首相VS蓮舫氏 論戦にはなっていない
得意分野にテーマを絞りメリハリをつける狙いだったのだろうか。その点では異例のデビュー戦だった。
民進党の蓮舫代表が参院本会議で質問に立ち、党首就任後初めて安倍晋三首相との論戦に挑んだ。
まず目を引いたのは、蓮舫氏が外交・安全保障や憲法には言及せず、アベノミクスの転換を迫るなど経済や社会保障に質問を限定した点だ。
蓮舫氏は次のようにただした。
日銀の金融政策は行き詰まっている。地方創生、女性が輝く社会、1億総活躍、未来への投資……と安倍政権のスローガンは変わっても経済の好循環には至っていない。今回の補正予算案は依然として公共事業中心だ−−。いずれも私たちもかねて指摘してきたところだ。
「性別や出自で制限されることのない国」「多様性を認め、経済数値だけでは測れない豊かさをすべての人が感じられる国」といった主張は蓮舫氏らしさを打ち出したものではあるだろう。子供の貧困問題を厳しく追及したのも評価したい。
ただし、蓮舫氏が「提案型」野党を目指すと言っている割には、具体的な新提案は乏しかった。
例えば蓮舫氏は個人消費が伸びないのは未来への不安が消えないからで、教育や子育て支援など「人への投資」を強化することが経済再生につながると強調した。だが、これらは安倍政権も重視し始めている。
そんな中で民進党が国民にどうアピールしていくのか。蓮舫氏には課題が残った。
外交・安保に触れなかったのも、やはり疑問が残る。北朝鮮や中国問題、日露の北方領土交渉などに関しては、既に衆院本会議で同党の野田佳彦幹事長が質問し、憲法問題でも野田氏は自民党の憲法改正草案を撤回するよう安倍首相に求めている。
このため蓮舫氏は重複を避けようとしたのかもしれない。今後も衆参両院で野田氏と役割分担して論戦に臨む方針でもあるのだろう。
しかし、外交・安保や憲法は民進党の中でも意見が分かれ、同党の弱点とされる分野だ。そこから逃げている印象は否めない。党代表なのだから言及は不可欠だった。
一方、安倍首相の答弁は相変わらず、批判や異論に対して謙虚に耳を傾ける姿勢とはほど遠かった。旧民主党政権時代と比べプラスになった経済指標を何度も挙げて実績を強調し、「批判は当たらない」と突っぱねた。これでは議論にならない。
与党が圧倒的多数を占めている国会だが、野党の提案でも国民のためになると思えば政府・与党も受け入れて、よりよい案に修正していくのが立法府の本来の役目だ。そのためには与野党双方の努力が必要だ。