長時間労働改革 発想の転換を促したい
安倍政権の「働き方改革実現会議」の議論が始まる。まず取り組むべきは長時間労働の改善だ。
これまで何度も問題を指摘されながら後回しにされてきた。介護や育児との両立、女性の就労の推進や出生率の改善とも密接に関連する重要課題である。労使だけでなく国民全体の発想を転換しなければ実現は難しいだろう。そのためにも政府の不退転の姿勢が必要だ。
日本の労働時間は短時間勤務のパートを含めても年間1700時間を超えており、フランス(1473時間)、ドイツ(1371時間)などと比べて突出している。
労働基準法では「1日8時間、週40時間」と定められているが、同法36条で残業や休日勤務に関して労使が協定を結ぶと「月45時間」まで残業が認められる。いわゆる「サブロク(36)協定」だ。さらに特別条項を付けると実質的に上限がなくなる。過労死を生む長時間労働が野放しにされてきた原因だ。
現在検討されているのは残業時間の上限を設ける規制であり、過労死のリスクが高まる「月80時間」を大幅に下げられるかが焦点だ。業務の特性に応じて3〜6カ月単位で規制を設け、業種によって適用除外を認めることも検討されている。
働く現場の実情を考慮することは必要だが、規制自体が骨抜きにならないよう監視体制を強化し、罰則を設けることも検討されるべきだ。
サービス業など慢性的な働き手不足に陥っている産業からは、代替要員が確保できないことから長時間労働の規制に反対が根強い。消費者も生活の便利さから24時間365日の営業を歓迎するため、ますます従業員の労働時間は延びてきた。
労働者側も残業代がないと生活費が賄えないという人が多い。それぞれの利害が絡まり合って長時間労働の慣行が固着してきたのだ。
そのツケは過労死などの健康被害だけではない。男性が仕事に縛り付けられるため、女性にだけ育児や家事が押しつけられ、女性の就労の機会を奪うことにもつながっている。
雇用現場の実態に合わせて法律に抜け道を作ったのでは長時間労働は変わらない。政府が厳格なルールを打ち立て、それに合った働き方に現場を変えていかない限り、育児や介護をしながら働き続けられる雇用環境など実現しないだろう。
不可能ではない。週休3日制を導入しようという企業もある。会社に来なくても自宅で育児や介護をしながら働く「テレワーク」を導入する企業も少しずつ増えている。
長時間労働の改善を突破口に「日本型雇用システム」の全体を変えていくことが必要だ。