新米人事、和馬が動く 第1話「新卒の退職が止まらない!」

2016年06月2日

   

新米人事、和馬が動く 第1話「新卒の退職が止まらない!」

和馬は悩んでいた。新卒で入社した社員の早期退職が止まらない。先月は2人、今月は既に3人、そして今日さらに1人から退職の相談を受けてしまった。

人事の悩み「新卒の退職が止まらない」

和馬は入社3年、この4月で4年目を迎えた。人事部に配属されたのが去年の4月なので、もうかれこれ1年が経とうとしている。現在、和馬の会社の人事部では、「新卒採用組の退職」が問題になっている。今日相談を受けた新卒2年目の彼も、あの調子ではおそらく退職するだろう。人事部に異動して1年、新卒採用に関わっている和馬としては、ここでなんとかこの問題を解決したい。

この1年は採用のスケジュールをこなすので精一杯だったが、やっと余裕もできた和馬はついに新卒の退職阻止を目標に動き出すことにした。

まずは情報収集だ。確認したいことは2つ。

「我が社が特別な状態なのか」
「原因は会社側にあるのか、社員側にあるのか」

疑問その① 新卒は3年で何割退職する?

まずは1つ目の「我が社が特別な状態なのか」についてまず調べることにした。これによってこの件についての上への報告も変わってくる。和馬の認識では、「新卒採用者は3年で3割離職する」ということだった。

どうやら、和馬の認識は正しかったようだ。詳細はこうだった。

1年以内離職率・・・12.2%(平成26年度就職者)
2年以内離職率・・・22.8%(平成25年度就職者)
3年以内離職率・・・32.3%(平成24年就職者)
(出典:厚労省 新規学卒者の離職状況に関する資料一覧 平成27年10月発表)

我が社の新卒採用の入社人数は、平成24年が11人、平成25年が8人、平成26年が9人だったから3年間で28名。3年以内に退職した社員は現段階で7人だから、平均は下回っている。過去の状況を調べてみても、3年で3割を超えることはなかったとわかった。

これで、「我が社が特別なのか」ということについては、特別ではなく、平均以下の水準を保っているということになる。しかし、数字の上では下回ってはいるが、採用人数が少ない和馬の会社で、あと2人でも退職者がでれば離職率3割は超えてしまう、という現状を安心してはいられない。

さらに詳しく調べると、「3年で3割」は、すべての業種の平均なので、業種別にみるとバラツキがあるようだ。

離職率が高い業種

宿泊業・サービス業 52.3%
教育・学習支援業 48.5%
小売業 39.4%

離職率が低い業種

鉱業・採石業 7%
電気・ガス・熱供給・水道業 10.5%

和馬の会社は小売業であるから、業種でみても世の中の平均より離職率は低いことがわかった。

その他にもこの調査で
1.景気に左右されない業種は、将来的な安定があると考えて、それより好条件の就職が考えられないことから、定着率が良い
2.企業規模も安定につながる。例えば、従業員規模が1,000名以上の企業は22.8%、極端だが5名未満の企業は60.4%
という2つの事実、つまり企業の将来性や、給与や報酬が一定水準以上であることなどが、労働者が企業を選ぶ一番の条件だということがわかった。

疑問その② 離職原因は会社側にあるのか、社員側にあるのか

そもそも離職を抑えるには企業の安定性が問われていることがわかったので、次は個人にフォーカスし、具体的な離職理由について考えてみることにした。

厚生労働省の「仕事を辞めた者の退職理由」の調査結果を見ると、退職理由の上位3つは下記のような事柄であった。

1位 給与・報酬が少なかったから
2位 事業又は会社の将来に不安を感じたから
3位 労働時間が長かった・休暇が少なかったから

労働状況についての不満・不安が上位を占めている。この理由はあくまで本人が考えている理由で、退職する企業へは別の理由を伝えていることが多いだろう。そう考えると、企業は労働状況によって退職したことに気づいていない、もしくは問題視されていないこともあるのではないかと推測できた。

「うちはどうだろう・・・」和馬は不安になった。

和馬の会社では1年に1回「社員満足度調査」を行っている。しかしこれは、人事部が独自に作成した簡単なアンケートだ。このアンケートは記名式で、内容は「問題があれば記入するように」としてあるため、問題の顕在化につながっているとは言えない。実施は形式だけではないか、という意見も少なからず挙がっていたところだった。

解決したいことの2つ目、「原因は会社側なのか、社員側なのか」は、調べた結果から、原因は会社側にあると考えて解決策を見つけることが賢明だと判断した。

若手社員の本音を聞いてみよう

ここで、退職理由と人間の欲求について和馬は考えた。人間の欲求には、「物質的欲求」と「精神的欲求」がある。退職理由の1位「給与・報酬が少なかったから」は物質的欲求。2位「事業又は会社の将来に不安を感じた」は精神的欲求。3位「労働時間が長かった・休暇が少なかった」は両方に関係していると言える。この欲求をどうすれば満たすことができるのか?

そこで和馬は、「うちの社員は働く環境に満足しているのだろうか?社員満足度調査ではわからない社員の本音を聞いてみないとはじまらないのではないのか。」と思い、24、25、26年入社の新卒組の個別面談の実施を、上司に相談した。

新卒採用社員の個別面談は承認され、実施されることとなった。面談で聞き出すポイントは、2つ。

1、「物質的欲求」「精神的欲求」についてどう感じているか
2、「不安」や「不満」を感じていることはないか

新卒組の社員の気持ちや考えは知りたい。でも、会社が社員にできることなんか限られている。そんな中、聞かないほうがよかったと思う本音があるのではないか。聞いたことで社員に変な期待をさせてしまうのではないか。といろいろと不安もあった。

しかし、面談を実施することが決まった以上、各部署の上長の協力を得ることや、和馬自身、以前に勉強したコーチングのスキルを活かすための準備などで、慌ただしくしていた。ここで、はたと気づく、「うちには社員の要望を聞く仕組みがなかったな。」と。

そうこうしている間に、個別面談の日がやってきた―――(第2話に続く)

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