今、日本に優秀なエンジニアが食っていける席はいくつあるのか?
井上 もっと思い切ってやればいいんですけどね。たぶんIT業界の技術系だったら、まあまあ力があれば転職は容易だと思うんですよね。だから本当はもっと思い切って会社に言いたい放題言ってもいいところが言えてない人もいるかなと。でもそれは、自分を振り返ってみると、自分が20代~30代のころに自分の価値をそこまでわかってなかったかもしれない。
編集部 なんと。
井上 今となってみると、自分、けっこう強かったというか(笑)。
神林 井上さんはそうだと思いますよ、別格でしょう。
井上 20代の頃の自分を今、見たら……。
編集部 「すごいじゃん、こいつ!」(笑)。
井上 どこにも行けるじゃん! って(笑)。もっと好き放題言えたかなみたいな。当時はまだそこまで見えていなかった。
神林 でも30代でこいつは本当にどこの企業もほしがるだろうなって人が、全然どこにも動く気がなかったりする。
井上 そうそう。たぶん、それ。
神林 話したことあるもん。あなた、年収倍になるよって。紹介してやろうかって。
井上 まあ、自分の価値をわかっている人もいるし、わかってない人もいる気はしていて、ただ、それの目を覚まさせすぎると給料がどんどん高騰していくという、経営陣にはうれしくない状態になるかもしれない。
神林 それが正しいんじゃないかなあ。
井上 正しいのかもしれませんね。
編集部 どうしたら30代くらいの優秀な人が自覚できるように?
井上 昔よりは転職サイトも多いし、自分の価値はわかりやすくなってる気はしますけど……。
神林 転職サイトじゃないでしょうねえ、やっぱり……。
編集部 リアルな人脈ですかね?
井上 それは重要だと思いますね。外にいて、いつでもきていいよって言われている状態だと、今いる会社でも自由に振る舞えるじゃないですか。そういう状態になるといいかなと。
神林 あとやっぱりソフトウェア産業自体をもう少し大きくしていかないとやっぱり全体的な底上げにはならないだろうなと思いますね。確かに優秀な人はいるかもしれないけど、じゃあ、若干優秀な人が食えるかっていうと食えないですからね。やっぱりSIになっちゃいますからね。行くところは。正直、ミドルで食えるところってほとんどないですよ。日本で。
井上 うーん。
神林 いいところ。500人くらいじゃないですか。トップのエンジニアが年収1千万以上で、30代で、ミドルで食えるっていうところは、たぶん、1千ないですよ、席の数が。いいとこ500くらいしかシートがないと思う。
編集部 食える、の基準は1千万なんですか。
神林 たとえば、の話ね。ミドルウェアで、30代で、年収1千万以上というのがずっと維持できるシート。「今年はボーナスいいよ~!」とかは別ですよ。安定して1千万以上。そういうのって500席ないですよ。アメリカだと下手すると3000とか4000はあるんじゃないですかね。席自体は。1万あるかもしれない。20倍くらいはあるかもしれない。だから結局業務アプリケーションのアプリだけ書くんだったらバカでも書けるんですよっていう話になるんですよ。僕からすると。面倒くさいのは例外処理とエラートラップなんですけど、そこもがんばれという話で、10年くらい経験を積めば書けるようになるんですけど、ミドルは別格で、それができても書けないんですよ。もうほとんどできない。非常に優秀な人間とそうでない人間の差についてはミドルに関しては生産性が100倍を超えます。だってできないんだもん。ゼロなんだもん分母が。100倍とか1000倍を超えますよ。で、それぐらい優秀な人間が食えるかっていうと、これが食えないんだな。そのへんをクリアにしないとちょっと先がないですよ、日本のソフトウェア産業は。無理。そこがたぶん問題で。なんかプログラマー増やしましょうみたいな話をしているじゃないですか。もう全然的外れで。何を言っているんだと。
井上 業務アプリ系のことじゃないですか。
神林 いや、そんなのはむしろ余っているくらいで、そんなExcel書いているひとたちだけで書けばいいわけで、ちょこちょこ、コードをね、で、かけるんだからそれで、がんばれよって話。組織の在り方の問題なので。プログラマーを増やしたところで腕のいいプログラマーがきっちり食える環境があるかっていうことですよ。で、ないんですよ。そっちのほうが問題だと思います。
井上 それはそうですね、確かに。
神林 ワークスさんだってがんばって集めたって、シートの数から言ったら、いいとこ20ないでしょう?
井上 もうちょっとあるかもしれないですね。
神林 それはもう特殊、本当に例外だと思いますね。
井上 でもその席が10年後ずっとあり続けるかどうかというとわからないですね。
神林 じゃあたとえば、セゾン情報さんとかあるかっていうとたぶん10あるかないかっていうくらいですよ。その規模でね。ベンチャーになったら1席あるかないかですよ。まあ、たぶんないですよ。下手すると。あとはNTTにあるかとか、KDDIにあるかどうか……。もう研究所になっちゃうんですよね。研究所になると意味が変わってきちゃうので。ラボはいますよ、そりゃたくさん。でもそれって違うだろっていう話で。
井上 そうですね。
編集部 ワークスはすごいんですね。
井上 まあ、一時的に席があっても継続性のところは誰もわからないし…
神林 まあでもワークスががんばるしかないですね。これで席減らしたら大問題ですよ。僕ブログ書いちゃいますよ。ワークスだめか、結局みたいな(笑)。
井上 (笑)
神林 どうやって維持していくかっていうのを、ここ2~3年は大丈夫だと思いますけど、どうするかっていうのは、高い技術でとったはいいけどその先どうするのかっていうのは絶対に出ますからね。
井上 ……。
神林 考えないと!井上さんが考えないと!
井上 いやいやいやいや(笑)。
神林 いやいやいやいやじゃなくて(笑)。
井上 ええ、まあ、ワークスでも牧野さんが言ってますけど、ワークスの挑戦が失敗したら、日本の会社でここまでやるのはもうないだろうと、それくらいに今、人を集めてる。ノーチラスは人はそんなに増やしてないんですか?
神林 ええ。全然。でもいっぱいになっちゃった。20人。
井上 まあ、人を増やすことに関しては、僕も大丈夫かなと思うことは時々あるんですけど、牧野さん曰く、それ自体が日本人の小さい心というか、数千人の規模でも倍倍に行くのがグローバルのトップベンダーだと。Googleとかも、数千人というときに、倍倍になっていって、そのスピード感を日本人は知らなすぎると。そこで、速く走っていることを恐れるのは、自分の心がまだ弱いんだな、と(笑)。
神林 倍にはなんないですよねー。
井上 まあ、いいんじゃないですか。トップがアクセルを踏んでいる限りは周りがブレーキをかける必要はないですよね。