新海誠監督『君の名は。』が第64回サンセバスチャン国際映画祭で招待上映された。上映が終わると新海監督は、観客のサイン&写真撮影攻めに遭う熱狂ぶり。この反応に新海監督は「世界という大きな単位の中に、自分もちゃんと含まれているのだと実感しました。良い意味で、世界が少し小さく感じられました」と語り、今後続く国際映画祭行脚と89の国と地域(現時点)での公開に向けて良いスタートを切った。
100億円突破に海外メディアが質問攻め
8月26日から9月22日までの28日間で観客動員774万人・興行収入100億円突破という記録を打ち立てた今、日本映画界を最も熱くさせている作品の評判はスペインにも届いていた。会場となったビクトリア・ユージニア劇場のチケット910席は早々に完売。先に行われた記者会見でも、地元の記者から「大ヒットする前と後では環境が変わりましたか?」の質問も飛んだ。
新海監督は「最も戸惑っているのは、僕自身だと思います。まさかこれだけの人に見ていただけるとは。そもそも一生に一度、100億円を超える映画を自分が作れるとは思っていませんでした。この状態を今後も続けられるのか? という不安もありますが、やはり100億円突破というのは自分の実力を超えた出来事が起こっていると思っているので、今まで通りに良い映画を作っていくしかないのかなと思っています」。
同席した川村元気プロデューサーも「このような結果は予想していませんでした。新海監督の中編『言の葉の庭』(2013)の興収が1.5億円だったので、10倍の15億円いければベストかなと。宮崎駿監督も細田守監督も、そうしてステップアップしてきたのですが、新海監督は一気にジャンプアップしたような感じです。でもこういう事が起こるのが、映画の面白いところなのだと思います」と現在の心境を語った。
作品への評価と関心の高さは、記者会見の密度からも明白だった。「物語の発想は(どこから)?」「日本の風景が美しいが、モデルにしている町は?」「音楽が重要な役割を果たしていると思うが、選曲の理由は?」など、作品を深く掘り下げようとする質問が続く。その熱心な質疑応答に込められているのは“ポスト宮崎駿”としての、新海監督への大きな期待だ。
宮崎駿&細田守との違い
国際映画祭では宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』(2001)が2002年の第52回ベルリン国際映画祭で、金熊賞(最優秀作品賞)を受賞して以降、子供映画ととらえられていたアニメーションの流れが変わった。サンセバスチャン国際映画祭でも昨年、細田守監督『バケモノの子』(2015)を、アニメとしては初めてコンペティション部門に選出。『君の名は。』も映画祭の規定により審査対象外としているが、コンペ部門での上映だ。