首相、改憲論議呼び掛け 所信表明
第192臨時国会が26日、召集された。安倍晋三首相は同日午後、衆参各院の本会議で所信表明演説を行い、憲法改正に向け国会の憲法審査会で与野党の立場を超えて議論を深めるよう求める。天皇陛下の生前退位を巡っては、公務のあり方について「有識者会議で国民的な理解の下に議論を深めていく」と表明する。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の早期発効と、それに備えた農業改革に意欲を示し、長時間労働の是正など「働き方改革」に取り組む姿勢を強調する。
7月の参院選の結果、改憲に前向きな勢力が衆参両院で3分の2を超える議席を占め、改憲案を発議する環境が整った。首相は国民投票を見すえ「憲法はどうあるべきか、どういう国を目指すのかを決めるのは政府ではなく国民だ」と述べるとともに、改憲案の提示は「国会議員の責任」と訴える。
経済分野では、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の議論を踏まえ、英国の欧州連合(EU)離脱や新興国経済の失速など「世界経済は今、大きなリスクに直面している」と指摘。今国会に提出した2016年度第2次補正予算案を含め、事業規模28兆円超の経済対策の実施でデフレからの脱却を急ぐ考えを示す。
消費税率10%への引き上げを19年10月まで延期しても財政健全化目標は堅持すると述べ、社会保障の充実策も優先順位を付けて実施すると約束する。
働き方改革では「長時間労働の慣行を断ち切ることが必要」と述べ、「同一労働同一賃金」の実現に向けて年内をめどにガイドラインを策定する方針を示す。「『非正規』という言葉をこの国から一掃しよう」と呼びかける。
外交では、日露関係について「戦後71年を経ても平和条約がない異常な状態に終止符を打ち、経済、エネルギーなど協力の大きな可能性を開花させる」と述べ、領土問題の解決に意欲を示す。北朝鮮の核実験を「国際社会への明確な挑戦であり断じて容認できない」と非難する。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画には直接言及しないが、沖縄の基地負担軽減に関し「先送りは許されない。一つ一つ、確実に結果を出す」と述べる。【古本陽荘】
解説 長期政権にじませ
安倍晋三首相は26日の所信表明演説で、7月の参院選勝利を踏まえ「わが国の未来を切り開く。世界一暮らしやすい国、世界一信頼される国を目指し、新たなスタートを切る時だ」と訴える。これに限らず「未来」という言葉を多用し、長期政権への意欲を強くにじませる。
首相の自民党総裁としての任期は2018年9月までだが、党内では任期延長論が高まっている。首相は演説でこうした声に応えるかのように、20年東京五輪・パラリンピックを「必ず世界一の大会にする。何としても成功させなければならない」と強調するとともに、五輪後も見すえて改革に取り組む意思を表明する。
今国会は引き続き与党主導で進む見通しだ。首相は「安定的な政治基盤の上に、しっかりと結果を出していく」と宣言する。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の加速化や働き方改革などによって、国民に実感できる成果を示せるかどうかが、長期政権実現のカギになりそうだ。【古本陽荘】