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あの人が知ってる奈良 あの人が歩んだ道のり 私と奈良

映画作家 河瀨 直美 「奈良は、世界の中心」

映画作家

河瀨 直美

(かわせ なおみ)

生まれ育った奈良で映画を創り続ける。劇場映画デビュー作「萌の朱雀」(97)で、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少受賞。『殯の森』(07)で、審査員特別大賞グランプリを受賞。
2013年にはコンペティション部門の審査委員を、今年は短編部門、シネフォンダシオン部門の審査委員長を務める。最新作『あん』は国内外で大ヒットを記録、現在DVD、BD発売中。
映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続け、故郷の奈良において「なら国際映画祭」(9/17-22開催)をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。
公式サイト www.kawasenaomi.com
公式ツイッターアカウント @KawaseNAOMI

奈良には、すべてがある

 奈良で生まれ育ち、今もここに住み、仕事の拠点も奈良。奈良から東京、奄美大島、そして、カンヌ、ニューヨーク、南米など世界各地へと出かけます。どうして、ずっと奈良にいるのかというと、私に必要なものは、すべて奈良にあるからです。
 奈良から東京は、遠いイメージがあるかもしれませんが、3時間あれば移動できます。むしろずっと東京にいたら、常にスケジュールに追いかけられ、クリエイティブな仕事に必要な「余白」がなくなってしまいそうです。私は表現者ですから、自分という器の中の、「余白」を大切にしたいと思っています。
 奈良は空も広いし、星もよく見える。家の裏には、「万葉集」にも出てくる佐保川が流れています。きっとこれからもずっと奈良で暮らしていくと思います。私にとって、奈良は、世界の中心なんです。

自然のなかで生きるということ

 4年勤めた会社を辞め、準備に2年かけて映画「萌の朱雀」を撮りました。現在は、五條市になった西吉野町の山間の村で、スタッフ全員で合宿をしながら作品を創りました。外部とつながっているのは事務所にあるファクシミリ1台だけです。そういう環境では、情報を外から得るのではなく、「自分で感じること」がすべてです。例えば、雨が降ると川の水が濁って、葉っぱも溜まり、川の水をためてお風呂に入れなくなります。このような経験を通して、自然と直結して生きることの大切さを実感しました。自然のなかで生きている。そういう場所は不便なようですが、貨幣価値のものさしで考えなければ、生きていくために必要なものはすべてあります。

まだまだ撮りたい「奈良」

 奈良県内の各地、特に桜井市や五條市などの中南和エリアの魅力を発信するショートムービー「美しき日本」を撮り始めてもう7年になります。撮影で訪れた土地で、そこに暮らしている人の何気ない会話に「生活哲学」と呼べるようなものを感じて、私自身が教えられることがよくあります。
 映画のロケは、その土地の人達を色めきたたせるというか、活気を生むことができるんですよね。これからも、さまざまな「奈良」を撮り続け、「奈良」を盛り上げていきたいですね。

映画の最終着地点

 奈良の様々な場所で映画を撮るということは、その土地の人達に活気が生まれるだけでなく、その作品を観た人がロケ地を訪れてくれる可能性があります。ストーリーがあるものに、人間は本能的に惹かれますから。
 「なら国際映画祭」の参加作品から抜擢された若手の映画監督が、奈良を舞台に映画を製作する「NARAtive(ナラティブ)」プロジェクトは、地域の人たちが自ら暮らす町を誇りに想うという事にもつながります。今年の舞台は東吉野村。ぜひ多くの方々に、映画鑑賞し東吉野村を訪れて、土地の人と交流してほしい。さらに、映画を観て、実際に東吉野村を訪れた人の中から、「私、ここで暮らせるかも」と思う人が出てくるかもしれない。東京などの大都市に人やモノが集中するのではなく、地方に魅力を感じて、人が戻ってくる時代が来たら、日本は本当の意味で豊かな国になれると思います。

奈良のおすすめ

 国際映画祭などで海外に行くときに、お土産にすると喜ばれるのは手拭いや、散華(さんげ)。散華は奈良らしいし、以前、奈良の老舗の中川政七商店さんとコラボしてオリジナルの散華を作ったこともあります。散華は、寺院で仏様にお供えをするために使われるなどのストーリーを伝えると関心を持って喜ばれますね。
 海外から奈良へ来た方を必ずご案内するのは、やはり春日大社、東大寺のあたりです。奈良は「神様のお庭で人間が暮らさせてもらっている」という感覚が根付いているのが大きな魅力。奈良公園で遊ぶ鹿、道に大きく伸びた藤の蔓、木を切らずに建物の屋根に穴を開けて通している社殿などを見ていただくと、その魅力が具体的に伝わります。神仏と人間との境界があいまいなところは、多様性を認める日本の文化だと思います。

世界の人々の人生に奈良を

 夢は、奈良市内に映画館を作ることです。2010年以来日本の県庁所在地に映画館がなくなってしまったのがとても残念です。毎月行っている「ならシネマテーク」には月3日の上映に500名以上の観客が足を運ぶようになりました。続けて行った先に夢を実現させたいです。
 また、世界の人々がこの地に集うワークショップを開催したいですね。場所は、「殯の森」(もがりのもり)を撮影した田原や、「萌の朱雀」の舞台の五條市西吉野町も良いですね。関西国際空港からのアクセスを考えたら、奈良市も五條市もそんなに差があるわけではありません。世界中から映画人が参加し、自然豊かな場所で、映画について語り合い、ゆっくりと過ごす。土地の人とも触れ合って、その土地を特別な場所に思ってもらう。そういう意味で、ワークショップに参加した人ひとりひとりの人生に「奈良」が関わっていくことになります。私は、「奈良」が世界の中心として、素晴らしいことが生まれる要素を多分に秘めている場所だと思います。

取材日:平成28年7月

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