[東京 28日 ロイター] - 配車アプリ大手の米ウーバーテクノロジーズ[UBER.UL]は提携したレストランの料理を運ぶ「ウーバーイーツ」を東京でも29日から始める。米国など海外で展開している配車サービスは、日本では規制が厳しい上にタクシー業界などからの反発も強く、運用は当面望めない。
すでに海外33都市で提供している新サービスを足掛かりとして、ウーバーブランドを浸透させることができるのか注目が集まる。
<ドライバー集めに期待>
自動車調査会社カノラマジャパンのアナリスト、宮尾健氏は、日本での配車サービスの本格展開には「まだ時間がかかる」と予測。その上でウーバーイーツの開始は「配車サービスにとっても非常に大きな一歩」で、ウーバーの認知度向上につながると指摘する。料理は自転車か125cc以下の原付きバイクで配達するが、人であれ物であれ「何かを運ぶ」サービスを円滑に運営するには登録ドライバー数を増やしておく必要があり、ウーバーイーツはドライバー集めの「布石になる」とみる。
ウーバーは今年8月、最大市場の中国での自力開拓を断念し、同業で中国最大手の滴滴出行に中国事業を売却したばかり。東南アジアでは同業のグラブタクシーなどと激しいシェア争いを繰り広げている。
米調査会社アルティメーター・グループのアナリスト、ブライアン・ソリス氏は、配車サービスでは競合他社も進出していない日本は「ウーバーにとって重要なマーケット。日本で成功できればアジアでも勢いづく」と分析する。
ウーバーの主力は、個人が自家用車で空き時間に他人を乗せてタクシーのように稼ぎ、顧客がアプリで配車を依頼するサービス。運送できる人と移動したい人をマッチングさせるシステムをアプリで提供する。空いた時間に運転手になって稼げることなどが特徴。事前登録したクレジットカードで決済すれば、車内で料金支払う手間が省ける。身元が確かな運転手と乗客がお互い評価する仕組みがあるため、乗車時の安全性や質の向上も期待されている。
だが、日本では自家用車による乗客運送が法律で禁じられており、国の営業許可がないと人を有償で運べない。運転手も第二種免許の取得が必要で、市場を奪われかねないタクシー業界などからの風当りも強い。このためウーバーは今のところ自家用車ではなく、東京都内で提携した会社のハイヤーやタクシーの配車サービスにとどめている。
<実証実験で草の根活動>
ウーバーは今年5月には京都府京丹後市、8月には北海道中頓別町で自家用車による配車サービス実証実験での協力を始めた。過疎地で公共交通機関の空白を補う機能が発揮できるのか、これから検証が始まる。
日本法人ウーバージャパンの高橋正巳社長は、京丹後市での実験開始以降、多くの地方自治体から相談が来ていると話す。「京丹後市や中頓別町でのような取り組みをどんどん今後も展開していきたい」とし、高齢化の進んだ日本でのサービスは他国の先行事例にもなり、将来的には海外でも日本での知見を生かしたい考えだ。
宮尾氏は「ウーバーが世界で広がっているのは、それだけ需要がある証拠。日本でも配車以外のサービス展開や自治体との実証実験を通じてその良さを理解してもらい、利用者の声に押される形で配車サービスもいずれ普及する」との見方だ。
<神経質な関連業界>
迎え撃つタクシー業界もウーバーへの警戒を強め、初乗り運賃値下げの実証実験を行うなど反転攻勢の準備を急いでいる。かなり神経質になっているもようで、全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)は、ロイターの取材に対し、ウーバーに対する見解やコメント表明を拒否している。
ウーバーの立ち上がりは、これまで苦戦続きだった。昨年に福岡市で行った実験では、運転手への報酬などが法に抵触する恐れがあるとして、国が中止を指導。タクシー業者から反発を受け、今年2月発表の富山県南砺市での実験計画も見送りを余儀なくされた。
5月にウーバーと資本・業務提携したトヨタ自動車<7203.T>も日本は協業の対象外で、あくまでも普及している海外に限っている。もっとも日本では、自動運転や多言語対応が可能な次世代タクシーの開発・導入に向けて全タク連と連携している。
ウーバーに代表されるライドシェア(相乗り)は、渋滞緩和やそれによる損失時間削減などで社会の生産性が向上し、遊休資産の活用にもつながるとされ、日本での経済効果は3.8兆円以上との試算もある。
1億総活躍社会、地方創生、訪日観光需要などを掲げるアベノミクスへの貢献も期待されている。だが、今のところ過疎化や高齢化の進んだ地方での実験運用にとどまっており、「全国規模で実用化されないと、その効果も限定的ではないか」(アナリスト)との声も出ている。
(白木真紀 取材協力:田実直美 編集:田巻一彦)
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