やや単純化しすぎでは?トッドさん
なぜか本国のフランスでよりも極東の日本での方が人気が高くなっているらしいエマニュエル・トッド氏。日本でやった最近の講演をまとめて日本語でとっとと出した本のタイトルが『問題は英国ではない、EUなのだ』。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610938
実はやや看板とずれがあり、後半の全体の4分の3近くはトッド自身の半生記だったりして、それほどイギリス論でもなければEU論でもない。
そして、タイトルに対応する部分も、正直やや突っ込み不足の嫌いが。
この本でトッドが言っている反EUのイギリスというのは、典型的には今回労働党の党首に再選されたコービンみたいなスタンスに近い。
確かにそういう部分が重要であることは間違いない。
実際、国民投票のときに本ブログに書いたこの記事で指摘したように、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-e515.html (EUはリベラルかソーシャルか?)
近年極めてネオリベラル的色彩を強めているEUに対するナショナルなソーシャル勢力の反発という面は間違いなくあるし、それが今日のEU政治を解く一つの(あくまで一つの)軸であることも間違いない。
でもね、とりわけイギリスという複雑怪奇な相手には、そういう単純な軸だけでは行かない。トッドはやたらボリス・ジョンソンを褒めあげているけれども、彼のポピュリズムをポデモスやシリザと同列に置くことはできないだろう。
ネオリベラルなEUを嫌がるソーシャルなイギリスとソーシャルなEUを嫌うリベラルなイギリスのねじれながら結合した姿を、トッドは自分をイギリス通だと強調しているけれども、やや捕らえ損ねているんじゃなかろうか。
彼のいうグローバリゼーション・ファティーグ(グロバル疲れ)というのは確かにあるけれども、彼自身言うようにイギリスはアメリカと並んでその先頭を切って進んできた国であり、そしてまことに入り組んでいるけれども、イギリスの中の反EU論(少なくとも保守党内のそれ)のかなりの部分は、ナショナルな社会制度を壊しにかかるネオリベなEUに対する反発ではなく、市場志向の政策をやたらに拘束しにかかるEUの「レッドテープ」に対する反発というかたちで表現され、共感されているということもまた紛れもない事実なのだから。
正直言って、本書は余りにも「時論」として、よくわかっていない極東の一般大衆向けに単純簡明な筋道を示そうとするあまり、過度な単純化に陥ってしまったように見える。
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