2020年の東京五輪・パラリンピックの経費について、東京都の調査チームが小池百合子知事への報告書をまとめた。

 総費用が3兆円を超える可能性を指摘し、ボート会場の変更など施設の見直しを求めた。小池氏が検討する姿勢を示したのに対し、大会組織委の森喜朗会長は「(計画を)ひっくり返すのは難しい」とさっそく難色を示した。

 膨らむ予算に、関係者のバトル……。五輪を巡って繰り返されるそうした状況に、報告書が本質的な問題としてあげる「司令塔の不在」が表れている。

 東京都、組織委、政府。いったい誰が全体を統括し、責任をもつのか。開催まで4年をきったというのにはっきりしない。

 約1カ月前にチームが調べ始めた時、各施設を政府や都、その他の自治体がどこにいくらで建て、工事はどこまで進んでいるのか一覧できる資料すらなかったという。上限もなく経費が積みあがる状態に、報告書をまとめた経営コンサルタントらは「社長と財務部長がいない会社と同じ」と警鐘を鳴らした。

 つけを払わされるのは都民だ。組織委の収入は5千億円が限界とされ、不足分は都にふりかかる仕組みになっている。

 ここは小池知事が前面に立つべきだろう。五輪を開催する20年に東京は人口減に転じる。巨額のつけを丸々背負えば、都民の暮らしを支えつつ首都の魅力を保っていけるのか、大きな影がさしかねない。

 報告書は、開催計画や予算、人員などを一元管理する体制が必要だとしている。リオ、ロンドンの両五輪には組織横断的な枠組みがあり、施設整備を担ったり、準備状況の情報公開を進めたりした。参考になるものは取り入れながら、体制づくりを急いでほしい。

 競技施設の変更は、確かに容易ではないだろう。一部ではすでに工事が始まっている。競技団体の間では「さまざまな見直しや検討を重ねていまの計画になったはずだ」との声が強い。

 しかし、予想される費用の巨額さを考えると、組織委は都と協力して変更の可能性を探るべきだ。リオ五輪では工事現場と見間違えるような簡素な会場も使われた。柔軟に考えたい。

 国も傍観者ではいられない。安倍首相はリオ五輪の閉会式でマリオに扮して東京五輪をPRし、国会では「必ずや、世界一の大会にする」と述べた。

 2回目の五輪開催で、成熟都市での運営モデルを示す。見直しへの最後のチャンスとして、提言と向き合うべきだ。