AI農業 普及させたい「熟練の技」
熟練農家のノウハウをIT技術によってデータ化する事業が九州で進んでいる。
AI(アグリインフォマティクス=農業情報科学)農業と呼ばれ、ベテラン農家の経験や勘に基づく「匠(たくみ)の技」を、情報通信技術を使って可視化し、一般農業者や新規就農者に継承しようという試みだ。既に福岡県や宮崎県で実証事業が行われている。日本農業は就農人口の減少や高齢化で、優れた農業技術が継承の危機にある。再生策の一つとして期待したい。
熟練農家がいわば暗黙のうちに使う栽培技術の中に品質・収量向上の秘訣(ひけつ)がある。それを知的財産として保護した上で活用を目指す。農林水産省が大学やIT企業と連携し導入に取り組んでいる。
福岡県八女市では、熟練者2人、中級者2人のミカン農家の協力を得て実証事業を行った。ミカンの露地栽培では、樹の形を整える「剪定(せんてい)」、余分な果実を摘み取る「摘果」などが重要な作業だ。このうち「剪定」では4人の作業の様子と視線をビデオカメラとアイカメラで記録し、剪定場所、剪定量、切り方、判断時間、視線位置、視線移動などを比較した。
その結果、中級者は樹の表面を見ていたのに対し、熟練者の視線は樹の枝に沿って上下左右にバランスよく動き、枝葉をかき分け裏側まで見ていることが分かった。
一方、宮崎県日南市では昨秋から熟練者・中級者計7人のマンゴー農家の協力で水や肥料、ハウスの空調、日光などに関する綿密な栽培データを集積・分析中だ。
ともに1次産業とITをつなぐ試みで、ミカンについては実証成果を含む農業技術学習システムが完成し市販された。今後は対象の作物を広げることが課題という。
農業就業人口(2015年)は209万7千人で5年前に比べ約51万人減った。平均年齢も66・4歳と高齢化が著しい。環太平洋連携協定(TPP)で安い農産物が流入すれば、さらに弱体化する懸念もある。熟練の技を継承するAI農業を新規就農者の拡大や一般農家のレベルアップに生かしたい。
=2016/09/25付 西日本新聞朝刊=