マーケットにとっての一大イベントであった9月20日、21日の日米の金融政策決定会合が終わった。日銀は「長短金利操作付き量的質的緩和」という新たな金融政策の枠組みの導入を決め、FRBは利上げを見送った。
このうち、FRBの金融政策については、各種経済指標が悪化傾向だったことから直前の予想通りの展開になった。慎重なスタンスをとった今回のFRBの対応は、どちらかというとマーケットに好感されているように思える。
一方、日銀の金融政策については評価が分かれている。各論者の評価に関してはいろいろなメディアで公表されているので敢えてここでは言及しない。
これはあくまで筆者の個人的な評価だが、今回のポイントは「(公表しないまでも事実上、円高是正のための)追加緩和の有無」だったと考えていたので、実質的に「ゼロ回答」に終わったと考えている。
もっとも、今回は新たに「イールドカーブ・コントロール」という枠組みを導入したので、「ゼロ回答ではない」という指摘も受けた。
確かに、「イールドカーブ・コントロール政策」において、10年物国債利回りの誘導水準を「ゼロ%」に設定したが、日銀は特に10年物国債利回りを高めに誘導するようなそぶりは見せていない(9月27日時点の10年物国債利回りは-0.08%)。
政策的には「ノーアクション」だったからこそ、為替市場では、ドル円の高値を試すような展開が断続的に続いているのだと思う。
すなわち、今回の金融政策決定会合においても、1月29日に導入が決定された「マイナス金利政策」を「量的質的金融緩和(QQE)政策の限界」とみなす現在の為替市場の「ゲームのルール」を変えることができなかったわけだ。
そのため、今回の結果をみて、通貨投機で高収益を狙うヘッジファンド等が「円高ゲーム」を再開するのは、ある意味「合理的な(勝つ可能性が高い)」投資行動ではないかと考える。
ところで、今回の政策フレームワークの変更では、「量の拡大を放棄した」との認識がマスメディアを通じてマーケットに流布している。
日銀の声明文を素直に読む限りでは、従来通り、年間80兆円ペースでのマネタリーベース拡大は継続するし、場合によっては、将来、量の拡大を実施する政策オプションも排除していない。そのため、「量の拡大の放棄」という解釈は正しくない。
だが、ここまでの説明だと、従来のような「量の拡大」が、金融政策の新たな主軸となった「長短金利水準の操作」と両立する保障もないため、そうとられても仕方がない部分がある。
エコノミストの「流儀」に従って、「標準的なモデル(金融政策を簡単な方程式体系で表現したもの)」で考えると、イールドカーブ(長短金利)を政策目標にした場合、日銀が目標実現のために実施する国債購入の額(マネタリーベースの多くの部分を占める)がイールドカーブによって決定されることになる。そのため、日銀は自由にマネタリーベースの量を決めることはできなくなるはずである。
これは、マネタリーベースの量が重要な意味を持つと考えているリフレ派にとっては確かに不都合であろう。一方で反リフレ派の人たちは溜飲を下げたことだろう(ただし、反リフレ派の批判のように、リフレ派全員が、いまでもマネタリーベースの「量」自体に決定的な意味を持たせている訳ではない点も付記しておこう)。
私も一応はリフレ派に分類されるようなので、一歩譲って、マネタリーベース(もしくはその拡大ペース)が増加すればよいと考えた場合、それが可能になることが比較的はっきりしていると思われるのは、10年超の国債利回りが日銀の想定を超える上昇となった場合である。
つまり、上昇した長期金利を、日銀が想定する「適正水準」に誘導するために、当該国債の購入額を増やす場合だ。これには、例えば、政府が大幅な財政支出拡大を、国債増発をともなう形で実行した場合も含まれるだろう(事実上の「ヘリコプター・マネー」)。
海外では、今回の日銀の政策決定を好意的に解釈する経済学者もみられた。彼らの多くは、将来的に、財政出動との一体性がむしろ強化されたことを評価したのだと思われるが、まさにそのケースである。