日本企業が本気でやればクラウドビジネスはできるか?
編集部 クラウドはほかには論点はありますか。データセンターについては、ブログを書いていらしてましたよね。
神林 そうですね。データセンターのビジネスっていうのは、やっぱり面白いんじゃないですかね。難しいんですけど、見ていて、だいぶ日本の場合は淘汰されてきている。一時、すごくたくさん出てきたじゃないですか。絶対に回ってないところがたくさん出てるんで。で、今すごい勢いで売り買いが始まっているんですよ、実は。売り案件で出て、買いたいところも出てきて。買うの必死で探しているところもあって、そういうのが実際そういう事例も起きてますし。結局ですね、データセンターとネットワークの回線で、ITは出来上がっているところがあるので、そこが今後どんな風になっていくかっていうのはけっこうおもしろいなとは思っています。クラウドっていうのはあくまでもソフトウェアの上しか見えないので、その下のデータセンターと線とかどうなのかと。ネットワークの線ということで言えば、物理的に誰がどういう動き方をしてどんな風にするかっていうのは、本当はもっと注目すべきところなんですよね。特にクラウドだ云々という話であれば。そこがあんまり表に出ている気がしなくて。
井上 そこも含めての規模の経済ですよね。クラウドがコスト的にいいとしたら。
神林 で、別に、Amazonで回線を握っているのかっていう話があって。Googleはわかるんですよ。死ぬほどダークを買いまくっているっていうのはたぶんそうだと思うんで。ただ、それってスケールメリット出るんですか?最終的に?っていうのがあって。
井上 最終的にはGoogleのほうがその点で先行投資してるのかと。
神林 たとえば国内だけでやるんだったら線で持ってるの、全部、日本の3社か4社くらいでしょ。そこがきっちりクラウド的なものをやるんだったら、それは十分台頭できるんじゃないかとおもうんですけどね。
井上 NTTがやってますけどね。
神林 ああ、コム?あれ、なんでだめだったんでしょうね。なんか高いんだよね(笑)。
井上 やっぱり高いですよね(笑)。
神林 難しいなー、みたいな(笑)。
井上 日本のクラウドが高いのはやっぱり人件費なんですかね。
神林 まあ、そこについてはそうでしょうね。人件費だろうなあ。
井上 あともしかしたら、過剰品質もあるのかもしれないですね。
神林 過剰品質もあるんだけど……意思決定が遅いかもしれないですね。人をどうするとか投資をどうするとかどういう風に手を打っていくかってことが遅いんじゃないかな。結果としてコストをとにかく回収しなさいみたいな話にしか落とせなくなっちゃうんで。
井上 AWSも最近は利益を出しまくっているようですけど、最初は赤字ですよね?Azureとかも今は赤字かもしれないですよね。そのへんの覚悟がないのかもしれないですね。日本は。
神林 そうですね。あの、これ想像ですけど、今、NTTコムが全サーバー捨てて、サーバーを全部新しくして、人も、オペレーション全部変えて、10分の1くらいで回るようにして、残りをパージしてリストラしたとしたらすっげえ儲かると思いますよ。Amazonに対抗できると思いますよ。だけど、できないでしょ?そういう意思決定が。NTTは。だからだめなんですよ、たぶん。Amazonはそれができてしまうので。その差です。
井上 うんうん。そうですね。それはたぶん、日本の会社とアメリカの会社の差ですかね。
神林 そうですね。だから老害なんですよね。そういう意思決定ができないというところが最終的に……。
編集部 いつもの感じでいくと、時間的にそろそろ老害の話題に移る頃合いですね…
井上 でも、意思決定して首切ったらみんな怒るんでしょっていうのはありませんか?
神林 首切られたら他の仕事やればいいじゃない、そんなのたくさんあると思うんだけどなあ。
井上 まあ、それができないから追い出し部屋とかがあったんですよね。でもあれをやると批判される。
神林 リプレイスメントがうまくいってないんでしょうね。日本の労働市場って。すぐアウトプレイスメントみたいなネガティブな言い方になっちゃうし。
編集部 追い出し部屋でねちねちとかしないで、普通に解雇できないんですか?
