中国がタイで手掛ける高速鉄道建設プロジェクトには賛否両論ある。中国が抱く地域的野望と、タイの軍事政権が巨大な隣国・中国と関係を深める意欲――。同プロジェクトが双方を試す重要な試金石として浮上してきた。
プロジェクトの規模、コスト、実現の可能性をめぐって疑問が渦巻いている。中国、タイ両国は事業費52億ドル(約5200億円)の第1段階を推し進めたいとしながら、初期の線路建設を延長わずか3.5キロにとどめると述べた。批判的な向きはこのプロジェクトに「どこにも通じない鉄道」というレッテルを貼っている。
同プロジェクトは、中国が展開する、より大きな意味での東南アジアへのピボット(回帰)の一環だ。中国は、貿易ルートを建設し、米国との緊迫関係をうまく利用し、自国の海洋権益の主張への反対論を抑えようともくろむ。だが、メコン地域の鉄道構想は遅延と意見対立にも悩まされている。中国による地域支配と、隣国や遠く離れた国でインフラに投資する交易路戦略「一帯一路」を妨げる大きな地域的障害が浮き彫りになっている。
バンコクにあるタマサート大学の経済学部教授で中国の専門家であるアクソーンスリ・パニシュサルン氏は、提案された延長873キロの中国タイ鉄道協力については十数回の2国間協議が行われたが、まだいくつかの大きな意見対立が解消できていないと言う。ここには、プロジェクトの資金をどうまかなうか、また中国が融資する場合には、どのような条件になるかといった問題が含まれている。「双方が誠意をもって真剣に協力し、相互利益へ腰を据えて取り組んで、こうした問題を克服できることを心から願う」と同氏は話している。
■最初の250キロ、暫定合意へ
メコン地域の鉄道プロジェクトはかねて、6億人以上の人口を抱える東南アジア地域と中国の間に輸送・貿易ルートを建設する取り組みの重要な柱として宣伝されてきた。鉄道ルートは、中国南部の昆明市からラオスの首都ビエンチャンを経由、さらにタイの首都バンコク、ラヨン県の港湾・石油化学施設へとつながることになっている。
タイ運輸相は先週、バンコクからタイ中部へ向かって北へ走るタイ国内のプロジェクトのうち、最初の250キロについて、中国とタイが1790億バーツ(約5200億円)の取り決めに暫定合意したと述べた。当初の3.5キロ部分に関する建設請負契約が11月までに入札で決定され、年末までに着工する予定だという。
これほど区間の短い初期工事の発表は一部の評論家から冷笑を買ったが、タイ運輸省幹部のナロンサク・サングアンシン氏は、そうすることで初期の技術問題を特定・解決できるとし、「タイにとって、この種の高速鉄道建設は初めての経験であり、そのため調整を要する案件が多々あるかもしれない」と述べた。