9月21日、日本銀行が政策決定会合で金融政策の枠組みを転換した。
これは、日銀がサプライズの演出を通して2年で2%の物価目標の達成を目指した短期決戦型の金融政策から、市場とのコミュニケーションを重視した政策に方針を転換したことを意味する。
この方針転換は、日銀が、マイナス金利の悪影響、お金の供給量を増やせば物価は上がるという考えの限界を認めたことと言い換えられる。
この決定は、わが国の経済政策の枠組みの大きな転換でもある。どれだけ金融を緩和しても、景気回復を達成することは難しい。それは、4ヵ月続けて前年比マイナスで推移する物価、伸び悩む実質賃金を見れば明らかだ。
日銀がこれまでの政策の限界を認めた今、政府が成長戦略を推進し、潜在成長率の引き上げに尽力することが求められる。
日銀は金融緩和強化のための新しい枠組みとして“長短金利操作付き量的・質的金融緩和”を導入した。この政策は、短期と長期の金利水準を日銀がコントロールすることを目指している。日銀は、各年限の金利水準をつないだ曲線=イールドカーブの傾きを急峻にして金融機関の収益確保に配慮しつつ、金融緩和を続けることを決めた。
この政策には二つのポイントがある。
まず、日銀は「お金の供給量を増やせば物価は上昇する」と考える“リフレ理論”の限界を認めた点だ。
量的・質的金融緩和の導入以降、日銀は「量の拡大には限界がない」と主張し、一貫してお金の供給量(マネタリーベース)の増加を通して2%の物価目標を達成しようとしてきた。しかし、足許では4ヵ月連続で物価が下落し、物価目標は実現できていない。これはお金の量を重視した政策の限界を示している。
日銀は“総括的な検証”の中で、わたしたちの物価上昇への期待を引き上げることには不確実性があると明記した。つまり日銀は、2年程度で2%の物価安定を達成することが難しいと認めた。
そこで日銀は金融政策の持続性を重視し、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」金融緩和を続けるとコミットした。これは金融政策に対する一定の期待をつなぎとめようとする考えである。
2点目は、日銀がマイナス金利の悪影響を認めたことだ。
1月のマイナス金利導入以降、短期から40年までの各金利は急速に低下した。そのマグニチュードは日銀の想定を上回ったはずだ。
そして金融業界や金融庁は、マイナス金利に対する批判や懸念を表明してきた。2014年6月にマイナス金利政策を導入したユーロ圏では、収益低下から銀行の経営不安さえ出ており、世界的にマイナス金利への警戒は強い。
総括的な検証の中で、日銀は『金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある』と、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の弊害を認めた。
そして、金融機関からの批判や懸念に応え、一定の利ザヤ(長短の金利差)確保への配慮から、短期と長期の金利をコントロールする政策の導入に踏み切った。