世界市場を支配する二大航空機メーカー同士の激闘のゴングが再び鳴った。世界貿易機関(WTO)は先週、エアバスがWTO協定違反にあたる欧州連合(EU)からの数十億ドルの補助金を受給し続けたと結論づけた。これを受け、競合である米ボーイングは即座に、決定的な勝利だと宣言した。だが、実際は、今後もまだ多くの闘いのラウンドが待ち受けている。
この紛争はWTOが扱った中でも圧倒的に激烈だ。度重なる紛争は12年間も続いている。EUと米国はともに航空機産業にさまざまな形で惜しみなく資金援助をしてきた。もし双方が米国が訴訟の開始を決めた2006年まで遡り、交渉の場に戻ることができれば、当事者すべてにとっては良いだろう。
この紛争はあまりにも多くの時間と金を無駄にしただけでなく、今や大西洋両岸の政治的な熱の入り方からして、さらに甚大な損害をもたらしかねない状況だ。
論理的には、どちら側も引かなかった場合、この紛争は報復関税のかけ合いや貿易戦争を招くだろう。そうなれば、EUと米国の関係に相当な痛手となる。
ほんの最近までは、そうした結果になることは想像しにくかったように見えた。欧米で保護主義の声が高まっている最近の政情においては、そうともいえなくなっている。
航空機産業はその性質上、ある程度の長期的な支援に依存している。新たな航空機の発売には何十億ドルもの投資が必要だ。企業は先行して巨額の賭けに出るが、結果が出る可能性は確実と言うにはほど遠く、投資家からは敬遠される。それでも政府が資金支援を行う理由は、航空機産業が数千もの雇用を創出し、国に高い価値をもたらし、技術革新を生むからだ。
中国やロシア、そして両国ほどではないがカナダやインド、ブラジルもが確固たる努力で取り組み、エアバスとボーイングが二分するこの市場のシェアを奪おうとするのも当然だ。
中国とロシアは旅客機の開発に惜しみなく支援してきた。こうした補助金がWTOの規定に違反するのはほぼ間違いない。
だが、ボーイングもエアバスもこれを違反だと非難していない。両社が違反だと呼ばないことから、WTO訴訟における両社の本当の狙いについて疑念が生じる。それは自由貿易主義にかかわる強い決意なのか、あるいは、この争いはまやかしなのか。特に中国は両社にとって最大の顧客に数えられる。数年後には世界で最も急速に成長すると予想される航空市場で自分たちの地位を台無しにすることは、両社いずれの利益にもならない。
EUは、最近WTOがEUに対して下した判定について上訴の意向を示している。米国は来年、WTOのコンプライアンス・パネル(法令順守をみる紛争処理小委員会)の調査を受けることになっている。ボーイングに不利な結果が出れば、米政府もおそらく上訴するだろう。
■最終結論まで何年もかかる見通し
つまり、この紛争でどちらの補助金がどんな理由でWTO協定違反になるかの最終的な結論が出るまでには、まだ何年もかかるということだ。両社の主張と反論がこれまで問題を覆い隠してきた曖昧なものである点を考慮すれば、最終的には、そうして下された判定には価値があるだろう。だが、それをなぜ待つ必要があるのか。
通商代表者は、実現可能な範囲で自由かつ公正な取引の原則を尊重しつつも航空機産業の特殊性に配慮した枠組みに同意できるはずだ。これはボーイングとエアバスを和解させるだけでなく、世界貿易の基本原則を定める礎となる。旅客機の利用者数は15年ごとに倍増している。両社の受注は堅調だ。だが、両社は互いを徹底的に打ちのめすことに時間と労力を浪費している。そうしている間にも、新たなライバルが闘いのリングに上がろうとしている。
(2016年9月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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