まえがき

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 最近、社会問題のひとつとして、テレビゲームばかりをやっていると心身ともに悪影響を受けることが、多くの雑誌や新聞、書籍で取り沙汰されています。少年が起こしたいくつかの事件の背景にテレビゲームがあることを指摘する論調です。
 たとえば、一九九四年三月に名古屋のある中学生が、格闘ゲームのなかで使っている技が実際どの程度効き目があるかを友達で試そうとして、傷害事件を起こしていること、また、高校三年生が通りすがりの高校一年生に暴行を加え、血まみれになった自分たちの手をビデオカメラで撮影し、記録に残すという異常な行動をとっていることが、児童心理の専門誌にも載りました(木村文香「『ゲームに夢中』がもたらす問題―心理学の視点から―」『児童心理』二〇〇一年八月号、金子書房)。
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 これまで、テレビゲームは集中性を高めるというような記述をした雑誌の記事や著者がいろいろと出ていますが、科学的根拠はありません。現実に小さい子どもを抱えている親にとっては、どうしてよいかわからないのが現状だと思います。
 テレビゲームがただ視力低下という目に見えるものだけではなく、脳そのものにどう影響しているかを知るのは、たいへん難しいことです。
 しかし、私の研究で、頭皮上から前頭前野(脳の前の部分)の脳波を、容易に記録することができるようになりました。前頭前野の神経細胞(ニューロン)活動を反映しているβ波の変動から、その働き具合をとらえることができるのです。私たちは、テレビゲームおよび携帯型ゲームという機器を使用しているときの、前頭前野の活動を調べた結果をまとめました。この部位は、最近のキレる問題とも関係が深いところだと思います。