中央銀行はもともと世間の注目を集めたいとは思っていないはずだ。しかしこの10年、彼らに注がれる視線は途絶えることがなかった。しかも、最近は厳しさを増している。金融危機のさなかには、米連邦準備理事会(FRB)をはじめ、各国・地域の中銀の手腕が高く評価された。金利を引き下げ、国債の買い入れで市場に潤沢な資金を供給し、金融危機が経済恐慌に発展するのを食い止めたからだ。だが、昨今の低金利政策やマイナス金利政策は、経済に及ぼす影響を巡り、この30年で最もかまびすしい議論を呼んでいる。
■長引く低金利、強まる懸念の声
中銀は、依然として力強さに欠ける経済を支えインフレ目標を達成するには、超緩和政策が不可欠だとみている。日銀は21日、長期金利の指標となる10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導することを決めた。同日、FRBは追加利上げを見送った。英国では、国民投票で欧州連合(EU)からの離脱が決まったのを受け、イングランド銀行が8月、政策金利を過去最低の0.25%に引き下げた。
ここにきて、低金利の影響を懸念する声が増えている。何しろ、預金をするのに手数料を取られ、多くの先進国で国債の利回りがマイナスとなり、市場の機能によらず事実上、中銀が資本の配分方法を決めるようなおかしな現象が起きているのだ。ここへ政治家が割って入ってきた。米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は、FRBのイエレン議長が政治的な理由から低金利を維持していると批判する。ドイツのショイブレ財務相は、国内で民族主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭しているのは欧州中央銀行(ECB)の政策が悪いからだと言う。
どちらも事実をかなり取り違えた議論だ。世の中の低金利を中銀だけのせいにするのは、物事を単純化しすぎている。中銀自身も市場の低金利に対処している面があるからだ。先進国や一部の新興国では高齢化の進行に伴い、退職後に備えて貯蓄しようとする動きが強まっている。さらに、貯蓄率の高い中国が本格的に世界経済の一員となったことで、実質長期金利はかなり長い間、低下してきた。
中銀の低金利政策が無謀だったわけでもない。ほとんどの先進国では、物価上昇率が政府目標を下回っており、ある意味では中銀はもっと大胆な政策を打ち出してもよかった。日銀は今になってようやく、物価が安定的に2%を超えるまで金融緩和を続ける方針を示した。FRBは依然、できるだけ早い時期に利上げをしたいと思っているだろう。