神林 できるできる。
井上 いや、できるというか、いろいろと……。
神林 言ってるほど日本は解雇制限がないって言われているんですよ。
井上 そんなことなくないですか?
神林 そんなことないですよ、ちゃんとリサーチありますよ。日本のほうがいい。ただ、切らない。それは法律上の問題じゃなくて、道義的な話から始まって……いろいろそういうのがあって、なるべくやめろっていうことで、言われてるほど首切りはやらないです。
井上 叩かれますよね。
神林 まあそれもあるし、そんなに経営者が首を切りたがらないっていう経営風土があるみたいですよ。まあ、それは雇用は維持されるけど……雇用が維持されても意思決定が速ければいいんだけどな……。
編集部 年寄りだから意思決定ができない、判断力が鈍る、みたいな話を前回していましたけど。
井上 僕はそんなことはないと思いますよ。個人の資質の問題であって。
編集部 意思決定ができるから経営者になったわけで……。
神林 違いますね。
井上 サラリーマン社長と創業社長では違いますよね。
神林 意思決定できなくても社長になる人はたくさんいますね。東芝を見ればわかるじゃないですか、そんなの。どんな意思決定しているんだっていう意思決定ですよね。逆に言うと今、ちゃんと意思決定できる人のほうが少ないんじゃないかな。でかい企業になればなるほど、社長なんてお飾りですよ。よっぽど別格を除いてですね。やろうと思っても何にも決められなくなりますよ。現場の抵抗がすごいし、積み上げてきているものがあるし、組織自体が別ものになってしまうので、個人がどうこうできるものではないと思いますよ。経営陣含めて、若手とか、むしろ経営とか何もわかってない連中に任せないと動かないですね。年寄りになればなるほど物理的はパワーは減るので。物理的なパワーが減るということは意思決定が絶対弱くなるんですよ。
井上 また前回の話に……(笑)。
編集部 体力が落ちたら全部だめだみたいな話に……。
神林 いや、そうだと思いますね。はい。そうだと思います。
井上 でも牧野さんとかがんばってますよ。まだ50代ですけど。でも体力よりも、十分にお金があったらなんとかなるんじゃないですか。要は資産が少なかったら守らなきゃいけないじゃないですか。
神林 それはあるかもしれませんよね。その話もしましたよね。社長の給料を上げるという話。それはおおいに賛成なんですが……。たとえばクラウドにしたって、移行したほうが絶対にリーズナブルじゃないですか。オンプレのほうが重たくてぶっ壊れるし、セキュリティもクラウドの方が高いし、そりゃあ抵抗はあると思いますよ、移行のコストだとかコンプライアンスがどうだとか、でもまあトータルで見たら間違いなくクラウドに行ったほうが安いよね、最終的には会社にとってはベネフィットでかいよねってわかるもんなんですよ。SIerがグジャグジャ言うなら調整すればいいし、やるべきなんですけどなんでやらないんですかね? ユーザー企業はバカなんですかね?それは単純に年齢がいってるだけじゃないですか? っていうのが僕の仮説で(笑)、動きが鈍くなっている。意思決定も含めて、組織的に。僕、そんなにみんながバカだとは思ってないですよ。
井上 現状維持のほうが人間は楽なんじゃないですかっていうのがまず前提としてあって……。
神林 年齢別に見たら年食ってるほど現状維持への無意識の欲求が強くなるはずです。なんでかというと、体力がないから。
編集部 そこ揺るぎませんね。
神林 圧倒的にエネルギー効率いいじゃん、みたいな。違います?
井上 いえ、それは正しいと思います。
神林 そうすると、歳をとって体力がない人は前に進めない。現状維持力が強い。どうですか?
井上 それもそうなんですけど、若くて…という人もけっこう現状維持をしたがる人がいるんじゃないかなと。
神林 そういう若者は体力がないんじゃないですかね。違いますか。
編集部 あくまで体力なんですね……。
井上 まあ、体を鍛えるのは大事ですよね。そこで転職しづらいっていうのもあるんじゃないですかね。ITはそうじゃないのかな……。
神林 どうなんですかね、転職は。しやすくなっているような気もするんですけど。