年3組 女 阿修羅
バケツプリンマイスター・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部4年9組 男 バハムートテイマー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部1年8組 女 鬼道忍軍


依頼相談掲示板

諦念撃退士の再教育だぜ(相談
ラファル A ユーティライネン(jb4620)|大学部1年8組|女|鬼道
最終発言日時:2016年09月14日 12:37
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月10日 12:11


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